第86話 暗殺未遂

 最近はハンターとしての仕事より生産の仕事の方が多かった。

 ガスポーションは俺とフィオレラしか作れない。

 命が掛かっていると思うと優先してしまう。




 薬師ギルドの納品の帰り道。

 何か視界に黒い点が見えた。

 やばいクロスボゥの矢だ。

 景色がスローモーションになる。


 動け、動け、動け。

 死ぬと思った瞬間、力が溢れてきた。

 無我夢中で矢を手で払う。

 矢は逸れて民家の壁に刺さった。




 心臓がバクバクいっている。

 足がガクガクした。

 そうだ、刺客はどうした。


 視線の先にはアレタさんが刺客を殴り、取り押さえていた。

 セラディーヌさんは辺りを警戒している。

 もう一発撃たれたら危なかった。




「どうして、助けてくれたのですか」

「見殺しにすると国の関与が疑われるにゃ。今はまずいにゃ」

「そうですわ。せっかく戦争を回避できたのに」

「そうですか。ありがとうこざいました」




 魔力ゴーレムを操作しようとして魔力が無いのに気づく。

 もしかして、スキルが自動発動した。

 都合よすぎる。

 まあ良い刺客を引き渡して、今日は帰ろう。




 侯爵から手紙を貰う。

 刺客は王都の闇ギルドの者だった。

 依頼主は貴族の使いとしか分からない。




 皆を集めどうするか決める。


「ええっと、今回の襲撃に関して何か意見のある人」

「他国の関与はないにゃ。どこもスタンピードの後始末で大変にゃ」

「そうですわね。きっとこの国の開戦派ですわ」


 この国はスタンピードの被害が少なかったから、攻め込みたい人間はいるだろうな。




「多分、依頼主はヤルヤード伯爵だな」

「ビオンダさん、その理由は?」

「恨みを買っている自覚がないのか。貴君は鈍感だな」




「子分のスモーピィ子爵をやっつけたからですか?」

「それだけじゃないぞ。教会の貴族派も粛清しただろう。それから、荒野の緑化が更に追い討ちをかけている」


 おう、確かに貴族派からは恨まれていそうだな。


「分かりました。どうするかな、これは……攻撃は最大の防御だという事で打って出ましょう」

「やるのかにゃ。戦争かにゃ」

「いえ、そこまでは。悪事を暴きたいですね」




 王都の情報がいるな。

 侯爵に頼るか。

 借りを作りたく無いが、仕方ない。




 侯爵はいつもの質素な部屋で手紙を書いていた。

 机の上を片付け、こめかみを数度揉んでから話出した。


「タイセー男爵、今日は何だ」

「刺客の件で助けてもらいたいのですが」

「どうして欲しい。言ってみろ」

「ヤルヤード伯爵の情報が欲しいです」

「それなら、王都で騎士隊長をやっている奴を紹介してやろう」

「ありがたいです」

「なに、こちらにも利がある。貴族派を弱体化させたいからな。それと、怪しい行商人を捕らえたぞ。翌日には毒を飲んで死んでいたが。持ち物から帝国の間者をうかがわせる品が出てきた。気をつける事だ」

「きな臭いですね。気をつけます」




 俺は騎士隊長に会う為に指定された王都の貧民街に向かっている。

 狭い路地を幾つも通り地図に書かれた場所へ急ぐ。

 少し広い場所に出たと思ったら、前から覆面をした怪しい集団がやってくる。

 後ろを見ると後ろからも来ていた。

 囲まれたな。




 フィオレラにトーチカと鉄条網を出してもらう。

 皆して、透明弾を撃ちまくる。

 実弾を使っても問題はないのだが、安眠できなくなるのは嫌だ。

 最近知ったのだが、兵士と騎士を含む貴族は罪状確認を拒否できる。

 人殺しは好きじゃないから、これで良いだろう。




 俺は魔力ゴーレムの転移刀で盾を切り刻む。

 屋根の上の射手も魔力ゴーレムのスタンガン魔法で眠らせた。


 最後の一人は懐から吹き矢を取り出すと俺に使ってきた。

 やばい、屋根の上に気を取られて、油断だ。

 俺は普通の五倍以上の速さで避ける。

 また、スキルの自動発動だ。

 絶対に俺に何か細工されている。

 まあいい、後で封神に追及しよう。

 とりあえず、片付いたな。

 ビオンダさんが慎重に覆面の輩を調べる。


「全員死んでいるな。毒を飲んでいる」

「これ、情報が漏れている。もしくは騎士隊長が裏切っていますね」

「そのように考えるのが、自然だろう」




 とりあえず、騎士隊長に会いにいく事にした。

 騎士隊長らしき人はあばら家で俺達を待っていた。

 鎧を付けてないところから、裏切りの疑念が少し減る。




「騎士隊長の使いだ」

「ここに来る途中に襲われましたよ」

「ああ、騎士の中に裏切り者がいて、隊長は今動けない」




「それで、伯爵の情報は貰えるのですか?」

「それは無理だ。俺は情報を託されるまで信用されてない」

「この置物は見た映像を記録する道具です。これを伯爵の家に仕掛けられませんか」

「それなら、協力して欲しい事がある。俺の担当の捜査が伯爵の金庫を調べるというものでな。ダイヤルの番号で行き詰っている」

「この道具をぜひ使って下さい」




 道具の使い方を説明し段取りを話しあったのち別れた。

 カメラはメモリーカードに記録する形式だから、分解されても困らない。

 パソコンが無ければ役に立たないからな。

 裏切られても悪用はされないだろう。




 置物は数日後とどいた。

 メモリーカードをパソコンで読み込んでビオンダさんに見てもらう。


「確かにこの人物はヤルヤード伯爵だ」

「このあと金庫を開けますよ」


 ダイヤルが揃った瞬間の静止画を拡大して番号を割り出す。

 上手くいったな。




 騎士に番号を伝えた。

 数日後、伯爵は国家反逆罪で逮捕された。

 俺は騎士隊の宿舎に招かれた。




「今回は世話になったな。隊長のトバイアスだ」

「ハンターSランクのシロクです。顛末を聞かせて欲しいのですが」

「どこから話せばいいか。発端はワイバーンの放浪だ。他国がスタンピートに苦しむ中この国は殆んど無傷で切り抜けた」

「ワイバーンの放浪があれば、被害が他国と同じぐらいだったと」

「その通りだ。伯爵は帝国と繋がっていた。当初この国と他国を争わせ国力を削ぐ計画だった」

「ところがスタンピートが台無しにした訳ですね」




「そうだ。そして、次は伯爵に内乱を起こさせ隙を狙おうとした。しかし、荒野の緑化がそれを阻止した」

「あれで、国王派が優位に立ったと」

「それと、子分の子爵の失脚や教会の不正の暴露は地味にダメージになった。次に帝国が目を付けたのが君だ」

「俺が戦争の抑止力になっているんですね」

「その通りだ。排除したかったんだろうな」

「分かりました。ありがとうこざいました」




 なんだか俺が知らない間に大活躍しているみたいになったな。

 帝国は今後どう動くのだろう。




 アドラムの町に着くと侯爵から手紙が来ていた。

 俺の活躍が大変喜ばしいと書いてある。

 帝国は内乱の援助の資金を逮捕で根こそぎ王国に持っていかれた。

 帝国内部は内乱の一歩手前らしい。

 皇帝の手腕が疑われていると手紙にある。

 なら当分、心配いらないな。

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