第9話   ネタは夢から降ってくる

ロビン   すっぴん。ラフな格好。稽古場の陰で一人、どんよりと背筋を丸めている。


メル    カゴいっぱいの洗濯物を持って、舞台端から登場。


メル    ロビンの背中に気がつき、小首をかしげる。


メル    『ロビン? ちょっとお疲れ?』


ロビン   ビクッとして振り向く。


ロビン   『びっくりした、メルか。うん、ちょっと考え事していた』


ロビン   立ち上がって、お尻についた土を手でパンパン払う。


ロビン   『でも、もういいんだ。何か用事か?』


メル    軽く首を横に振る。


メル    『特にないけど、この後ヒマ〜?』


ロビン   『ああ、うん、稽古は終わったとこ』


メル    『近くのパン屋でお茶しない? 僕、パン食べたいんだ』


ロビン   呆然。


ロビン   我に返り、苦笑する。


ロビン   『食べたいって、食べられないだろ? メルの体じゃ』


メル    『匂いを食べてるんだよ。実際に口径摂取しちゃうと、錆びるかもしれないから』


ロビン   軽く吹き出す。


ロビン   『わかった、匂いな。俺が喫茶店で注文するから。あ、でも男二人で行って一人分だけ頼むのは、ちょっとな』


メル    『それじゃあ、二人分頼んで、僕の分はロビンがお土産に持って帰ればいいよ。ちょうど新作のパン、何種類かあったしさ、いっぱい買えちゃうんじゃない?』


ロビン   苦笑。


ロビン   『そうだな。ちょうど新作がいくつか気になってたとこだし、久々にのんびりするか』


メル    『僕はパンが食べられないけど、お茶代は出すよ』


ロビン   『さりげに、たかるなよ。あ、メルってお茶も飲めないんじゃなかったか?』


メル    『へへへ』


メル    肩を揺すって笑う。


メル    『いつか、みんなと同じように、食事が楽しめたらな〜。オズ様、叶えてくれるかな』


メル   ロビンの前を、足どり軽く素通り。


メル    『コレそこのランドリーに押し込んだら、すぐに行くね。ゴチになりまーす』


ロビン  目と頭で、去ってゆくメルを追う。


ロビン   『まあ、食うのは俺だけだし、いいけど、べつに』


ロビン   また一人になる。優しい風に髪がなびく。


ロビン   髪を耳にかけるか、手櫛でおさえる。


ロビン   メルが去った方角に顔を向けたまま、表情が曇る。


ロビン   ため息をつく。


ロビン   『なんで俺が、新作のパンが気になってること、気づくんだ? 誰にも話してないのに』


ロビン   身を固くする。首をすくめて、辺りを意味もなく眺める。


ロビン   『いつもそうだ。メルは細かい人の要望まで丁寧に汲み取って、さりげなく寄り添ってくれる』


      『まるで、心が読めるかのようだ。しかし、ロボットに心ってあるのか?』


ロビン   少し前方向に歩く。


ロビン   『もしも俺たちの心を読み取って、ロボットみたいに反射的に尽くしているだけだとしたら』


ロビン   立ち止まり、腕を組んで、うつむく。


ロビン   『俺の考えすぎかな』


ロビン   顔を上げて、団長のいる大きな建物の三角屋根を、遠く望む。


ロビン   『団長はどうしてメルを雇ったんだろう』


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