■9.引越しします
2019/2/3 誤字修正しました。
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三月になった。
マンションは今月いっぱいで引き払うことになっているが、今月中旬には引越しを終らせようと思っている。
山小屋の方は今月からガスも電気も通るようになった。もちろんインターネット回線も使える。これが無いと一気に不便さが増す気がしてしまう(スマホもあるんだけどね)。
取り敢えずこれで、いつでも引っ越せる下地が整った。
家族に仕事を辞めたことは既に伝え、引っ越す事も伝えたが、心配こそされ止められる事はなかった。
母にいたっては既に温泉であたまがいっぱいになっているようで、ゴールデンウィークに遊びに来る予定を組み始めた。
引っ越しした後に移動が不便になるので新車を購入した。
コンパクトカーでデザインも可愛く、かなり気に入っている。
マンション暮らし中は駐車場の関係や、何より都内では車より電車やバスでの移動の方が楽なので車は持っておらず、実家に帰った時くらいしか運転していなかった。
山道の運転は少し不安だが、もともと車の運転は好きなので少しずつ慣らしていけば大丈夫だろう。
今月だけ、マンションの近くの駐車場を借りて既に納車をしてもらった。
引越しの荷物は殆ど無い。
そのため、業者は頼まずに自分で少しずつ運ぼうと思っている。
ベッドだけは最優先で家具屋さんに届くようにお願いしたため、もういつでも寝泊まり可能。
自分用のベッドはセミダブルサイズのものにした。
昔から憧れてたんだ、このサイズ!
両手を広げて眠れる!
木製でしっかりしていて、山小屋にもしっくりくる可愛らしいデザインで、一目で気に入った。
枕元には小さいながらも本が収納できる場所があるのがポイント。
寝ながら本を読むのが好き。たまに寝違いして首が痛くなるけど。
二階には自分用の寝室の他に八畳ほどの部屋が二つある。
こちらは家族や友人が泊まりに来た時に使ってもらおうと思っているので、各部屋に二つずつ、計四つの簡素だけど木材でしっかりしているシングルベッドを購入した。
お布団はもちろん新調した。
セミダブルサイズのお布団なんて持ってなかったので。
客室用もちゃんとしたお布団。
折角遊びに来てくれるのだから、気持ちよく過ごして欲しいよね。
引っ越しで何が一番大変だったかというと、いらなくなった物の処分。
これが本当に面倒で・・・。
大きいものは区役所に連絡し、近くのコンビニで区役所指定の廃棄シールを購入。
区役所から指定された日に玄関近くに置いておく。
コンパクトに出来るものはなるべくコンパクトにしておく。
ベッドや机、家具に電化製品。
冷蔵庫やコーヒーメーカーなど、まだ使えそうなものの一部はリサイクルショップで引き取ってもらった。
やっぱり捨てるのは「勿体無い」精神が働いてしまった。
マンションで使っているお布団は母に持ってきてーと言われたので最終日に実家に持って行く予定。
家具類は全て木製で統一することにした。
本棚や台所の食器棚、リビングにチェストなど。
ついでに冷蔵庫も、木目風のデザインのものにした。
地下室だけは作業場っぽくなっているし、最初から棚が備え付けられていたが、革制作がしやすいように大きい机や細かい物を閉まっておく棚などを木製で統一した。
どの部屋にいっても、新しい家具独特の、木のいい香りがしている。
玄関と地下室には同じ靴箱を同じ場所にそれぞれ置いてみた。
折角遊び心のある場所なので、私も便乗してみた。
地下の靴箱に入れる靴はないけど。ほんとただの遊び心。
車で、今すぐは必要のない季節の服などから運び始めた。
一日で往復はさすがにきついので、一度行くと一泊して、翌日帰る。
これを三度ほどする頃には車の運転にも慣れた。
マンションの中はすっかり荷物が無くなった。
がらんとした部屋を見渡す。
「荷物がないと、こんなに広く感じるんだね」
思わず独り言をつぶやいた。荷物の無い部屋は声がよく響いた。
この状態を見るのは、入居した時ぶりだ。
最後に部屋を掃除してまわる。
今までの感謝とさよならの気持ちをこめて。
今日は実家に泊まりに行く。
そして明日からはもう、山小屋が生活の基盤となる。
長かった気もするし、あっという間だった気もするこの準備期間。
部屋にサヨナラを告げ、大家さんに挨拶をして鍵を渡し、マンションを出た。
実家の前で一旦車を停め、布団だけ家の中に運び込む。
母が玄関を開けて出迎えてくれた。
弟は大学を無事に卒業し、会社の研修が始まる前にと友人たちと卒業旅行に行っている為、家にはいなかった。
お姉ちゃん、寂しくなんか無いんだからね!
布団を運び終わると車を近所のコインパーキングに停めに行く。
家の駐車場には一台しか入らないし、今までそれで不自由したことは無い。
因みに山小屋は一応二台は余裕で停められますよ。駐車場の屋根が無くてよければ四台は余裕かな。
この日は久し振りに父、母と三人で家族団らんを楽しんだ。
翌朝、父が仕事に行くのと合わせて家を出た。
父を車で駅まで送ってから、山小屋へと向かう。
高速道路ももう慣れてきた。
久しぶりに高速道路にのった時には、緊張のあまり手汗が凄いことになっていた。
高速をおりて山道をゆったり走る。
後続車がいないので、焦らずマイペースに。
途中、見晴らしの良い場所で車を停める。
駐車出来るくらいの広いスペースがあり、その先にはベンチが置かれたちょっとした見晴台がある。
ちょうどお昼の時間なので、今日はここでお昼ご飯を食べることにする。
なんと母の手作り弁当!
家を出る時に持たせてくれた。
途中で買ったお茶と母手作りのお弁当を持って、ベンチでピクニック気分になりながらお弁当を食べる。
今日は三月中旬にしては暖かく風が気持ちいい。
草のいいかおりがしてくる。かすかに花のような優しいかおりも鼻をかすめた。
けどやっぱ一人は少し寂しいな。今度はここに誰かと来れたらいいな。
お茶を飲んでほっこりした気分になってから時計を見る。
今日は午後に家電が幾つか届くことになっている。
冷蔵庫やテレビ、洗濯機に掃除機、細かいものだとコーヒーメーカーなども。
業者さんが来る前に帰るべ、と思ってからふっと笑う。
既に「帰る」場所は山小屋なのだ。
山小屋に「帰宅」して台所でお弁当箱を洗っていると、配送業者さんが来た。
中に運び込んでもらい、諸々の設定などもしてもらう。これで生活の基盤が完璧に整った。
冷蔵庫がちゃんと予定通りに収まってくれて良かった。
一応サイズは計って買ったのだが、少しだけ不安だった。
実は母から、お弁当の他にパッチワークの可愛いカバーを沢山貰った。
手芸が趣味の母は、「山小屋」という単語がいたく気に入ったらしく、山小屋に合うようにとパッチワークで色々と作ってくれていたらしい。
約一ヶ月でこれだけの大作、よく出来たな、と感心する。
早速、リビングのソファーにかけたり、テレビのカバーとしてみた。
リビングがいっきに明るくて優しい雰囲気になった。
ゴールデンウィークに遊びに来る時までに、また作って持って来てくれるらしいので楽しみだ。
新しいコーヒーメーカーで説明書を読みながらコーヒーをいれ、テレビをつけて一息つく。
今日からここで、スローライフを始める。
何だかんだ、仕事を辞めてから引越し準備でバタバタしていたので、ゆっくりしていなかった。
まぁ、スローライフとは言っても、やりたい事は沢山あるので、まだ暫くは暇することも無さそうだ。
取り敢えず今日はもうゆっくりしよう、と決めてまったりとした時間を楽しむ。
そうだ、と思いつき、携帯端末でチャットツールを起動し、久実先輩にメッセージを送る。
[こんにちは!今日無事に引越しが完了しました。いつでも遊びに来てくださいね!]
暫くすると返信が来た。
『おー!引越しお疲れ様!!今度外観とか写真送ってよ。遊びに行けそうな日が分かったらすぐ連絡するわ^^』
[ありがとうございます♪写真、了解です(笑)うまく撮れるかな?連絡待ってますね!]
これで楽しみがひとつ増えた。
先輩が遊びに来る時までに、この周辺を散策しておかなくちゃ。お店や観光スポットとかね!
翌日から少しずつ、あちこちの散策を開始した。
徒歩圏内にはほんと何も無いので車で。
一番重要なスーパーやガソリンスタンドはもう何度か行っているが、ちょっとしたお店とかはまだ見ていない。
引越し完了の挨拶を不動産屋さんにしに行った時に、色んなおすすめのお店を教えてもらった。
その中でも、天然酵母のパン屋さんはテレビで紹介されるほど美味しいと有名らしく、早速行ってみたところ、すぐさまお店のファンとなった。
ロールパンとバケットが私のお気に入り。私が常連客になることは間違いないだろう。
地下室では、革製品の作成も開始した。
地下室とはいっても、換気扇もちゃんとしてるので篭った空気ではなく、快適に過ごせる。
とはいえ、窓が無いので長時間いると時間感覚が無くなってしまうのが難点かもしれない。
一度集中してしまうと時間なんて忘れてしまうのはどこの部屋でも同じかもしれないけど。
引っ越して記念すべき第一作目は自分用にブックカバーを作ってみた。
久しぶりだからうまく出来るか心配だったので、簡単なものから少しずつ。
裏地もつけて、まずまずな出来栄えかな。
次は何を作ろうかなって考える時間も楽しい。
何かに束縛されることの無い自由気ままな生活。
それでもやはり自分は「自堕落万歳!」とはならず、何かしらしていないと落ちつかないらしいということに改めて気がついた。
朝は六時過ぎに起き、ゆったり朝食。
洗濯や掃除をしてから周辺散策や買い物。
午後は自分でパンを焼いたり革で制作したり。
夜は十時くらいには就寝。
何だかんだ、規則正しい生活を過ごしていた。
これが私の自然なスタイルなのかもしれない。
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ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。
次回から一話ずつの更新となりますのでよろしくお願いします。
色葉せす
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