第2話 プリンス・チャーミングとジュンス①~クラブ「パラダイス」のオークションとゲーム

「オークションの勝者が、

あなたで良かった」

と、プリンス・チャーミングは言った。


ジュンスはその言葉に、

「君はなんで、

こんなことをしているんだ?

とてもまともとは思えない」

と答えた。


「どんな理由があるかは

知らないけれど、

こんな仕事は

早くやめたほうがいい」

と言い捨てると、

部屋から出て行こうとした。


そんなジュンスに対して

プリンス・チャーミングは

「僕が気に入らないんですね。

でも・・・、もう少しこの部屋に

いてくれませんか?」

と、おどおどとした口調で言った。

「今、あなたが

この部屋を出て行くと

今夜、あなたが得た

僕というドールに対する

さまざまな権利が

その時点ですべて

消費されたことになります」


「だとしても、

何も問題ないと思うが・・・」


「僕には、大問題なんです」

とプリンス・チャーミングは

顔を曇らせながら言った。


「まだ晩さん会は

始まったばかりで、夜は長い。

世界中から集まった会員は

これから始まるゲームを、

とても楽しみにしているんです」


「どんなゲームを?」


「そのゲームは、

“ハイド&シーク”と呼ばれて、

ドールが隠れ、

それを会員が見つけて、

アバンチュールを

楽しむものなんだけど、

会員はそのゲームを

「ペット狩り」と

呼んでいます。


オークションで相手が決まったドールは別ですが、

それ以外のドールはすべて、

このゲームの対象となり、

「ペット狩り」の獲物ということになるんです。


あなたが部屋を出て行った時点で、

あなたのオークションの権利は

すべて消費されたことになり、

僕も狩りの対象にされてしまう。


その時を待っている会員も、

たぶん外には

たくさんいるはずです。


僕はこの部屋から

ルールで出れないことになっていますから、

会員にすれば、

簡単に見つけられる獲物なんです。


あなたみたいに良い人だったら

僕もうれしいけれど、

そうじゃない場合のほうが

今日は多そうだ。

さっきのオークション、すごく異常だったと

思いませんでしたか?」


そう言われてみると、

ちょっと異常な雰囲気があった。


「だから、できればこの部屋に、

とどまっていてほしいんです」

と、プリンス・チャーミングは

少し潤んだ瞳で

ジュンスに訴えた。


ジュンスは彼のことが、

嫌いなわけではなかった。

ただあまりにサーシャに似ていて、

つらくなるのだった。


「プリンス・チャーミング」は

髪の色が違うだけで、あとは

サーシャと瓜二つ・・・

と言ってもよいほど

よく似ていた。


「君の本当の名前はなんていうの?」

とジュンスが聞くと、

「それはルールで教えられないんです」

とプリンス・チャーミングは答えた。

ジュンスはその答えにむっとなり、

怒って立ち去ろうとしたのだが、

その時、プリンス・チャーミングが

ジュンスに抱きついてきて、

「あなたの好きな名前で、呼んでください」

と言った。


間近で見る少年は、本当に

サーシャと瓜二つで、

ジュンスは思わず

「サーシャ」と

呼んでしまった。

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