■18.魔術師の棟
お昼ご飯をたっぷり堪能し、ベルナルドさんにご馳走していただいたお礼を言ってから今度こそ登録カードを作るために魔術師の棟へ向かう。
魔術師の棟は王城の一角にあり、街の中央広場から巡回馬車に乗って王城入口まで行くことが出来た。
王城の入口には、城下町の入口と同じような門があり、再び入行検査が行われる。
つまりタッチ&ゴー。
私はベルナルドさんが入国許可証を出してくれたので何もすることもなく、通されるのを待った。
イメージ的には改札の端っこにある駅員さんが立ってるところの横を一日乗車券とかを見せて通る感じ。
とは言っても、タッチ&ゴーする場所は両脇に兵士さんが立っているので、駅の改札よりももちろん厳重。
改札…じゃなかった、門をくぐると、目の前には洋画で見るような立派なお城がそこにあった。
全体は真白く、とんがり屋根だけは青色をしている。森と泉に囲まれてないけどまるでブルーシャトウ。いや、暗くも淋しくもないけどね?
何でこの歌を知ってるかって?お父さんがお風呂場でよく歌ってたからだよ。
閑話休題。
目の前にはお城へ続く真っ直ぐな道。幅も馬車が余裕で通れる広さがあるが、歩いている人しか見かけない。ここは馬車とか禁止なのかな?
この真っ直ぐな道だけで五分は軽く歩いたと思う。
お城が大きいから近いように見えるけど、まっすぐ伸びた道は思ったより距離があった。
道の両脇は綺麗に整えられた芝が広がっている。時折小さい花も見かけて可愛かった。
まっすぐな道が終わり、お城に入ったかと思うと今度は到底覚えられる気がしない迷路のような道を、ベルナルドさんはすいすいと歩いていく。
綺麗に手入れされたとてつもなく広い庭のような場所を通り抜け、渡り廊下のような所を進むと一つの確立した建物に着いた。
入口の兵士にベルナルドさんが何やら言うと、中に通された。
「ユカリ、ここが魔術師の棟です。一階は事務的な雑務を行ってますが、それ以外の階では魔術研究や魔導具開発などがされています。魔術師のカードは一階で作るそうですので、奥の部屋へ行きますよ」
「は、はいっ!」
「少し緊張してますね。大丈夫ですよ。私も中までついていきますから」
にっこりとほほえみ、また頭を撫でられた。
取り敢えずこくん、と頷いておく。
頭を撫でられて少し落ちつた自分に気づき、子どもかっ!と自分に心の中でツッコミを入れた。
正直ベルナルドさんといると精神年齢が幼くなっている気がする。
自分もっとしっかりせねば。
チャラオからジェントル改め先生からのお兄ちゃん属性。ベルナルドさん恐るべし。
案内の人の後ろについて部屋に行くと、応接室のような部屋だった。
促されるがままに椅子に座り、次の指示を待つ。
ベルナルドさんは私の斜め後ろに立っている。
まるで自分専属の騎士を連れている気分になる。
うっはぁ、何様だろう自分。でも嬉しくてついにやにやしてしまう。今正面に誰もいなくて良かった。顔が崩れているのは自覚している。誰かが来る前に顔を引き締めなくては。
そんなこんなアホな事をしていると程なくして、黒髪長髪に方眼鏡を掛けた細身の男性が部屋に入ってきた。
一度立ち上がってお辞儀をすると、座るように言われる。
あ、この人黒髪かと思ったけど濃い緑色なんだ。光に当たった部分だけ深緑色に光って見えた。
「はじめまして。本日担当させていただきます、カイト・コンツ・アポティートと申します。魔術師の棟副事務長をさせていただいております。よろしくお願い致します」
一般人の私相手なのに丁寧に自己紹介をしてくれた。
椅子に座ったまま、ぺこりとお辞儀をして自分も自己紹介をする。
「はじめまして。ユカリ・ムラサキです。よろしくお願いいします」
事務の人、というだけあってか、無駄話は特に無く淡々とカードの説明をされた。
その内容は道中ベルナルドさんが教えてくれた内容そのままだったので、おさらい気分でふむふむと話を聞く。
途中何度か、私が理解できているか確認しながら話を進めてくれた。
学校の先生にマンツーマンで教えてもらっている気分になってきた。ベルナルドさんが予習させてくれていて良かった!
「それでは、こちらのオーブに手を重ねてください」
話が終わると、円形の水晶玉のような球体が目の前に置かれた。
球体の中には、星型のお花のようなものが見え、その周りをキラキラしたものがぐるぐると回っており、ものすっごく綺麗だと思った。キラキラとした光は色んな色をしている。まるで宇宙がその中にあるようにも見える。
あれ、このお花、どっかで見たことがあるような…。
んー?と考えていると、球体に片手を乗せるように促された。
ドキドキしながら球体に右手を伸ばし、手のひらを乗せる。
その瞬間、オーブはまばゆい光を放ち、思わず目を瞑った。目を閉じていても眩しい。
「これは…!!」
副事務局長さんの驚いたような声が聞こえた。
え、何?普通の人も光るんじゃないの?
「ムラサキさん、手をオーブから離していただいて構いません」
そっと手を離すと光は消えたが、まだ目はチカチカとしていて視界がなかなか元に戻らなかった。
やっと視界が戻り、目をこすっていると副事務局長さんがこちらをじっと見ていた。
方眼鏡の下は素敵なとび色の瞳だと思った。
いや、そんなことはどうでもいいか。この国はイケメンが多すぎやしませんか。
「あなたは未知なる力を秘めているようですね。このオーブは、手に触れた者の属性を色にして見せます。火の属性なら赤、水の属性なら青、複属性なら二色、三色、といった具合です。あなたは虹色のように見えました。こんなにカラフルな人ははじめてですよ」
そう言って珍獣でも見るかのようにじっと見られた。しゃべり方は淡々としているが、目の奥に好奇心がいっぱいと書いてある。
背筋がゾクっとした。
実験前のカエルってこんな気分なのだろうか。
「それで、カードは出来たんですか?」
私が謎の寒気で腕をさすっていると、ベルナルドさんが副事務局長さんに聞いた。
なんかいつものベルナルドさんより少ししゃべりかたがきつい気がした。
「ええ…登録は無事に終わりました。発行まではもう少しこちらでお待ちください」
そう言って副事務局長さんは一旦部屋から出て行った。
ふぅーーーっと息を吐き出していると、ベルナルドさんがクスリと笑った。
「ユカリ、すごい色でしたね」
いつものベルナルドさんの声音にホッと安心する。
さっきは一瞬ちょっとだけ怖かった。
「私には眩しいことくらいしか分かりませんでした。カラフルだったんですか?」
「ええ、空にかかる虹のようで、とても綺麗でしたよ。まるでユカリそのものの美しさのようでした」
ここで私が赤面したことを誰が咎められよう。
日本人になんてことをアッサリ言うんですかね、まったくもう。ベルナルドさんのチャラモード復活。
暫くすると、副事務局長さんとお盆のようなものを持った女性が部屋に入ってきた。
女性が四角いお盆のようなものをテーブルに置くと、中央に免許証のようなサイズのカードが置いてあった。
「こちらがムラサキさんの登録カードとなります。先ほどお話したとおり、魔術師と一般のカード内容が登録されています。こちらにガイドブックもありますので、分からなくなったらお読みください」
そう言って冊子を一冊くれた。
後でじっくり読んでみよう。
カードを手に取り、よくみて見る。
サイズは免許証と同じくらい。
そこに名前、性別、年齢などが表示されている。
自分からはよく見えるが、どういう訳か他の人から内容は見えなく出来ているらしい。
持ち主が見せようとしない限りは見えない仕組みだと聞いたが、不思議だ。
取り敢えずこれをじっくり観察するのは後にしようと決め、持っていたカードケースに仕舞おうとすると、ベルナルドさんが「そういえば」と言った。
「ユカリ、カードは身につけられるんですよ。説明してませんでしたね。当たり前すぎて忘れてました。私の場合は指輪にしてます。ほら、中指のこれですよ。普段はアクセサリーとして持ち歩いてる人が殆どです。濡れても大丈夫ですし、壊れることもありません。男性ならバングル、女性ならブレスレットにしてる人も多いですね」
「えっ、そんなことが出きるんですか?」
「はい、試しに何かアクセサリーになるようにカードに念じてみてください」
カードを両手で持ち、言われた通りアクセサリーを想像する。
しかし何がいいかな?
アクセサリーって普段あんまりつけないし。
それならピンキーリングなら邪魔にならないかな?
そう思った瞬間、カードが目の前から消え、右手の小指に蔦の模様をした指輪が小指にはめられていた。
星型で小さな宝石のようなものもついていてとても綺麗だと思った。
しかし、これを再度カードとしてみたいときはどうするんだろう?と思うと、再びカードがシュっと現れた。何これ超便利。魔法の世界万歳。
そしてまた指輪に戻る。
指輪の状態で指から外そうと引っ張ってみたが、ぴくりとも動かなかった。
「やり方、わかりました。ありがとうございます。これなら失くす心配も無いですね」
「ええ、それではもう城下に戻りましょう。帰りが遅くなってしまいますよ」
そう言うと、挨拶もそこそこに魔術師の棟を出て帰宅することになった。
帰りは初、タッチ&ゴーを城門でやった。
初めてはちゃんと通れるかちょっとドキドキしてしまった。
ちゃんと通れたことに感動していると、ベルナルドさんに頭を撫でられた。
うん、なんかもう撫でられるのに違和感が無くなってきた。
城下町の門まで行くと、さっきのお馬さんが横向き座り用の鞍をつけて待っていてくれた。
同じ子で往復させちゃって疲れないのかな、大丈夫かなと心配になったのでベルナルドさんに聞いてみたところ、軍馬なので心配ないですよ、と言われた。
また、この子はベルナルドさん専用の軍馬だそうな。
所属する隊にもよるけど、暁隊は基本的に一人一頭の軍馬がいるとのことで、他の馬に乗ると逆に軍馬が嫉妬することもあるらしい。
やばい何それ可愛い。
二人乗り用の鞍は前の人は横向き、後の人は通常通り跨いで座るように出来ている。
二人乗り用の鞍にも色んな種類があるらしいけど、女性を乗せる場合はこの形が一般的らしい。が、ベルナルドさんは最初間違えた鞍を着けてきた。だから先ほどあんだけ平謝りしていたのか。
ということで、帰りもベルナルドさんにぺったりくっついて送ってもらいましたよ。
もぉね、レストランで聞いてたから覚悟してたしね。
なんていうか、街を出ちゃえば他に人もいないのでそこまで恥ずかしくもなく帰れました。
慣れって怖い。
行きは3時間半かかった道のりも、帰りは鞍が正しいものになった為か3時間弱で山小屋に着いた。
それでも辺りはすっかり暗くなっていた。
お馬さんにも休憩が必要だし、いい時間なので夕飯をご馳走することにした。
とはいえずっと出かけていたから大した料理も作れず、簡単なトンテキとポテトフライ、サラダとバターライス。
それでもベルナルドさんは喜んで食べてくれた。良かった。
そして今晩は和食!という計画は明日へ持ち越された。
食後、お馬さんに軽く癒し魔法をかけてからベルナルドさんを見送った。
夜道は危ないから泊まりますか?と聞いたら
「これくらい慣れてるので大丈夫ですよ。それよりそんなに簡単に男を泊めてはいけませんよ」
と軽く怒られてしまった。
そりゃそうか、と言われて初めて気がついた。どこに行った、私の警戒心。
すみません、と謝ると、頭をまた撫でられた。
「それではまた、戸締りしっかりしてくださいね」
そう言ってベルナルドさんは帰った。
暗いのですぐにその姿は見えなくなったが、暫くそのまま見送っていた。
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