■14.買い物と魔法と

異世界からの訪問者が帰った翌日は食材の買出しに出かけた。

なんせ一週間分買ったつもりだったのに、既に冷蔵庫はすっからかんになってしまったのだ。


車で出かけたついでに、少し足を伸ばして牧場に行ってみた。

平日だし観光シーズンでも無い為、観光客もいないし牛たちもゆったり過ごしていた。

少し寒いけどソフトクリームを買って食べる。

ミルクの味が濃くてとても美味しい。これは久実先輩を連れてくる場所に決定だ。このソフトクリームは絶対先輩も好きな味だと確信する。

ここの牧場で作ったというチーズを買ってから帰宅した。


帰宅して荷物を片付けると、既に午後二時を回っていた。

昼食は牧場で済ませたのでお腹は膨れている。

さて、何しようかなと思ったときに、地下室の扉を思い出した。

そうだ、少しだけ異世界の探索をしてみよう。

でも、戦いのプロであろう騎士という職業の彼らでも命とりとなるような「魔物」と呼ばれる存在が出る場所が近くにあるという。

無闇に出ないほうがいいのかな?

でも、折角の「異世界」。興味を持つなと言うほうが無理でしょ。


地下の玄関からスニーカーに履き替えて外に出る。

地下の玄関は一階の玄関と同じ鍵が使えたことに安堵する。ちゃんと戸締りしないとね。


さて、どうやって行くか。

彼らはこの小道をそのまま進んで行っていた。

そういえば、ベルナルドさんは「空間魔法」があると言ってた。つまり、空間を移動することが出来るのではないだろうか。そう、所謂「ワープ」というやつだ。

なんとなく、魔法は「イメージ」が全てなのではないかと思っている。

出来ると思えば出来る気がする!思い込みが大事!

そう自分に言い聞かせ


「5キロくらい先のまでワープ」


と言ってみた。

「道」というのがポイント。移動できても足元に何もなくて落下とか、障害物があって埋れちゃうとかそんなの嫌すぎる。

すると一瞬目の前の景色が歪み、気がついたら辺り一面木だらけの細いに立っていた。

ちゃんと道の上。良かった。

ワープは無事成功、と考えていいだろう。


キョロキョロと辺りを見回せば、前も後ろも同じようにしか見えない森の中の一本道。

足元をよく見れば、そこに馬と思われる蹄の跡がいくつかあった。

おそらく昨日、彼らが通った跡だろう。

そこから更に三回ワープをしたところで周りに木が無くなり、遠くに街が見えた。


5キロ、が正しく機能していれば、おそらく20キロくらいを5分もしないで移動できたことになる。

ワープすごい…単純にそう思った。

そこから街までは10分ほどかけて歩いて向かった。


街の入口近くに行くと何かの列が出来ていた。

両端に厳つい感じの兵士が立っている脇を人が何かのチェックを受けながら通り抜けているようだ。

そうか、中に入るのに身分証明的なものが必要なのかもしれない。きっとこれ、検問所だ。どうしよう、私身分を証明できるもの何も持ってない…日本の車の免許証じゃ確実にダメだろうしな…。

うーん…そうだ、ちょっと(いやかなり)悪いことかもしれないけど…検問所から離れ、人影がないところで城壁に手をつき


「壁の反対側へ移動」


と言ってみた。

すると、ワープして来たのと同じ要領で壁の反対側へワープ出きてしまった。

ワープすごい。やはり紫の感想はそれだった。

でも…ワープって犯罪に使えるのではないか。空き巣なんて入り放題ではないか。これはワープ出きるのは内緒にしておいたほうがいいかもしれない。

ワープは人目のつかない場所でのみ使うことにしよう、と決めた。


少し後ろめたくはあるものの、取り敢えず街の中に入れた。

これは堪能するしかない!

ちょうどここは路地裏のようだ。目の前に井戸が見えるが、たまたま人がいないタイミングで良かった。

賑やかな音を頼りに歩いていくと、大通りらしき場所に出た。

そこにはお店が沢山並んでいて、とても賑やかだ。

目の前の店には品物を物色している主婦らしき人達が沢山いる。


相変わらず路地裏から覗き見ていたのだが、女性はロングスカートにブラウスや、足首までのワンピースが一般的なようだ。それにニットコートのようなものを羽織っている。

今日はそこまで寒くないためか、しっかりしたコートのようなものを着込んでいる人は見かけなかった。

「ちょっとそこまでお買い物」といった雰囲気。

手には籠を持ち、野菜などが入っているようだった。


男性はズボンにシャツ、それにチョッキを羽織るのが一般的なようだ。

私の今の格好はジーンズにもふもふのフード付きパーカー、そしてスニーカー。

しまった。服装を考えていなかった。

これは一旦出直した方が良さそうだ。人目につく前に一旦戻ろう。

そう考えてパーカーのフードをかぶり、足早に先ほどの井戸がある場所に戻った。


井戸の前に戻ると先ほど同様、そこには誰もいなかった。

今度は山小屋をイメージする。


「山小屋へワープ」


そう言うと、視界がぶれ、目の前に山小屋が現れた。

良かった。ちゃんと戻ってこれた。

そっかー、服装かぁ、ちゃんと考えてなかったなぁ。

自分のクローゼットの中を考えながら部屋に戻る。

膝より少し下のフレアスカートや仕事用のタイトスカートなら持っているが、ロングスカートは持ってないなぁ。

背が高くないので、ロングスカートを履くとどうしてもひきずってしまう。

それに、靴はスニーカーではなくブーツっぽい靴を履いているようだった

これはそれっぽい服を一式そろえてから出直した方が良さそうだ。


二階の自室へ行き、パソコンを起動する。

そう、無いものはこの魔法の箱が(有料で)叶えてくれる。近代文明という名の魔法を使おうと思う。

つまり、インターネット通信販売だ。

ブラウスはあるからスカートだけ。

胸の下から履くタイプの可愛いスカートを見つけた。

刺繍が入っていてとても可愛い。

後ろが少し編み上げになっている。

日本でこれを着る勇気は無いが、今日見てきた感じ、異世界でなら逆にこちらの方が浮かないだろう。

ブラウスを買う予定は無かったのだが、フリルがついていたり刺繍がしてあったり、あまりにも可愛かったのでついついカートへ。スカートとよく合うだろう。

スカートは色違いで三枚。カーキ、ベージュ、ボルドー。

その他にとてもシンプルなロングスカートも二枚。

ニットコートもフード付きのものを三枚。ブラックとブラウンとホワイト。

購入ボタンを押して、あとは届くのを待つ。

明後日には届くようだ。でもやっぱ都内じゃないと翌日には届かないのか。まぁ、ここが山の中だから仕方がないか。


靴だけはどうしても通販は抵抗がある。

履いてみないと履き心地や歩いた感じが分からないし。

ということで、戸締りをして車で買い物へ。

駅の方に行けば普通に色んなお店がある。その中で靴屋さんを探す。

思ったより大きめの靴屋があった。

編み上げに見えるが横がファスナー式の可愛いショートブーツがあった。

試しに履いてみたところ、履き心地も良くて色も落ち着いたブラウンで可愛い。

ヒールもほぼ無く、沢山歩けそうだ。

これに決まり。

ロングブーツも履き心地の良いのがあったので一緒に購入。

こちらも編み上げになっている。上部にファーがついていたが、着脱可能とのことなので、取って使うことになるだろう。

ミニスカートならファーが出ると可愛いんだけどね。ロングスカートだし。


靴がすんなり見つかったことに気分を良くしながら帰宅。

これで後は服が届けば、異世界探検装備が整う。

服が届くのが楽しみだ。


帰宅してみれば、すっかりいい時間になってしまったので夕飯の支度に取り掛かる。

いつもより少し遅めの夕飯になってしまったが、誰かに影響するわけでもないのでいいだろう。

本当に気楽だ。

今日は牧場でチーズを買って来たので、ミートソースのドリアにした。

明日あたりはちゃんとした和食を作ろうかな。最近和食どころかお味噌汁もご無沙汰だ。


夕飯を済ませ、リビングで食後のコーヒーを楽しみながらまったりとした時間を過ごす。

それにしても、今更だけどワープ…出来ちゃったな。

私は一体他にどんな魔法が使えるのだろうか。

普通の魔術師で多くて三属性とベルナルドさんは言っていた。

ワープはおそらく空間魔法。

これで私は火・水・風・治癒・空間、の五属性となった。

出来てしまったものは仕方ない。出来るのなら活用したいし研究したい熱が沸きあがってくる。

明日は異世界の方の庭で少し魔法を研究してみようと思う。

そうと決まれば明日に備えて寝よう。

何だかんだ、今日一日よく歩いたので湯船で足をよく揉み解してから眠りについた。

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