第5話 転送
「―――ッ。お前みたいなやつは嫌いだ……ッ」
そう言って、境は元来たほうへ戻っていく。
振り返りざまに、視界の端に写ったあいつの顔は、いまにも泣き出しそうな顔をした。が、かまわずその場から出ていく。
戻った先では、胸に手を当てて境たちを見てハラハラしていた様子の真歩が待っていた。境が戻ってくるのを見ると、ほっとした様子になったが、同時に。
「キョウ君、言いすぎだよ!」
と、詰め寄ってくる。
けれども、それ以上はなにも言わない。
いつもならここで「全く。だからキョウ君は――」と、
どうやら、真歩も何か思ったようで。ここは見逃してくれるようだ。
辺りでは、嵐は過ぎ去ったと言わんばかりに少しずつ張り積めた空気がとけだし、元の賑やかしさを取り戻しつつある。
ふと、境が後ろを振り返り、元いた場所をチラリと見てみると。
そこには、ガクリと膝を落としたまま指の一本すら動かないあいつがいるのが見えて。
「……ちッ」
ほんの少しだけ。
ほんの少しだけ、言いすぎてしまったと思い直して。めんどくさそうに髪をガリガリと掻き、あいつに謝りに行こうとする。
その時。
「さぁ、時間よぉ! 始めるわぁ!」
バァンと部屋と同じく真っ白な扉が勢いよく開かれる。そこから現れたのは準備でいなくなったいたマイちゃん先生の姿があった。
「うわぁ。タイミングわりぃ。んでも、やっとか……ッ」
「そーだね。緊張するなぁ!」
目を
「ほらほらぁ、陣の中に入ってぇ!」
そう叫ぶマイちゃん先生は、両手を広げて生徒たちを中央にまとめていく。
そして、生徒たちが大きな魔方陣の中に皆入ったことを確認して「ウムッ」と大きく頷いた。
そして部屋中の生徒たちに聞こえるように息を吸い―――
「さぁ、カウントダウンを始めるわぁ!」
そう大声を張り上げて。
マイちゃん先生は「
「始まっちゃう始まっちゃう始まっちゃう…………」
「あーぁ。結局、あのゴミ使えなかったなー」
「はは、でもいい考えがあんだ。実は、【職業】に地図を……」
どこからか涙で震え
「
部屋の魔方陣が何重にも重なり。
更に眩しい光を叫びだし。
キイィィィィインと甲高い音をあげて回りだす。
それを、境はしっかりと見つめた。
「
視界が真っ白で埋め尽くされる前に。
真歩は小さくはにかむ。
「頑張ろうね。キョウ君ッ」
ああ、と。そう返事する代わりに大きく
それを最後に、境は意識を白い世界に手放した。
― ― ― ― ― ―
――――真っ白い世界。
なにもない白。
重力すらもない。
どこが天で、どこが地なのか。
ただし。自分の中に、それがある。
消えることなく紅く紅く
ガラリ………
真っ白いにヒビが入り。
少しずつ、少しずつ音をたてて。
また、崩壊していく。
そして。
真っ白い世界は――――
― ― ― ― ― ―
バッと、視界が明るくなる。
そのとたん境は目をカッと開眼させた。目の前には住宅街の景色が広がっている。
―――ブウゥゥン―――
「ん」
不思議な機械音を聴いて、後ろを振り向くと。少し遅れて境と同じクラスメイトらも転送されてきたのが見えた。
その中に大きなリボンをしたあの幼馴染みも転送されたのを境が見つける。
「よっ。遅かったな」
「え。なんでキョウ君そんな速いのさ?」
「さーな。そんなん知らねーよ」
そう言いながら境はふとあの白い世界のことを思い浮かべる。
「……転送中。なんか、不思議だったな……」
「ん? 転送中?」
境の呟いた言葉に真歩は首をかしげた。まるで「知らない」とでも言うように。
それに境は違和感を覚える。
「……はぁ? 転送中の真っ白いやつ、見てねえの?」
「えええ? だって、ボクら。ここにすぐに転送されたじゃん。なにも見てないよっ!?」
「…………!?」
本気で知らないと首を横に振る真歩に、境は困惑をする。
でも、自分は。確かにあの世界を見た。あの崩壊していく世界を見たのだ。
境は辺りを見回して、一番近くにいたクラスメイトに声をかける。
「……なぁ。転送中変なもの見なかったか?」
「え? 変なもの? 見なかったよ」
「………」
それを他のクラスメイトに質問しても、返ってきた答えはほとんど同じだった。
「………………どういう事だ?」
「あはは。キョウ君、ボケちゃって中二病発症したのかな?」
「死ね」
そう言って、境は真歩の頭を小突く。
すると「いたぁっ」と、声をあげ真歩は頭を押さえ少し涙目になった。
だけど、相変わらず真歩は、ニヤニヤとした楽しそうな表情。それに、境は
―――ブウゥゥゥンッ
「!」
ひときわ大きい機械音が境たちの頭上から聴こえた。
ハッと、目線をあげる。
そこには、空中に浮かぶようにして大きな半透明の長方形画面が浮かんでいた。
その画面は蛍光ブルーなのだが、そこにくりぬかれた白い文字が現れる。
待っていた文字が、はっきりと。
境の目にその文字が映りこむ。
『スタート』
そのとたん、ニッと口の端が自然に上がる。
「……え⁉ あ、待って、キョウ君⁉」
「悪いな、マフ。先に行かせてもらう」
静止の声を無視して、境はダン、と。
力強く地を蹴り出し。
あっという間に周りの生徒を出し抜き走り出した。
そして彼たちの――――境の初めての、しかしあまりにも残酷な『職戦重要ランクわけ試験』が始まりの歌を紡ぎだし始めた。
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