■4.まったり三が日
年に一度の歌番組が終わった。
日本各地の有名なお寺や神社が映し出されている。
この厳かな雰囲気が好きだ。新しい年が来るぞ、というわくわく感。
除夜の鐘を聞く。実家から直接は聞こえないので、テレビの音に耳を済ませる。
ゴーン… ゴーン…
テレビ番組のアナウンサーが、新しい年の始まりを告げた。
家族4人、向かい合ってお辞儀をする。
「明けましておめでとうございます」
全員で揃って新年の挨拶をする。これが我が家では毎年恒例となっている。
さすがに小さい頃は寝てしまっていたが、それでも小学生になってからはずっと、この瞬間を楽しみにしていた。
新しい一年が始まった。まだ真っ白の新しい自由ノートを使うときのわくわく感と似ていた。
テレビを消して戸締りをし、全員で家を出る。初詣に出かけるのだ。
初詣は近所にある立派な神社。
既に除夜詣からの行列が出来ているが、屋台に出ている甘酒を飲んだりしているとあっという間に自分たちの参拝する番になった。
『今年一年、家族みんなが幸せに暮らせますように』
去年の年末、というか昨日だが、とても家族の愛を感じたため、今年は家族のことを第一にお願いすることにした。
弟と一緒におみくじを引いてみる。
「げ、俺末吉だ」
「これから上にいくらでも上がれるってことだよ。今日からだんだん良くなるのさ。さて私は…大吉だ。今日が最高潮ってこと?一年間この運気をキープするのは難しいと思うのですが」
「いいじゃん、俺の末吉より。あ、でも健康運はいいって書いてある。ならまだいっか。とりあえず木に結んで来よう」
「私は…おぉ。良いことしか書いてない。願望、のぞみのまま…まじか。旅行、行く先利益有り。事業、利益追求してはいけない。あれ、仕事はよくないのかな。
大吉のおみくじはお財布に入れておくことにした。
財布を出したついでに屋台で今川焼きを買う。初詣もちょっとしたお祭り気分で楽しい。
この時間はさすがに着物姿の人はいないか。ちょっとだけ残念。着物姿のこどもとかいると本当に可愛いくて癒されるけど、着てる本人はすごく寒いんだよねーと昔のことを思い出す。
「さて、帰るぞー」
父の一言で屋台を見ていた私は弟に引っ張られて帰る。
帰宅してそのまま自分の部屋に戻り、お布団を敷いて寝る。
母が干しておいてくれたので、今日もふかふかして気持ちの良いお布団だ。
今日も夢を見た。
巨大な白ヘビの上に乗り、空を飛び回る。眼下に広がる世界は建物的に日本でなく、ヨーロッパ圏のように見える。森と湖が見えてきた。そして可愛らしい家が一件。
どこか山小屋風の可愛いおうち。緑色の扉が可愛いと思った。
どんどん近づいていき、家の前でヘビから降りた。
そして緑の扉を開けてみようとしたところで目が覚めた。
初夢から白ヘビとはなんとも縁起が良い。
可愛らしい家を見た気がするが、はっきりとは覚えていない。
でも、富士山と鷹と茄子は出てこなかったな、などと思った。
「おはよー」
台所に立っている母に声を掛ける。年明けしてすぐ新年の挨拶はしているので「おはよう」だ。
「ゆかちゃん早いわね。あおくんはまだ寝てるわよ」
「起こしてこようか?」
「起こさなくていいわよ、元旦なんだからゆっくりさせてあげなさい」
今日の午前中は家でゆっくり過ごし、午後からは父方の祖母の家に行き、親戚で集まって夕食を食べてくる予定となっている。祖父はもう亡くなっているが、父の兄夫婦と祖母は暮らしている。
正月番組でも見るか、とテレビをつけ、朝ごはんを食べる。
朝はお節とお雑煮だ。母手作りの雑煮は醤油ベースで、きのこが数種類入っている。その他にもごぼうやネギ、人参、鶏肉などが入っていて、とても具沢山。好みで刻まれたみょうがを乗せる。
しっかり野菜が摂れるので身体にも美味しい。
父は生姜を入れるが、私は
出かける支度も終わったので、再びリビングでぼーっとテレビを見ていると「憧れの山小屋暮らし!」というコーナーが始まった。
都会から田舎に引越し、自分で山小屋を建てて暮らしている人や、田舎暮らしを満喫している芸能人などが特集されていた。
夢で見た家もこんな風だったかなぁー?やっぱりあんま覚えてないけど、近い気はする。
緑色の扉が可愛かったのは覚えてるんだけどなぁ。
まぁ、夢は所詮夢だけど。でも山小屋暮らしかぁ。いいなぁ。
自給自足はしたいわけじゃないけど。山とか川とか憧れるよなぁ。でも仕事が無いと暮らせないし、実際難しいよねぇ。
東京生まれの東京育ち。生まれたときから周りは住宅街。山なんて無いし、用水路としての川しか身近には無い。
実際には分からない苦労の方が多いとは思うのだが、やはり自然に囲まれた暮らしには憧れる。
いいなー、素敵だなーと、出かけるまでテレビを見ながら過ごした。
2日は母と買い物に出かけ新春セールを堪能。3日は母方の親戚が挨拶に来たくらいで特にこれといって何もなく、ゆっくり過ごし、夕方には独り暮らしのマンションに帰宅した。
篭った空気を入れ替えるため、まずは窓を全開にした。コートはもちろん着たまま。
あまり雪は降らないとはいえ、東京の冬もそれなりに寒いのですよ。雪国より暖房設備が整っていない分、北海道出身の友達なんかは「東京の方が寒い!」と言っていた。
テレビをつけて窓を閉め、ヒーターをつける。
明日からまた忙しない一日が始まる憂鬱さを感じながら、実家に持って行ってた着替えを片付ける。洗濯物は実家で洗ってきたのでそのままクローゼットにしまう。
寝室にあるサイドテーブルの上をふと見て、そこに乗っかっているものを認識し、「あ!」と思い出す。
何で今まで忘れていたのだろう。まぁ、買ってから1ヶ月経つと忘れることもあるよね。
そう、忘年会で久実先輩にも話しした「宝くじ」である。
パソコンの電源を入れる。宝くじのサイトを開き、当選番号発表ページを確認する。
どきどきしながら、自分が買った宝くじを袋から出す。
紫の過去最高当選金額は3千円だ。
今年は前後賞合わせて8億円。さすがに1等は無理でも、3万円当たってないかなぁ!!と期待する。6千円分のくじを買ったので、3万円当たってればかなりの黒字である。
自分の手元にある数字と、サイトに表示されている数字を見ていく。
1束目は完敗。300円が1枚のみ。はぁ、と息を吐く。
10枚束の2束目に入ったところで紫の手が止まった。
「うそ…でしょ…」
3枚目の数字と画面を何度も見比べる。
これは去年や違うシーズンの結果ではないかと何回かリンクを確認する。そして何度も数字を確かめる。
「…当たってる…?」
自分の手持ちの数字と画面の数字が全て、1つも異なる事なく一致している。
信じられなくて10回以上見直す。
そしてようやく自分の中で納得した。当たってる…!
前後合わせて8億円。見事に当選していた。
サイトをよく読み、支払い期間を確認する。1月5日から支払いされるらしい。
明日が4日で仕事始め。可能であれば、明後日午前休みか午後休みを取ってみようか、と思った。直接銀行に行き、当選しているかの確認をしたいと思った。
興奮しているための見間違いかもしれない。自分の目が信じられないのだ。
取り敢えず落ち着けー。落ち着くんだ私。明日は仕事。うん、仕事。明日の支度をしてご飯を食べて寝よう。そうしよう。
その日はなかなか寝付けず、お酒を少し飲んでようやく眠りについた。
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