■3.年末の大掃除
忘年会の翌朝、今日から連休だ!という開放感から、少し寝坊しようと思っていたのにいつも通りの時間に目が覚めてしまった。
カーテンを開けて空気を入れ替える。年末の空気はひんやりとしていて気持ちが良い…どころではなく寒い。一気に目が覚めた。何やってるんだ私は。慌てて暖房を入れて再度布団に潜る。さささ寒かった…!!!
爽やかな朝~♪とか思った私はやっぱり寝ぼけていたらしい。暫くして部屋が暖まると、再度布団から出てゆっくり朝食の準備をする。いつも慌しく朝食を食べているが、今日はゆっくりとドリップコーヒーを淹れる。休日ならではの優雅な時間。
後でパン屋に行って、明日の朝用にクロワッサンでも買ってこようかな、明日はもっと優雅な朝ごはん!と予定をたてる。
自分でパンを焼くのも好きなのだが、今日は部屋の大掃除をしようと思っているので、それ以外の予定はなるべく入れないで掃除に集中しようと思う。
さて、と部屋の掃除を開始する。大掃除とは言っても、独り暮らしの1DK。そこまで掃除箇所が多いわけではない。
まずは寝室から。ベッドからシーツとカバーを剥ぎ取り洗濯機へ。お布団も干す。天気が良くてよかった!
でも、そろそろ布団乾燥機も欲しいなぁー…と思いながら枕もカバーを外して室外機の上に乗せ、干す。
部屋には元彼との思い出の数々が飾ってあった。写真はコーヒーをぶっかけたその日に全てゴミ箱行きとなったが、デート中に買ったものや、貰ったものもある。そのあたりを特に重点的に分別しながら処分していく。
とは言っても、使い勝手が良くて気に入ってるものなんかはものすごく迷う。結果、自分がお金を出して買ったもので、気に入ってるものはそのまま手元に残すことにした。
「物に罪はない」とは言え、やはり彼から与えられた物を手元に残しておくのはいい気持ちがしない。いっそのこと、一つのダンボールにつめて送ろうか…そう思ったが、そんなに高価なものは無いし、送り賃もその労力も無駄なのでやめた。
もう彼への未練はすっかり無くなっていた。
カーテンも洗濯して窓を拭き、洗濯が終わったら脱水のみで湿ったままのカーテンを取り付ける。
掃除のとき、洗いたてのカーテンを部屋に干すのが何とも好きだ。部屋が柔軟剤のいい香りにつつまれる。ちょっとしたアロマ効果。
お風呂場とトイレの換気扇を掃除し、いつもより念入りに各所を磨き上げる。
台所も換気扇の掃除をしてシンクを磨く。洗面所も同様。水周りは普段から気をつけているので、そこまで汚れていない。普段の掃除ってほんと大事。
後はいっきに床の埃を掃除機で吸い取り、掃除用シートで床を磨く。
最後に棚や机を拭いていく。
物が多い方ではないのでこれで終了。
朝計画していた通り、掃除の後は近所のパン屋さんに行ってクロワッサンを買って来た。
明日の朝が楽しみだ。
今日は冷蔵庫の整理、とも思ったのだが、生憎整理するほど冷蔵庫の中には何も入っていなかった。そのため今日の夕食はコンビニ弁当にすることにした。
たまにはコンビニ弁当も良い。しかも今はレンジでチンするだけで、本格的な食事がとれる商品が多い。独り暮らしの強い味方だ。
さて、2日かけてしようとしていた大掃除が1日で終わってしまった。
やはり1DKはあっという間に終わってしまう。
ということで、明日は特に出かけるでもなく、1日家でゆっくり過ごすことにしよう。趣味の読書三昧である。
堅苦しい本ではなく、推理や冒険、異世界トリップや普通の恋愛話が好きだ。
現実から遠ければ遠いほど楽しい。
明後日の大晦日からは実家に帰って正月の3日まで過ごす予定だ。
明後日はちょうど生ゴミの回収日なので助かった。正月明けに帰宅したら部屋が生ゴミくさくなってたとか嫌すぎる。
いつもよりゆっくり目にお風呂のお湯につかり、全身の疲れを癒す。お風呂上りに缶チューハイを飲みながらテレビを見る。
いい感じに眠気がきたので、抗うことなく寝ることにする。
干してふかふかになっているお布団に洗濯したてのシーツとカバーのいい香りを全身で感じながら、心地よく眠りにつく。
掃除後の部屋は本当に気持ちがいい。
夢を見た。
ふわふわした雲のような場所で、大きくて暖かい、大好きな彼に包まれる夢。
祐次なんかではない、比べるのもおこがましいくらいもっともっと大切な人。
とても身体が大きくて、私なんかすっぽり包み込んでしまう。
お日様の香りがする。あぐらをかいた格好の上に横向きだっこ状態で私を覗きこんでいる。
恥ずかしいからあまりこっちを見ないで欲しい。
でも他を見ないで欲しい。
私の左手首にある飾りを愛おしそうに撫でる。
日本人じゃない顔立ち…だと思う。大好きなはずなのに、誰だか分からないし、顔もはっきりとわからない。
「誰?」
自分の声で目が覚めた。
なんとも恥ずかしい夢を見た気がする。あまり覚えていないが、欲求不満になっているのだろうか。
彼氏と別れたのはつい最近だが、情事はもうずっとしていない。
何かとても暖かくて安心できるものに包まれていた気がする。
それと、腕に何かつけていた気がする。腕をさすってみるが、もちろんそこには何もついていないし着けていない。
まぁ所詮は夢だ。
「んー、何か幸せな気分だー!」
と言いながら伸びをする。部屋を暖めてお湯を沸かす。
今日も優雅にドリップコーヒー。そして昨日買って来たクロワッサンを食卓に並べる。
テレビを見ながらゆっくり朝食。
朝食が終わったら今日の昼食、夕食と明日の朝食用の食材を買いに出かける。
昼と夜は温めるだけですぐに食べられるものにした。へたに余りの食材を出したくなかった。
明日の朝はデニッシュパン。パン屋さんのパンはどれも美味しそうだった。
紫はお米も好きだが、どちらかというとパンの方が好きだ。
昨日の予定通り、残りの時間は本を読んだり少しネットをしたりしてまったりと過ごした。
普段忙しなく働いていると、こういった時間がとても貴重だということを実感できる。
夕方になり、明日から帰省するための準備を始める。
実家とは言え、着替えなどは持っていかなくてはならないので軽く荷造りをする。
会社の近くで買った、ちょっとオシャレなお菓子も鞄に入れる。
見た目が華やかで味もとても良いと評判のチョコレート菓子。家族全員甘いものが好きなので、喜んでくれるだろう。
翌朝、台所を片付けて荷物を持ち、忘れ物があってもまぁ取りに帰ってこれるし、とそこまで気にしないで部屋を出る。
弟に「今から家に帰るー」と連絡だけ入れておく。母に送っても気付かない事が多いのだ。
するとすぐさま返信が来た。
父が駅まで迎えに来てくれるらしい。なんともありがたい。
「どうだ、元気だったか?」
駅に着き、久しぶりに見る父の愛車に駆け寄ると父が笑顔で迎えてくれた。
「うん、元気元気。車で迎えに来てくれてありがとー!すっごい助かるよ」
嬉しい事は素直に伝える。我が家のモットーです。
「大掃除終わってる?一応手伝おうと思って早めに来たんだけど」
「母さんが助かると思う。父さんはあと庭が少しだな」
「了解―。家に着いたら聞いて見るわ」
「今日の昼はピザでもいいか?
葵とは先程メールした弟。今年で22歳の大学4年生。来春就職予定だ。
「いいよー。私も最近食べてないから食べたい」
「分かった。帰ったら注文しよう」
「お願いします」
車に乗ってしまえば、駅から10分もしないで自宅に着いた。
「ただいまー」
久し振りの我が家だ。私が幼稚園生の頃に建てられたこの家はとても愛着があり、大好きだ。
床や柱の傷ひとつにしても、思い出があったりする。
「おかえりなさい、どうー?仕事は。身体も壊したりなんかしてなかった?」
エプロン姿で母が出迎えてくれた。
「うん、大丈夫だよ。ありがとう。今日から3日までよろしくね」
「はいはい。荷物置いてらっしゃい。お布団はもうゆかちゃんの部屋に置いといたからね。ちゃんと干しておいたから気持ちいいわよー」
「おぉ、嬉しい。ありがとう。荷物置いたら色々手伝うからね」
長年使っていた自分の部屋に荷物を置く。ベッドだけは独り暮らしをするにあたってマンションに持っていったのだが、机や本棚などはそのまま置いてある。
今日はベッドが置いてあった場所にマットレスが置いてあった。
この上にお布団を敷けば、フローリングでも背中が痛くなることは無い。
リビングに戻り、母にお土産を渡す。
「これ、会社の近くで買ったの。後でみんなで食べよう」
「あらー、嬉しい。ありがとう。食べるの楽しみだわ」
「で、何手伝おうか?」
「掃除はあおくんが色々手伝ってくれたから、お
「了解っ」
お節の手伝い、と言っても、買ってきてある栗きんとんや黒豆などを重箱に詰めていくだけの作業だ。
他の料理を作るのは母の仕事。母のだし巻き玉子は売っているものより絶品だと思っている。
「姉ちゃん、お帰りー」
「ああ、あおくんただいまー。今日お昼ピザだってね。楽しみだよ」
「大晦日限定ピザがあるんだよ。どうしても食べてみたくてさー」
「限定に弱いとか女子か!」
「いやいや、限定に弱いのは女子だけじゃないって。むしろご飯に関する限定なら男の方が好きだと思うんだけどなぁ。女子はほら、スイーツの限定ってやつでしょ」
「ああ、確かに。ジャンルが若干違うのか。人にもよるだろうけど。私は季節限定のコーヒーとか言われちゃうと弱いかも」
「姉ちゃん相変わらずコーヒー好きだね」
ご覧の通り、姉弟仲は良好。
お昼は弟待望の「大晦日限定ピザ」。どこらへんが限定なのか私には分からなかったが、とりあえず美味しかったので満足である。
午後は私の運転で弟と買出し。主にお酒やらおつまみやらお菓子やら。
帰ってからはまたちょっとした頼まれごとをこなし、夕方には新年を迎える準備が完了した。
これでゆっくり年越しが出来そうだ。
リビングにあるこたつにもぐって、国民的歌番組を見る。
カラフルな衣装を纏った子たちが元気よく踊りながら歌っている。最近のアイドルがよく分からない。人数が多すぎて覚えられないアラサー脳。可愛いとは思うんだけどね…見分けがつかないデスハイ。
「今年は何か面白いだしものあるのかな?」
「あおくんはバーチャルのアイドルが好きなんだっけ?」
「まぁ、色んな種類の歌があって面白いからね」
「ふぅん、まぁ私も嫌いではないかな。カラオケとかでよく歌ってる子がいるから何曲か覚えた気がする」
「へぇ、どの歌だろ…そいやぁ姉ちゃん、彼氏とはうまくいってんの?あの彼氏はあんま歌うまくなさそう」
「あー、別れた。そして歌うまくないの正解」
「やっぱり…って、え?いつ?何で?」
「んー、まぁ色々あって。つい最近」
「そうなのか。それにしては元気そうだね。カラ元気ってわけでも無さそうだから良かった」
「うん。あおくんありがとう」
「俺は何もしてないけどな」
姉弟で話してると父が割り込んできた。
「お、あいつと別れたのか?やっとかー。良かった。父さん実は彼、あまり好きじゃなかったんだよ。紫が選んだ人だからと思って我慢してたんだけどな。いい出せなくて。いやぁ、ほんと良かった良かった。これで安心して新しい年が迎えられる」
「え、そんな風に思ってたの?」
「うん、でも言ったら紫が嫌な思いするだろ?だから言えなくてなぁ」
なんと、全く気が付かなかった。私は少し、人を見る目を鍛えないといけない気がする。しかしどうやって鍛えたらいいんだろうか。難しい…。
それと父の気遣いが何とも嬉しく思った。
「ありがとう、お父さん」
「お父さんも何もしてやれてないけどなぁ」
それでも、その暖かい笑顔に見守れていることがありがたいと素直に思った。
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