第3話 三匹の魔法生物
――演算空間の展開を限定停止。
――仮想動体の活動を保存し、霊体固定帯にて再構築開始。
――変数法則シミュレーター“でぃどり~む”との接続解除を確認。
つまるところ、異世界へと転移――あるいは転生することになった。
「ふむwwww脳内音声から推測するに、我々が現実世界と認識していた“でぃどり~む”のある世界が仮想現実で、そうではない世界こそ、本来の現実――」
「ああ、あれそういう意味なんですか。言われてみれば確かに通じる」
「なーんの話しているかさっぱりだわ!?」
「俺たちは仮想現実――仮に“でぃどり~む”をサーバー名だとすると、その世界のNPCという訳です、よね豚野郎さん」
「そのt――――」
「その通りです、皆さん」
先ほどまでメイドの仮装をしていたはずのユリエルと顔が似ている女性が、魔法使いがよく装備するとんがり帽子を目深に被り、こちらに語りかけていた。
声も似ている。
だが、身体的特徴はユリエルと一致するが三重苦の下手さは消し飛んでいる。だから彼女ではない。
完璧な推理。
「ユリエルちゃん」
「……それは店での名前で、私は桜ケ丘百合といいます」
推理が速効で破綻した。
「皆さんは本来ならば、仮想現実空間内に固定された人工霊魂。つまりあの魔力という要素を意図的に排除した原理法則で演算され運営している異世界にしか属せないはずの存在なのです」
「さーしゃ氏ww責任追及を求めますぞwwww」
「私は別に論理矛盾で自己崩壊しても良かったんだけど。それはそれで失敗用のデータが取れるし、個体差要因とか無いと立証できるし」
「でさ、サーバー上のデータにしか過ぎない私たちはさ、現実での体がないんじゃない? ならここにいる私たちは何で出来ているの」
「異世界を造る魔法――迷宮魔法――をかなり小さな範囲で使用することで空間連続体を形成しているの」
「ふわり!」
「ただ、この部屋から外に出ようとするなら霊魂を繋ぎとめる楔、身体が必要になるわ」
部屋とは、木造ホテルの一部屋のような落ち着いた空間。ただ収納、棚には数多くの書籍やガラス瓶の中に粉末や液体、小動物の剥製(死体か?)などが一応整理されて置かれていた。
まるで研究室だ。
「その身体とは即席で用意できるようなものなのですかな」
「完成度は低いけど、私ならスライム、サーシャならゴーレム、百合ならアンデットをこの場で作ることが出来るわ」
「ふわりはスライムか~」
「みかんさん、スライムは魔法生物の中でも原生生物として、生態系の下等な類ですが魔法で生命を生み出すというのはそれだけ困難な上級魔法になります」
「この中で一番簡単なのが私が作れるゴーレムね。そもそも私、魔法使いギルドに入ってるけど基礎魔法しか習得してないし」
「一度習ってぽいっていうのが、さーしゃ氏っぽいですな」
「ユリエル……百合さんはアンデッド?」
「
「あれ、ふわり、聞いていると私の負担やばいっぽいんだけど」
「どうして、みかんさんが既にスライムに取り憑く前提になっているか分かりませんが、実験用に誕生させるスライムに微弱でも霊魂を発生することないです。ただ内臓を機能させ、対象の霊魂に接続するのに多少の術者の負担があるだけかな」
「結局、俺の推しのが一番やばそうっていうことですかね。これは挑戦するしかねえ」
「……ご、ゴーレムでも良いんですよ。ちょっと錬金魔法や構築魔法は苦手で、失敗率が上がるかもしれませんが」
「被るのだけは御免です」「そ、そうですか……」
推しの作る体の方が良い。
という訳で、みかんさんと豚野郎さんの身体の生成は上手くいった。
問題は俺の身体だ。
「どれにしようかな……」
アンデッドだけはスライムやゴーレムと違い、死体から選ぶ必要がある。
「エノガシオンの魔王の死体! この場で用意できる最高の素材はこれしか無い!!」
「百合、その死体はふわりと“デイドリーム”の初期メンが死闘の果てに討ち取ったというあの――!」
「あれはそもそも霊媒としても上質だから、逆に危ない――!」
さーしゃさんとふわりさんが止めようとしたが間に合わない。
「動け死体、クリエイト・アンデッド!
取り憑け身体無き魂、カース・スピリット!」
「おお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
死体に吸い込まれるようにして、意識が揺れる。
力が、力が溢れてくる。
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