■17.先生、登録カードって何ですか?

おんまはみんなパッパカ走る?

このお馬さんはトスットスッってカンジだよ。

土の上だから音が違うのかな?

さて、そんな事を考えられるくらいには余裕が出てきましたが、相変わらずベルナルドさんにぺったりくっついて森の中をお馬さんに乗って走行中。


一回目の休憩後から、ベルナルドさんはこれから登録するカードについて色々と教えてくれた。

登録カードには色んな種類がある。

一般カード、一般ステータスカード、魔術師カード、騎士カード、商業カード、傭兵カードなど。

一般カードは役所か教会に申請すればどこでも発行してもらえるし、発行手数料も無い。

発行できるのは10歳以上。

このカードを持っていないとアルバイトが出来ない。

持っていない人を雇うと雇い主は罰則を受けることになる。

ただし、家業のお手伝いや、お祭りなどのお手伝いくらいならカードが無くても問題ない。


10歳ってまだ子どもだし、働くの?って思ったんだけど、技術職で誰かの弟子になったりするのにもこのカードが必要らしい。

確かに、職人さん的なお仕事は少しでも早く弟子入りしたいよね。

それに農家のようなおうちの場合、もっと幼い、それこそ3歳とかで手伝い始め、5歳には既に立派な戦力だったりするらしい。


どのカードも共通で自分の基本的な情報である名前や性別、年齢や職業が表示される。

何か異常が付与されていると、それも確認出きるらしい。毒とか麻痺、とかね。

後は加護や呪い、なんていうのも表示されるから、呪いがわかったらすぐに教会でお祓いしてもらうんだって。

先ほども出てきた「教会」という場所。多分これは知ってて当たり前の知識だと思うので聞かないことにした。後で自力で調べてみよう。


検問所を通るのには何かしらのカードが必要で、そこでは犯罪歴の確認をされる。

犯罪歴はどういう仕組みなのかは教えてもらえなかったけど、隠すことが出来ない。

ただ、ちゃんと罪を償った人には償い済みであることも表示されるとか。でも、過去の犯罪歴は消すことは出来ない。

指名手配中の犯罪者は、その条件に近い人が重点的にチェックされるらしい。


カードを持っていない人は、近くの教会や役場のある町で一般カードを作って出直さなければならない。

尚、カードの作れない10歳以下はカードを持っている保護者が一緒なら問題ないとのこと。

ただし、書類に必要事項を記載したりという手続きがある。


あれ?私も持ってないけど大丈夫なの?って思ったら、今回は王国から特別入国許可証が発行されていて、それをベルナルドさんが持っているので大丈夫だと言われた。

一瞬ほっとしたけど、国から直々に許可証が出てるとか、カード登録を断っていたらどうなっていたのかを考えると少し怖くなる。

強制ではない、つまり任意とは言われたけど、何やかんや理由をつけられて、結局登録する事になったような気がする。

最初から素直に着いてきて良かった気もするし、早まってしまったのではないかと少し不安にもなる。

まぁ、ここまで来てしまっては仕方がない。取り敢えずは身分証明となる登録カードを作る為。異世界の街をしがらみなく堪能する為には必要そうだから、長いものには巻かれてみよう。


さて、私が登録しようとしているカードは「魔術師カード」

魔術を主とした職業の人、または三属性以上の属性を持ち、かつ一定より高い魔導力を持つ人が持つことの出来るカード。

魔術を主とした仕事をしていない人は報告義務も登録義務もないから、私のように魔術師カードを持たない魔術師もたまにいるらしい。

「一般カード」を持っていても「一般ステータスカード」を持っていない人の場合、自分のステータスを知らず、魔術の才能があると気が付いてない場合もあるそうだ。


登録する場所は王城内にある「魔術師の棟」と呼ばれる場所。

発行や登録は王城内にあるこの魔術師の棟でのみ行われる。

因みに騎士のカードも王城でのみ登録が可能。

一般カードと一般ステータスカードは国から委託されているので役所と教会で発行が可能。

商業ギルドや傭兵ギルドはそれぞれのギルドで発行または登録。こちらも国に委託されいる。

そして登録されたデータは教会が全て管理し、国、文化など関係なく、分け隔てなく平等に厳しく管理している。

ただし、どこの国の管理下、というのはあるらしい。

ややこしや。


人によってはカードが数種類必要となるが、何枚も持つわけではなく、一枚持っていればそれに上書きをしていく。

内容提示を求められた時には、自分でカードの種類を切り替えて表示させる事が可能。


一般カードと一般ステータスカードの違いは、一般ステータスカードには名前の通り、ステータスが表示されること。

レベル、体力、魔力や属性などの事細かなステータスが表示される。

一般カードは無料で発行してもらえるが、一般ステータスカードは少しだけどお金がかかる。

騎士や傭兵、魔術師を目指す人が自分の力や傾向を確認するために一般ステータスカードを作るらしい。


一般カードを持たない人が魔術師、騎士、商業、傭兵などのカードを新規に作る場合、最初から一般カードも付与される。

そのため、私の場合は魔術師のカードを作れば一般カードもついてくる、という訳だ。

一般カードを持たないで他のカードを作る人は稀らしいが。


登録カードはそのまま銀行で使用することが可能となっている。

お金を預けたり引き出したりもこのカードで行う。

何でもこのカードで出来てしまうので、盗まれたら怖いですね、って言ったら、その心配は無いと言われた。

カードは持ち主にしか使用できないようになっている。

擬態したり、持ち主の身体を乗っ取っても無理だという。その原理はベルナルドさんでも分からないとのこと。

安全性は守られてる、そう思えばいっか、と考えるのをやめた。


二回目の休憩もはさみながら、ものすごく丁寧にカードの説明をしてくれた。

ベルナルドさんの話はとても聞きやすい。

学校の先生、というより要点をまとめた塾の先生の話を聞いている気分だ。

出来の悪い生徒が分かるように、分かりやすい言葉で説明してくれている気がする。

チャラオからのジェントル改め、先生と呼びたい。


気がつけば、先日見たのと同じ景色となっていた。

森が終わり、道の先には街が見える。

改めて遠くからじっくり見ると、とても大きい街だということが分かる。

城壁は石造りで、ビル五階分くらいの高さはあるのではないだろうか。

四輪馬車が余裕ですれ違えるサイズの大きい門は開かれ、そこに検問所があった。


検問所まで馬に乗ったまま行くと、すんなり中に通された。

ベルナルドさんはカードらしきものを丸い球体にタッチしていた。

あ、これ駅の改札と同じだ。タッチ&ゴーってやつですね。

因みに騎士カードと魔術師カードは王城内でしか登録できない代わりに、こういう検問所では一般列に並ばずに専用の入口があり、時間がさほどかかることなく出入りすることが出来るという。

それが家を出る前にベルナルドさんが言っていた「検問所も通行が楽になりますよ」という事らしい。


尚、一般の人はカードの確認のほか、荷物チェックや入場、退場理由の確認なんかもあるんだそう。

騎士や魔術師カードでも、あまりにも荷物が多かったりするとチェックされることもあるらしいが、滅多には無いらしい。


検問所を通り抜けて少しだけいくと、そこにベルナルドさんと同じ制服を着た人が待っていた。

どうやらベルナルドさんの部下らしい。

ベルナルドさんがひらりと馬から降りると、その人が足場を用意してくれた。途中の休憩の時には足場が無かったから一人で乗り降りは無理だったけど、足場があれば一人で…はい、嘘です無理でした。手伝ってもらって降りました。

私が無事着地すると、ベルナルドさんは馬をその人に預けた。


「さて、すぐ魔術師の棟に行ってもいいんですが、その前にお腹が空きませんか?」


午前十時半頃に家を出て、もうすぐ午後二時。

途中の休憩でお茶をいただいたが、正直結構お腹がぺこぺこだった。


「はい、お腹空きましたー。お弁当でも持ってくれば良かったですね」

「少し遅くなってしまいましたが、お昼を食べてから行きましょう。ユカリのお弁当も魅力的で是非食べてみたいですが、王都にあるレストランの料理もなかなか美味しいですよ。先日のお礼…私からの個人的なお礼として、ご馳走させてください。国からはまた別に謝礼が出ることになってますが」


そう言われて気が付いた。

そうだ、私お金持ってない!

奢ってもらうのは正直悪いなぁ、と思ったが、無銭飲食になるか空腹を堪えるか。そのどちらも嫌なので、素直に奢ってもらうことにした。


道中の街並みは、テレビで見たドイツ風の建物にそっくりだった。

大通りの道路は石畳で整備されており、馬車がたまに通り過ぎる。

テレビで見るような世界だー、と感動しながら歩いた。

門から10分程歩くと、一般的なファミレス程の広さのあるレストランに着いた。

どうやらこの店が目的地らしい。


「いらっしゃいませ。空いてる席にお座りください」


レストランの中に入ると、ウェイトレスさんが元気よく声を掛けてくれた。

ウェイトレスさんの格好はパフスリーブって言うんだっけ?肩の部分がふんわりと膨らんでる黒いワンピースに薄い茶色とどぎつくないピンクがアクセントになっているタータンチェック柄のエプロン。

エプロンは首の後ろと腰にそれぞれ結ぶところがあり、綺麗にちょうちょ結びをしていてめちゃくちゃ可愛い制服だと思った。


席に着くとき、ベルナルドさんが椅子を引いてくれた。

ジェントル再び。

そしてここで初めて、異世界の文字を見た。

わぁ、久々に異世界らしさ来た!読めないっ!!なんでしょう。象形文字でしょうか?

そう思いながらじーーーーっと見ていたら、あれ?読めないけど分かる。むしろ読めてる?あ、読めちゃった。

これもチートの一環?ラッキー。読めないよりは楽でいいね。


「何にしましょうか」


メニューにかじりつくように覗きこんでいると、ベルナルドさんが笑いながら聞いてきた。


「うーん、ベルナルドさんのお勧めは何ですか?今日は全部、お任せしてしまってもよろしいでしょうか」


文字は分かっても、そのメニューの中身が全く想像出来ない名前だったのだ。

・スラムブのアイル焼き

・ムチヤのキベ和え

こんな感じ。分かるのは焼いてるのかー、とか、何かと和えてるのかー、とかそんなレベル。

取り敢えずベルナルドさんに丸投げすることにした。


ベルナルドさんは「分かりました」と言って、ウエイトレスさんに幾つかメニューを頼んでいた。


ベルナルドさんが注文している間、店内を見渡す。入口に近い壁には可愛いチラシが一枚貼ってあるのが見えた。

ここからでは何て書いてあるかよく見えないけど、イラスト付きで可愛い雰囲気がある。


「ずっと馬で来たので、どこか痛いところは無いですか?」


キョロキョロとおのぼりさんよろしく店内を見渡していると、ベルナルドさんが話しかけてきたので会話を楽しむことにする。


「うーん、少しお尻が痛いですし、実はまだ少しだけ馬にのっているような感覚があります。でも大した事ないですよ。きっとご飯食べてる間に治ると思います」

「ああ、どうしても馬だと痛くなってしまいますよね。ただあの森は馬車で通るのは困難なので…すみませんが帰りも我慢してください」


ベルナルドさんが申し訳無さそうに言う。


「大丈夫です、ありがとうございます。あ、帰りも送っていただけるんですか?」

「もちろんですよ。それとも今日はこちらに一泊しますか?」


歩いて帰るとなると半日はかかるだろう。舗装されている道とは違うし。

とはいえさようならしたらワープで帰れるんだけどね。そこは今のところ内緒だし。

となると、一泊して明日の早朝に歩いて帰る(風を装う)か、馬で送ってもらうことになる。

しかしお金が無いので宿代が無い。

つまり選択肢は一つだ。

「すみません…送っていただけるとありがたいです」

「はい、では帰りにはちゃんと横座り用の鞍を用意しましょう。まぁ、横座り用の鞍になっても体制はあまり変わらないんですけどね」


くっ…帰りもぺったりべったりコースなんですね。もう大分慣れましたよ。慣れって怖い。

因みに、来るときは横座りじゃなくて跨ぐタイプの二人用の鞍だったらしい。

女性はスカートということをすっかり失念してました。私のミスです、と謝られて、こちらがあたふたしてしまった。そんな専用の鞍があることすら知らなかったですからそんなに謝らないでください。


料理が来るまでの間、今日はいないグレスさんの怪我の具合を聞いてみたところ、全くもって問題なく元気に過ごしているとのことでほっとした。

暫くするとウエイターさんが料理を持ってきてくれた。

あ、男性もいたんだー。女性の制服ばっか見てたから気がつかなかった。

男性は黒のズボンに白いシャツを二の腕まで捲っている。

腰には三角巾の大きい版みたいな布を斜めに巻いていて、これはこれで格好いい。

腰の三角巾はウエイトレスさんのエプロンと同じ柄みたい。


料理はペンネのようなパスタにトマトソースと鶏肉を絡めたようなものと、丸いパンに具が挟まったサンドイッチ、分厚いお肉の煮込み料理、それと野菜炒め。お昼にしてはちょっと量が多い気がした。

取り皿をいただけたので、全部の料理を少しずつ取り分けてもらった。

残るんじゃないか、と懸念したが、細マッチョのベルナルドさんがペロリと残さず平らげた。

やっぱ男の人は食べる量が違うわ。

私の一週間分の食材も夜と朝ごはんで無くなったもんね。あの時は男性五人だったけど。


食後のコーヒーを堪能していると、デザートまで出てきた。

コーヒーがこちらの国にもあるのは嬉しいなぁ、と思っていたらまさかのデザート。

もう結構お腹一杯なんですが…別腹を起動させます。

ミルフィーユのようなケーキにたっぷりベリー系の果物が乗せられてて、ペロリと食べてしまいました。

明日からダイエットかな。うん、明日から。


お腹いっぱい、幸せです。

あれ?ところで今日の目的ってなんでしたっけ?

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