■21.異世界で働きます!

2019/2/9 句読点修正。

     文末語尾を幾つか修正。内容に変更無し。

     一部文章追加

2020/1/5 サーチ範囲変更 半径500→半径100

 詳細は下記URLで

https://kakuyomu.jp/users/vlowolv168/news/1177354054888403839

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朝日が昇り始め、小鳥がさえずる声で目が覚める。なんとも贅沢な目覚めだと思いませんか。

布団の温もりに少し名残惜しさを感じつつ、起き上がりカーテンを開ける。

まだ暖かさが恋しい季節。でももうすぐそこに春は来ているのを、木々に若葉が芽生え始めているのを見て実感する。

窓を少し開ければ露に濡れ、湿った空気が頬を撫でた。

寒い、とは感じるけれど、心地よい清涼感溢れる空気に部屋が満たされる。

思いっきり伸びをして気合を入れる。

そう、今日は異世界で初めての出勤日!


レストランの開店時間は午前10時。

私はウェイトレスとして働くので通常なら9時半から仕事となるのだが、今日は初日のため9時に出勤することになっている。

8時半。支度を済ませて家に鍵をかけ、前回と同じく森の出口付近までいっきにワープする。

一瞬目の前が歪み、双眼鏡のピントを合わせるように目の前の景色がクリアになる。

まだちょっと不慣れなタッチ&ゴーで城下町に入り、そのままレストランへ向かって歩いた。


因みに、この世界にも「時計」は存在する。一日は24時間で区切られており、1時間は60分。1分は60秒。

地球と同じような時計盤が使われている。

もしかしたら昔、地球から来た人が伝えたのかもしれない。

しかし動力は電池ではないと思う。何で動いているのかはまだ謎だ。

やっぱり魔導?地球から伝わった時代によってはネジ式も有りうる?

レストランでも見かけたし、広場にもあったけど…そのうちお店に売られているのを見に行ってみようかな。


森の出口からレストランまでは検問所を入れて20分くらい。指定された時間のおよそ10分前に到着できた。

面接の日に教わった従業員用の入口から中に入る。

すると、ちょうど反対側のドアから茶色に近いオレンジ色の髪色をした女の子が部屋に入ってきたところだった。


「おはようございます」

「おはようー。あなたが今日から働く人ね。私、ここのオーナーの娘のアルティよ。よろしくね」


アルティさんはそう言うとにっこり笑ってくれた。


「はじめまして、ユカリ・ムラサキです。よろしくお願い致します」

「そんな畏まらなくていいわ。私も同じホール担当として働いてるから、仲良くしましょ」

「はいっ」

「丁度良かった。あなた用の制服を持ってきたところだったのよ。こっちの部屋が女性用の更衣室。来てちょうだい」


そう言うと、ユカリから見て右側のドアを開け、中に入っていった。

ドアにはピンク色の星型の模造花がつけられた可愛いリースが掛けられている。

反対側のドアを見れば、色違いで青色の模造花がついたリースが掛けられていた。

お客さんが見ない場所までも可愛らしい。


「早くおいで~」


アルティさんの声が聞こえて慌てて中に入る。

従業員用の入口から入ったところにある部屋は8畳ほどの広さで椅子とテーブルが置いてあったが、こちらの部屋は6畳ほどで壁に荷物置きの棚、所謂ロッカーが設置され、姿見用の鏡が立て掛けられている。

ロッカーは鍵もかかるようになっていた。


「棚はここを使ってね。個人ロッカーだから毎日持って帰るのが面倒なものとか置きっぱなしにしてる人も結構いるのよね。食べ物の入れっぱなしはもちろん厳禁よ。制服はこれね。サイズ、合うと思うんだけど。とりあえず私はさっきの部屋にいるから、着替えたら声掛けてね」

「はい、分かりました」


そういうと彼女は部屋から出て行った。

制服は肩口がふんわりと膨らんだ黒で無地の足首まである半袖のワンピース。襟元には白く丸い襟がついている。

その上から薄いベージュが基本色の、茶色とアクセントでピンク色の入ったタータンチェックのエプロン。チェックは大柄。

エプロンは首の後ろと腰に茶色のリボンがついており、ちょうちょ結びをする。

裾にはリボンと同じ生地で茶色のフリルがついている。

姿見でおかしなところが無いかチェック。

尚、髪型は飲食店なので清潔感を意識して結い上げてきた。


「どうー、着れたー?」


アルティさんの声がしたので慌てて返事をする。


「はいっ、着れました」

「入るね~。わぁ、良かった。とても良く似合ってるじゃない!」

「ありがとうございます」


似合うと言ってもらえて少し照れる。

可愛い制服なだけに、似合うかとても心配だったのだ。


「半袖なんて寒いと思うかもしれないけど、袖があると邪魔だし、何より長袖だとそのうち暑くてたまらなくなくるのよね。お店の中はずっと暖かいし」


そう言いながらユカリのリボンの結び目などをチェックする。


「うん、大丈夫そうね。それじゃ少し早いけど、先にコックたちに紹介するわ。着いてきて」

「はい!」


コックさんたちは仕込みがあるため、朝の8時には仕事が始まる。

彼らはミーティング時、代表の一人しか参加しないために先に紹介してくれるとのこと。

私たちホール担当…所謂ウェイトレス、ウェイターは昼組、夜組と二種類に分かれているが、コックさんたちは朝組、昼組、夜組、と分かれている。


コックさんたちに紹介された後、二階の応接室に連れて行かれた。面接したあの部屋。

今日は初日の為、基本的な事の勉強が主な仕事内容となるらしい。つまり接客の練習とかメニュー覚えたりとか。


「ユカリは昼の部担当だから、ここからは昼の部のホール責任者をしてもらってるロッシュさんに色々と教わってちょうだい。多分そろそろ彼も来てるはずだから、呼んでくるわ。ちょっと待っててね」


アルティさんが部屋を出て暫くすると、コンコン、というノックの後に、オーナーのアランさんと男性が一人部屋に入ってきた。

多分この男性が先ほどアルティさんが言っていたホール責任者の人だろう。

椅子から立ち、二人にお辞儀をする。


「本日よりお世話になります。よろしくお願い致します」

「こちらこそ宜しくお願いします。制服、よく似合ってますね。仕事もしっかり頑張ってくださいね」

「はい、ありがとうございます。頑張ります」

「さて、こちらの男性を紹介します。彼は昼のホール責任をお願いしています」

「ロッシュ・カフミルだ。ロッシュと呼んでくれ。今日は一日教育を担当するのでよろしくな」


そういうとロッシュさんはニカっと笑った。

おそらく年上だろうけど、笑い方の可愛い人だと思った。

ロッシュさんは黄緑色というかエメラルドグリーンのような髪色にオレンジ色の瞳で、アニメに出てきそうな色合いだけど地毛のためか違和感が全く無かった。

髪型はウエイターらしく短く清潔に切りそろえられている。横が少し刈り上げられてるからベリーショートかな。

身長も結構高そうだ。おそらく185センチくらいはあるんじゃないかな。

身体は細身。それでも頼りない細さじゃなくて、モデルさんのような綺麗に引き締まっている細さ。

うわぁ、この人モテそうーと思ったのは内緒にしておこう。


「ユカリ・ムラサキです。こちらこそ、宜しくお願い致します」

「じゃぁロッシュ、後は頼みました。サティは昼頃に顔を出すそうです。他の従業員にも紹介しておいてね」

「畏まりました」


そういうとアランさんは部屋から出て行った。


「では、早速始めるぞ」

「よろしくお願いします」


そしてマンツーマンのウェイトレス講習が始まった。

まず最初に基本的なルールから。

休憩時間のとりかた、休憩所の使用方法や制服の管理方法など。制服は一人2着ずつ配給され、洗濯は各自で。

何か不都合があればその都度相談すること、など。


そこまで説明が終わったところで、時間は9時半となっていた。


「今からオープン前のミーティングがある。そこでお前を紹介するからな。まぁ気張らずに適当で大丈夫だ。取り敢えずホールに行くから着いて来い」


ロッシュさんは言葉遣いは乱暴に聞こえるかもしれないけど、表情がとても優しくて全然怖い感じは無い。なんというか、兄貴と呼びたくなる感じ。

そんな兄貴ロッシュさんの言われるまま後ろをついていき、レストランのホールに向かう。

そこにはウェイトレス3人、ウェイター1人、先ほど挨拶したコックさんのうちの1人がいた。

ミーティングはロッシュさんが取り仕切って開始された。


「全員揃ってるか?ミーティング始めるぞ。大丈夫そうだな、おはようございます」

「「おはようございます」」

「今日から入った新しい仲間を紹介する。ユカリ・ムラサキさんだ」


紹介され、一歩前に出る。


「おはようございます。本日より皆様と一緒に働かせていただくことになりました、ユカリ・ムラサキと申します。一生懸命頑張りますので、皆様宜しくお願い致します」


ぺこりとお辞儀をすると、パチパチパチと皆から温かい拍手をいただいた。


「コックは先に紹介をしてあると思うので、ホール担当者は軽く自己紹介をお願いします」


ロッシュさんがそう言うと、アルティさんから順に4人、自己紹介をしてくれた。


「さっきも言ったけど、改めまして、アルティ・ベルベスです。昼の部のホール担当です。よろしくね!」


可愛らしくウインクまでしてくれた。

次に水色の髪に緑色の瞳の女性が一歩前に出た。

この子、身長が私と同じくらいだ。私よりちょっとだけ高そうだけど。


「昼の部ホール担当のミンシア・イブンです!お願いしますっ!あっ、噛んじゃった。よろしく!ね!!」


とても元気いっぱい、といったイメージ。ちょっと照れながらもニコっと笑ってくれた。笑顔が眩しいとはこのことね。


「昼だけではなく夜もホールに出ることがあります、カーティ・フルレイです。よろしくお願いします」


アッシュピンクの髪にグレーの瞳の、ぱっと見おっとりした雰囲気の女性。

ふわりと優しく笑いかけてくれた。

夜もホールに出るのが意外な雰囲気だと思ったけど、何かしら事情があるのかもしれない。


「昼の部ホール担当のカエン・マクシーです。よろしく」


茶色の瞳に赤毛をシンプルなヘアバンドで後ろに流し、どこぞのアイドルか、という見た目をしている。

挨拶は素っ気無いが、ニコニコしていて人当たりが良さそうだ。


今日いないメンバーやこれから出勤してくる人もいるらしいけれど、それはまた都度紹介してくれるらしい。

紹介してもらった後は連絡事項の確認等が行われた。

本日のオススメメニューの紹介、注意事項など。


「それでは、本日もよろしくお願いします」

「「よろしくお願いします」」


ロッシュさんの締めくくりの一言に全員が応えると、それぞれの仕事に分かれていく。

私とロッシュさんも先ほどの二階の部屋に戻り、ウェイトレス講座の続きを行った。


内容は基本的な挨拶からメニューの紹介、お盆の持ち方、配膳方法などなど。

メニューは今日から出勤日は毎日、昼と出来れば夜もレストランの料理を食べて自ら味と見た目を覚えるように言われた。

料金は従業員価格でかなり格安になっており、次回のお給料から引かれるらしい。

無一文なので即払いじゃなくて助かった。


早速お昼に食べさせてもらったのは、店で一番人気のメニューで「ランラン鳥のマット煮」。

「ランラン鳥」とは、ランラン♪とスキップしているように飛び回る鳥で、家庭でも一般的に食べられる鳥らしい。

トマトのようなもので煮込まれており、ほくほくとした豆と一緒に煮込まれていて、少しスパイシーでとても美味しかった。フランスパンのようなちょっと固めのパンとよく合い、パンにソースを絡めて食べるのもまた美味しかった。


昼食後にオーナーのアランさんが奥様と一緒に部屋に来て、コーヒーを振舞ってくれた。

そこで奥様の紹介もしてくださった。

先に自己紹介すると、奥様はこちらを見てニコニコとしながら口を開いた。


「あら、本当に可愛らしい子ねぇ。はじめまして、サティ・ベルベスです。この店のおかみをやらせてもらってるわ。主に買い付けとか経理の方ね。後は従業員たちのケアなんかも。ユカリさんも何か思うところがあったら遠慮なく私に言ってちょうだい。娘のアルティに伝言でも構わないわ」


少し恰幅のいい奥様はとても優しげで、それでいて溌剌としている。

アルティさんの雰囲気はお母さんそっくりだな、と思った。


アランさんは面接時にコーヒー好きだと言っていたのを覚えていてくれたらしく、豆の説明などもしてくれた。

これから時間あるときにちょくちょく教えてくれるらしいので楽しみだ。


その後はまたロッシュさんによる講座があり、一日が終わった。

久し振りの仕事は心地よい疲労感があった。

まだ研修段階なのでこれからが本番だけど、みんな優しくて素敵な人ばかりだった。

楽しく頑張っていけそうだ。


帰りはまたタッチ&ゴーで城下町から外に出て森まで歩く。

辺りは暗いので懐中電灯代わりに頭上に「ランタン」を発動させ、自分についてくるようにしてみた。

こうすればずっと外灯の下を歩いてるように明るい。


森の入口でふと、使ったことのない魔法を思いついた。うまくいくかな?

なんとなく両手を前に広げて呪文を唱える。


「自分を中心に半径100メートル、サーチ」


すると、おそらく半径100メートルであろう地理が脳内に表示され、さらには生き物の位置までもが手にとるように分かった。

これは鳥、リスのような小動物、ウサギのような小動物…周りに人がいないのを確認できた。

よし、大丈夫そうだ。

ランタンの光をゆっくりと消してから帰りの呪文をつぶやく。


「山小屋までワープ」


そういうと、すっかり見慣れた異世界側からの山小屋が目の前に。

これから通勤時はサーチとワープがセットで活躍しそうだ。

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