第4話 とにかく盛り下がる教室で
盛り下がっていた。
とにかく、盛り下がっていた。
ここは、境たちの
そこの三階にある教室から、冷気が溢れ返っていた。
「……」
「…………」
「………………」
皆、各席に着席し。葬式にいるように黙りこくっている。
暗く、じめっとした思い空気が、教室中を囲い混む。
……と。
「えっと。その……。おーい、誰かやる人居ないのー?」
そんな沈黙の教室で、その声が響いてきた。
静かな場では、より
視線を机に投げ出していた生徒たちが、ほんの少し顔をあげる。と。そこには。
クラスメートの
困ったように眉をハの字にさせている真歩は教室中を見回しながら、もう一度生徒に問いかける。
「誰か、この種目に出たい人ー? 手をあげてー」
「「「………………」」」
しかし、その問いかけに。少し顔をあげていた生徒も、また気まずそうに目を落としてしまう。
誰も手をあげない。
「…………ぇえっと。……どうしよう」
さすがの真歩も、いつもは太陽のような明るい笑顔を曇らせていた。
「ジョブ戦祭のクラス
そう呟いて、ある机をちらりと見る。
その机は、自分の机の斜め前の席。今はその席の主は不在だ。
「……キョウ君、大丈夫かな」
あの幼馴染みの彼は、今は居ない。
朝には会ったのだが……。
「――あ。ぅう、またキョウ君に頼ろうとしちゃったよぉ。……うん。頑張んなきゃな!」
そう言って、沈みそうな気持ちを無理矢理に引き上げて。もう一度、クラスに問いかけを投げかけようとする。
「誰か! ジョブ戦祭に――」
「無理だよ」
しかし、真歩の言葉はその冷たい一言で
その遮った相手は。
カタリ、と静かに席を立ち、真歩と
背は、低め。
……いや、ずいぶん低い。男性なのに、真歩より少し低く、まるで中学生のようだ。
冷静の
童顔の顔に、少し切れ長の黒い瞳。
そして、知性を感じさせる眼鏡をかけている彼の名前は――。
「どういう事さ、無理って。――コトズネ君!」
コトズネ、と呼ばれた名前を彼は。ふんっと鼻を鳴らした。
「わかっているんじゃないか? 君ならさ。誰も出るはずがないじゃないか」
「……ッ!?」
「『ジョブ戦祭』。数年に一回だけのスポーツ行事。クラス対抗なんだってさ。それも、その成績がクラスメートの成績にも関係してきてしまう――となれば、そんな重大なこと出れるわけがない。そうだろ?」
そのコトズネの言葉に、
それをコトズネは、横目で流し見て。
それから真歩の方に、勝ち誇ったかのような視線を向ける。
「だから、成績優秀者から選抜して。劣っている者の分までやってしまえば良いだろ」
「……それじゃあ、参加できない人もいるじゃないか」
「ああ、そうさ。そう言っているんだ。足手まといは、いつになっても足手まとい。そんな人たちに、成績を下げられたくないんでね」
「そんな言い方……ッ!!」
コトズネの物言いに、真歩が今度こそ怒って掴みかかろうとしたときに。
ドタドタドタドタ……
そんな音が聴こえたような気がした。
真歩は、思わず音の方向――廊下の方に首を向ける。
「?」
ドタドタドタドタ。
いや、気がしたんじゃない。
音がしている。ドンドン近づいて来ている。
「な、何だ。この音……いや、足音かッ!?」
コトズネや他のクラスメートも気づいたらしく、廊下の方を直視している。
ドタドタドタドタ、……。
一時期の静寂。
そして。
――ドッ、ドォッタァアアアンッッ
いきなり扉が
そのまま扉は、バタンと倒れた。
「「「はッ!?」」」
教室中にすっとんきょうな声が上がるなか。
そんな
「うん、遅刻しなくてセーフだったな」
「「「いや、いろいろアウトだよ! レッドカード100枚ッ!」」」
「え? 何で? ……あ、ヤベ。扉壊しちまった。……よ。ほっ。ん……。あー、ちょっと折れ曲がってはめられねぇな。よし、こんなときは瞬間強力接着剤を――」
「「「やめろ! 出られなくなるだろうがッ!?」」」
いつのまにか出した接着剤を扉に塗りたくろうとする境を、クラスメートが死に
その様子を少し離れたところから見ていた真歩は、クスリと苦笑を
「あ、あはは。まったくもう、キョウ君は……」
困ったようにしながらも、楽しそうにキョウのもとへ走り出す。
境が教室の現れただけで、その場の凍っていた空気が、いくらか
そう感じた真歩は、自然に笑顔になった。
真歩は、
「おーい、キョウ君。やっと来たんだね! 朝、キョウ君が職員室に入っていったときは心配しちゃったよ。そのあと、先生たちがそこで会議するからって言ってたしさ」
「あれは会議じゃないだろ……」
「え? 何て言ったの、キョウ君」
うんにゃ、気にすんな。と境は手をふらふらと振りながら言う。
それから、思い出したかのように「あっ」と声をあげた。
「そーいやぁ、先生たちが『ジョブ戦祭』っていうのがあるって言ってたんだけどさ、何か知ってるか?」
その問いに、クラスメートたちは気まずそうに目をそらした。
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