第4話 エノガシオンの魔王

 ふわりさんが死闘の果てに倒したというエノガシオンの魔王。

 世界創造にも関わるとされるエンシェントドラゴン、古龍種を喰らい吸血鬼特有のデメリットスキル《血の渇き》《夜の呪い》を克服した、神話的吸血鬼。


「どうやって倒したんですか、そんな説明からして強そうなのを」

「ふわりさんは魔導院六大元帥の一人で、回帰魔法という固有の魔法が使える方なんです」

「魔導院六大元帥?」

「魔法使いギルドの教導機関にして管理機関、魔導院において六つの分野を統べる者の敬称です。でも、流石に一人で戦えた訳ではないんです」


 回帰魔法とは状態を戻す魔法。魔力を多く使用することでより過去の状態に遡ることができる。一瞬分の回帰魔法用の魔力を残して、他を全て魔法の一撃に充てる。そして魔力が全快の状態(一瞬前)に戻る。これを繰り返すことで無限に全力攻撃をし続けることができるという。

 もちろん、完全に戻るわけではなくて、体感の疲労――精神面だ――は蓄積されるらしい。


「ふわりさんの他に、戦ったという“でぃどり~む”……じゃなくて“デイドリーム”の初期メンバーというのは?」

 アイドル喫茶“でぃどり~む”はこの世界、アーカーシャにおいて魔法使いギルド“デイドリーム”という組織で運営されている。

 元々はエノガシオンの魔王を討伐する目的でメンバー(事実上の決死隊だ)を募りそのまま討伐後もギルドとして活動しているという。

「その一人が、夕霧太夫さんという方で、今、訪ねようとしている訳です」

「太夫?」

「東方エノガシオンで芸事に通じた識者です。エノガシオンでの隠れ蓑とセーフティハウス、それから資金源となってくれました」

「じゃあ、“でぃどり~む”のオーナーなんですね」

「あ、確かに」


 ユリエル、桜ケ丘百合たちが拠点としていたギルド“デイドリーム”の事務所は、大ロマリア帝国最大の貿易都市アレクサンドリアという西方でも有数の繁栄を誇る都市の一角に存在し、その二階に夕霧大夫が居を構えているという。

 東方世界の出身が所有する建物なだけあり、貴重な木材を主に使用しており観葉植物もテラスなどに植えられている。煉瓦や石造りが基本のアレクサンドリアでも外国人街はあるが、単独というのはそうはない。

 異国情緒のエスニック調。

「百合、その邪気を放つ隣人は」

 外に設置されている階段を登り、夕霧大夫の部屋に続く扉の前のテラス。

 僧侶の装束を身に着けたポニーテールの女性がいた。

「私が創ったアンデッドです。危険性はないのでお師様に会わせても大丈夫」

「不審な振る舞いをしたら斬ると宣言しておく。某の役目として承認されたい」

「セイメイさん」

「ああ…………もし君の大切な誰かに害を与えようとしたとき斬ってくれて構わない」

「分かりました。ではお通り下さい。お師様がお待ちです」



「――よく来てくれたでありんす。たった16段登るだけの距離なのに、会うのは二か月も前のことのように思えるでござりんすな?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生アイドル喫茶でぃどり~む ここのえ @coconoe03

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ