山小屋~異世界編

■10.謎のコスプレイヤー

山小屋で生活を始めてから一週間が経った。

無事に引越しの荷物も全て片付き、昼食後のコーヒータイムをまったり楽しんだ後、地下室で次は何を作ろうかなーと革を眺めていた時だった。

突然、有り得ない音がした。


トントントン


革と睨めっこしていたため、突然の音に肩がビクゥっと震えた。

へっ?!どこから?!


トントントン


再び音がした。そして紫は音のする方へ向かい、我目を疑った。

そこには「騙し絵」で玄関と同じ扉が「描かれて」いるはずだった。

しかし、目の前には一階にある玄関と全く同じ、普通の木の玄関扉があったのだ。


目を擦って何度確認してみても、見えるものは変わらない。

そんなことをしていたら、今度は声が聞こえた。


「すみませんっ、どなたかいらっしゃいませんか!?」


少し焦ったような男性の声が聞こえた。

紫はおそるおそる、元「絵」だった扉のノブに手をかけ、扉を開けた。

不用心だとか、そんなことは今の紫には思いつきもしなかった。


「あぁ、良かった。突然ですみません。怪しい者ではございません。わたくし達はアルベスク王国騎士団、暁隊あかつきたいの者です。怪我人がいるため、休む場所をお借り出来ませんでしょうか」

「…」


えーっと…外人のコスプレイヤーさんだー。日本語上手だわー。

目鼻立ちのはっきりした、西洋の顔つきの男性が流暢な日本語でしゃべっている。

それも、甲冑?鎧??のようなコスプレ姿で。

外人さんてこういう格好、本当に似合うよねー。ずるいよねー。


「…あの?」

「…っは!すすすすみません、突然の事で驚いてしまって。怪我してる方がいらっしゃるのですか?」


何か色々とツッコミどころは満載だが、怪我人がいると言っていた。

騙し絵の扉とかそんなのは暫く忘れることにした。

コスプレイヤーだろうが、日本語の上手な外人だろうが、騙し絵の扉から来た人だろうが、怪我人は怪我人だ。


「中にどうぞ。あ、靴はそこで脱いでくださいね」


外人さんは靴を脱ぐ文化が無いので一応伝える。


「助かります。むさくるしい集団ですみませんが、お邪魔させていただきます」


そう言うと、五人のコスプレイヤーさん達が地下室に入ってきた。

皆さんお揃いの制服のような鎧姿。黒地に朱色でラインが入っている。ぱっと見で仕立てが良いのが分かる。気合の入ったコスプレイヤーさん達だ。

ちゃんと靴・・・というかブーツ?を脱いであがってくれた。

四人目は肩を借りながら、息も絶え絶えにしている。この人が怪我人らしい。

靴も自力では脱げず脱がせてもらっており、相当重症のようだ。これは救急車を呼ぶべきだろうか。


「大丈夫ですか?救急車呼びますか?」


最初に話した男性に聞くと、頭の上に「?」が浮いているような顔をされた。


「キュウキュウシャ、とは何でしょう?」


今度はその言葉に私がえっ!?と驚いた。

あ、そっか。日本語が堪能でも分からない単語もあるよね。


「えっと英語で何て言うんだっけ…あ、アンビュランス!です!これだけの怪我をされているようですから、病院に行ったほうが良いかと思ったのですが…」

「アンビュ…?簡易ではありますが、応急処置の用意はありますので」


くっ…カタカナ英語は伝わらなかったみたいだ…無念。

それとも外人さんだから、保険とか入って無くて医療費の心配してるのかな?

そんな風に首を傾げていると、怪我をしていない他の外人さんが私に話しかけてきた。


「馬を厩舎うまやに繋がさせていただいてもよろしいでしょうか」


馬?厩舎?

あぁ、そっか!こんな時でもコスプレの役設定で話してるのかな?

本格的なコスプレイヤーさんだ。

おそらく「車」を「駐車場」に停めたという意味だろう、と勝手に解釈し、いいですよ、と応えると、その外人さんはお礼を言って一旦外に出ていった。


「横になれる場所はありますでしょうか?」

「あ、そうですよね。取り敢えず一つ上の階に移動しましょう。怪我しているなら、一度汚れを落として清潔にした方がいいですよね。階段上れますか?」


最後は怪我してる男性に向けて聞いた。


「あり、がたい。だ、いじょうぶ。案内、を、おねが、い、する」


相当辛いらしく、しゃべるのも辛そうだが、かなり大きい人なので階段を担いで登るのは難しいだろう。

階段だけは自力で上がってもらわないといけない。

それにしても皆さん本当に日本語お上手。


一階に行き、シャワーの使い方などを説明すると、王都の物と似た良い作りだね、と金髪碧眼の爽やかな青年に言われた。

この人だけ服が違うし、ずいぶんと若く見える。

とりあえず「王都」が何のアニメかゲームのことをさしているのか分からないので、何ともこたえられず曖昧に笑ってごまかした。

日本人の得意技!(かどうかは知りませんが)奥義!笑って誤魔化せ!です。


タオルを渡してから最初に話した人に二階を案内して、二部屋使ってください、と話した。

騎士の名にかけて、不埒な事は一切いたしません、と誓ってくれたので、寝床を提供することにしたのだ。

それに紫の部屋には鍵が内側から掛けられる。

何か凶器で壊されたらどうしようもないが、実際大怪我をしている人はいるわけだし、彼らを信用することにした。

ベッドは四つしか無いのですが、というと、一人は常に見張りで起きているので問題ないとのこと。


車・・・じゃなかった、彼らいわく「お馬さん」の話をした彼は薬やら包帯やらを出していた。

もう一人は怪我してる人に付き添ってお風呂場に行った。


私は急遽、大人数分の夕飯の支度に取り掛かった。

今日はシチューでいいや。沢山作りやすいしパンも昨日買ってきたバケットがまるまる一本ある。

鶏の唐揚げとクリームシチューにパンというメニューに決めた。

一週間分と思って買って来た材料が今日明日で無くなりそうだけど、また買いに行けばいい。


怪我をしている人はシャワーで洗浄した後、応急処置をしてもらってから二階へ行き、そのまま眠ってしまったようだった。

目が覚めたらご飯を温め直してあげようと思う。

それから順にシャワーを浴びてもらった。

着替えられる服が無いのが残念だが、鎧を外して軽装になった。


「皆さん、お疲れ様でした。夕飯が出来たのでご一緒にいかがですか?」


そう声を掛けると、最初に話した人が嬉しそうにお礼を言ってくれた。


「突然の訪問でご迷惑をお掛けしているのに食事まで用意していただいて、本当にありがとうございます。改めて自己紹介させていただきます。わたくしはベルナルド・ウォレ・サンパリヒ。暁隊の中隊長をさせていただいております。どうぞベルナルド、とお呼びください」


本名なのかキャラ名なのか分からないが、ベルナルドさんはグレーの濃いアッシュブラウンの珍しい髪色をしている。瞳の色は海のような深く濃い濃紺色。光に当たると水色のように見える箇所もあって不思議な色合いをしている。

身長は180センチよりもう少しありそうだ。因みに比較は玄関の扉。玄関扉は2メートルくらい。


お馬さんの話をした彼はサムル・ナスカールさん。このメンバーの中でおそらく最年長。

オレンジ色の髪に大樹の幹を思わせるような、優しい焦げ茶色の瞳をしている。

ベルナルドさんより少し背が低いので180センチ無いかな?くらい。


お風呂に付き添ったり、肩を貸していた彼はアルゼン・ナポスティさん。

ほうじ茶のような茶髪に煎茶のような綺麗な黄緑色の瞳。

ベルナルドさんより少し背が高いから185センチくらいかな?結構大きい。


サムルさんとアルゼンさんは小隊長らしい。


そして怪我をして現在二階で眠っている彼はグレス・コンツ・クライデンさん。彼はベルナルドさんと同じく中隊長だそうだ。

身長はかなり大きそうだったが、きちんと立っているのを見ていないので分からない。

髪色は黒っぽかった気がするけどこげ茶っぽい色かな?

瞳の色は全く分からなかった。


そして金髪碧眼の青年は「僕はレドナンド。レドって呼んでね」とにっこりスマイルをくれた。

爽やか青年のスマイル。目にしみるとです。

どう見ても最年少。おそらく十代後半かな?お肌ピチピチ。

それでも背は高くてサムルさんと同じか少し低いくらい。おそらく175センチくらいはあると思われます。

皆さん背が高すぎです。


「村崎紫です。あ、村崎、が家名で紫が名前です」


外人さん相手なので一応言っておく


「では、ユカリ、と呼んでもよろしいですか?」


くっそう!ベルナルドさん、改めてじっくり見るとキラキライケメンですね!いや、ぱっと見でもイケメンなのは分かるんですが。

名前を呼ばれて思わず鼻血が出るかと思いましたよ。危ない危ない。

でもちょっとチャラそうですね。ベルナルドさん。

そんな失礼なことを考えながら、顔には出さないようにして


「はい、お好きなようにお呼びください」


と答えると、ベルナルドさんはにっこり素敵な笑顔を見せてくれた。

これはあれだわ。自分の魅力を知っててやってますね。やっぱりチャラそう。


「今日は、この辺りに視察に来ていたんです」


食事が終わると、ベルナルドさんは怪我した経緯を教えてくれた。

彼らいわく、今日は「アルベスク王国騎士団、暁隊」の小隊長以下の昇級試験の場所を視察に来ていた、という設定らしい。

そこにたまたま散歩していたレドさんが加わったとのこと。

散歩していたのをつかまえて同行させるって、彼は何者??

まぁそこは一旦流して続きを聞く。

漫画だかゲームだかでそういうストーリーがあるのかもしれない。


「強すぎる魔物もいないこの辺りはちょうどいい試験場所だったはずなのですが、この辺りでは報告の無い強い魔物が現れたのです」


普通なら最低小隊二つは組んで倒す敵なのだが、魔物に見つかってしまった。

見つかった時点で「逃げる」という選択肢は無くなる。

なぜなら、魔物にとって人間は食材が歩いているようなもの。見逃されるはずがないのだという。

怖いですね…。


ほぼ、グレスさんの独戦で敵を追い詰めたらしいのだが、最後の最後、魔物はレドさんを狙って跳んだ。

詳細は省くが、ちょっと生々しい表現があった。

私の顔色が悪くなったのか、ベルナルドさんは申し訳なさそうに、女性に詳しくする話ではなかったですね、すみません。と謝った。

まぁつまり、油断したところをつかれたのですが、それに気づいたグレスさんがレドさんを庇った結果、今回の怪我となったらしい。


怪我だけで済んだのは本当に奇跡的とのこと。

しかし、馬で帰城するには怪我が深すぎ、落馬の危険もあった。

暫く休めるところが無いか探していたところ、この家を見つけたとのことらしい。


「そ、つまりグレスは僕のせいで怪我しちゃったんだよね」

「これに懲りて、もう一人で出歩かないでください」


少ししょんぼりした様子のレドくんに対し、ベルナルドさんがたしなめるように話しかけていた。

何か途中から物語を聞いている気分になり、すっかり聞き入ってしまっていたが、結局のところ本当は何で怪我をしたのだろうか。

この辺りに熊でも出るの?

そんなこと、不動産屋さんから一切聞いていなし、買い物してても今のところ聞いたことがない。

しかしこれだけ自然に囲まれてるのだから、出ても不思議ではないかもしれない。


「それにしても、こんな所に魔女の家があるとは思いませんでした。それもこんなに可愛らしい魔女さんが住んでるなんて。家の周りには強力な対魔物の結界が張ってありますね。靴を脱ぐのは異物をなるべく部屋に入れずにを魔の流れ崩さないため、ですよね?」


ニコニコしてベルナルドさんが急に厨二的な話を始めました。

そっか。イケメンでもコスプレしちゃうくらいのオタクだったね。

少しくらい話を合わせてあげよう。


「あはは、そうなんですよー」


奥義。笑って誤魔化せ。

今日二回目の奥義炸裂。

棒読みなのは許して欲しい。

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