第7話 ある日 森の中 クマさんに襲われる
「マッテ「マ「マッテヨ」カナイデヨ」「オイテカナイデ」シナイデ」「ヒトリニ「選んで」ンデ「選ん「選んで」エラ「え「選んで」しを「ボクを「わたし「一人に」カナイデ」
「ぁああああああッ⁉ うっせ―んだよ⁉ 待たねぇし、選ばねぇよ! 追って来るな!!」
境が後方へと叫ぶが、一向に止まろうとしない人形たち。人形たちの走る速度はそこまで速くないから、今のところは捕まることはないだろう。
(――今のところは、な)
境は、足元を通過していく木の根に注意しながら、この勝敗について考える。
(今んとこは、疲れてないから大丈夫だが……。これが、何時間続いたらどうなる? ……やべぇな。確実に、俺の速さは遅くなるよな。対して、あっちは人形だ。疲れないのかもしれない。それに、さっきのクマの
「あれ? 終わってね? これ」
嫌な汗を浮かべる境であった。
俺、今日で2度死ぬのか⁉ と、走りながらガリガリと頭を掻く。
「諦め「諦めろよー」らいぜ?「辛いよ?「楽に「くになんなよ」「一瞬で終わ「終わるよ?」?」
「いやだよ、諦めねぇよ⁉ 絶対に諦めねぇからな?」
「実は「れる」帰れるんだよ「現実に」
「⁉ それは、本当か⁉」
人形たちの言った、その大きな情報に、境は目を輝かせた。
境の嬉しそうな声を聴いて、人形たちは続ける。
「でもさ「現実で「でも、辛い事」ばっかじゃ「じゃないの?「話くらいなら「聴いて」あげるよ?「義務教育とか「とかさ「理不尽な社会じゃ「かいじゃない?」思いも「嫌な「あんじゃないの?」
「…………」
「弱いも「者はとことん」されて「見放される「みんな、自分ばっか」嘘バッカ「ばっかり」それでいやな「嫌な思いもした「ことあんじゃない?」「聴いて「いてあげるよ?」
「……そんなこと、言うんだったら。今、俺を見逃してくれても――」
「「「「「だが、断る」」」」」
「なんで、そこだけ息ピッタリ⁉ すげぇムカつくんだけど⁉」
――そんなことを言い合っているうちに、何時間経過しただろうか。
境と、人形との鬼ごっこという、なかなかカオスなゲームは今も続いていた。
「はっ、はっ……。ぐっ……、しつけぇ……」
森の草木をかき分けながら、走り抜けていく境。
額の汗を腕でグッと拭った境は、後方を小さく振り返る。
そこには、境を追うように人形の大軍が押し寄せていた。
いぜん、人形たちの速さは
「はぁっ、は、はっ……。たく、こっちは人間だっていうのにっ。ずりぃだろ、やっぱり、それは……⁉」
さすがに、疲れをしらない人形たちに持久戦に持ち込み続けるのは、勝ち目のない戦いだ。自力で漕がなくてはいけない自転車と、いくらでも走れるバイクで競争するようなものだ。確実に
そこまで考えていた境は、ふいに脳裏にあることが浮かんだ。その思い付きに境はハッとする。もしかしたら、これが勝敗の分かれ目になるのかもしれないと言うように、目を一瞬輝かせた。
「そうだ、あいつらは攻撃力がほとんどないんだ! だから捕まっても――」
――シュン。
その時、自信満々に言っていた境のすぐ横を、風が通り抜けて行った。
「?」
境が不思議そうにその風の行き先を追うと。
一キロ先からでもよくわかる、ビルのように太く、見上げるほど高い樹が。その立派な樹が。
――シュゥゥウゥン…………
縦に一閃、線が入る。
――ズ、ズッッドォオオオオン
そして、真っ二つに分断された。分断されたそれぞれは、地面に倒れ、向こうでは
「…………え?」
つい、立ち止まって、言葉を失う境。顔を青くして、ガクガクとさせながら、後方を振り返る。
そこには。あの魔王のような
振り下ろしたということは。何かを振ったということで。
「………………え?」
もう頭が真っ白すぎて、口をぽかんと開ける事しか出来ない境。
そんな境は、あの倒れた樹の
コクリと、頷く人形たち。
もう一度、同じことをする境。もう一度頷く人形。
「…………弱いんじゃ、なかったのかよぉおおおおおおーーっ⁉」
「「「「「一番大切な事は、過去の自分を超えていくことである(キリッ)」」」」」
なんか決め台詞を吐かれた境は、余計な思考を取り払うように、ぶんぶんと
「ああ……、もう、クソ……。とにかく、このままじゃ……!」
(せっかく。帰れるかもしれなかったのに……! このままじゃ……、このままじゃ……⁉)
境の脳裏に、ちらつくもの。
それは、いつもおどおどしてばかりの彼。どぎつい香水の香り。燃えるような紅い髪。そして。
『――キョウ君』
お日様のような笑顔の――
境は一瞬、悩むように目を閉じて。
――目を、開ける。
境の雰囲気が、変わった。
「…………」
「お「お?」んだ「なんだ?「観念?」タタカウ「かうつもり「いい」いいよ」「来い「くなよ「倒す」やる」
そうほざいている人形たちに、ダッと一直線に走り出した。
「やってみろよ! 俺は、絶対かえってやる!」
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