第3話 サーシャ
サーシャは、
ロシア革命で故国を追われた
ロシア貴族の末裔で、
高貴な血筋の少年だった。
しかし父親を早く亡くしていた。
豊かとはいえない家庭の
子弟だったのだ。
しかし成績は優秀で、
学費免除の
特別優待生だった。
ジュンスが留学した学校には、
悪しき伝統があった。
上級性が下級生を助け
特別指導すると云う名目で、
生徒会の長が
下級生の中から
生徒を選び、
自分の身の回りの世話をさせ、
代わりに勉強を教え
助けるというものだ。
しかし実情は、上級生が
指導名目で、
無理難題を下級生に押しつけ、
できなければ罰を与える、
残酷なものだった。
時にはいやがることを
無理やり強いることもあった。
ジュンスが留学していた学校の
生徒会の長は、そのとき
親の権力と財力をかさに
人を人とも思わないような
傲慢で横暴少年が
なっていた。
その生徒は、
自分より優秀な生徒を
許せなかった。
貧しい家庭出身の
優秀な生徒は、
退屈な学校生活で
たまリ続ける彼の鬱憤を
晴らすための
最高の生贄になった。
彼の光栄ある世話係に
任命された生徒は、
ひと月も満たないうちに
自ら学校を辞めてゆくのが
常だった。
人並み外れて美しく
聡明だったサーシャは、
入学してきたときから
彼の眼にとまり、
当然のごとく
彼の世話係に任命された。
ジュンスは何度か
サーシャが泣きながら
悪童のたまり場と化した
生徒会の部屋から
出てくる姿を
見ていた。
なんとなく気になっても、
学年も違い、
まだサーシャとの接点を
何も持ち合わせていなかった
ジュンスは、
ただ見ているしか
できなかった。
ある朝、試験前の練習をすべく
予約していたレッスン室へ行くと、
サーシャがレッスン室で
ピアノの練習をしていた。
ジュンスに気づいたサーシャは
「アッ、ごめんなさい。
今すぐ、出てゆきます」
と、謝った。
「いいよ、そのまま続けて・・・。
僕は、構わないから。
良かったら、君のピアノを
聞かせてもらいたいし・・・」
サーシャと話すうちに、
練習する時間が無くて、
今度の試験に
落ちそうなのだと云う。
そして試験に落ちたら、
優待生ではなくなり
学校を辞めなければ
ならなくなる、と云うのだ。
「落ちても、奨学金を
出してくれるという人は
いるんですけれど、
その申し出は
受けたくないんです」
と云った。
ジュンスは上級生だったし、
ピアノの腕も
学校では主席をとる生徒だった。
可哀そうになって、
サーシャにピアノの手ほどきを
少しばかりした。
サーシャは試験で
優秀な成績を残し、
優待生として
学校に残れるようになった。
それからときどき
誰もいない朝のレッスン室で、
ジュンスとサーシャは
一緒に
時間を過ごすようになった。
しかしそのことを
こころよく思わない者もいた。
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