第85話 ローレッタの婚約

 ローレッタを見ると俺があげたネックレスとは違う物を身につけている。


「ネックレスどうしたんだ」

「えへへ、婚約した」

「おめでとう。式は何時、挙げるんだ」

「えいと、新居の建築費用が溜まったらだ」




 フィオレラの部屋をノックして入る。

 フィオレラは魔道具作りの手を休めて俺を見つめた。


「フィオレラ、ローレッタが婚約したみたいだけど知っていたか」

「ええ、とっくに」

「じゃあ何か贈ろう」

「アクセサリーはどうですか。頑張って作りたいです」

「良いな。この世界で友情を示す花とか無いのか」

「あります。チオネの花がそうです」

「じゃあ、半球形状のダイヤモンド、カボションカットの中にチオネの花の空洞を作って、指輪に仕立てよう」

「良いと思います。ビオンダさんにも費用を出すか、聞いてみます」




 インターネットで宝石の形の名前は調べた。

 俺も初めて聞く名前だ。

 翻訳機能ではちゃんと言葉になった。

 この世界にもある形だからか。

 翻訳機能でこの世界に同じ物があるか調べられるな。




 そうだ、スーパーの店長にも何か贈ろう。

 早速インターネットで友情を示す植物を探す。

 あった、アイビーだな。蔦なのか。

 おっさんに花のアクセサリー贈るのも気持ち悪いから丁度良い。

 フィオレラに頼んでカボションカット水晶の中に、アイビーの空洞がある物を作ってもらった。

 アクセサリーにするのは店長にやって貰おう。

 レジに手紙と共に水晶をそっと忍ばせた。




「ローレッタ。フィオレラとビオンダさんと俺からの婚約祝いだ」

「おめでとう、幸せになってね」


 フィオレラが祝いの言葉と共に指輪の入った箱を渡す。


「おめでとう、このパーティの結婚一号はローレッタになりそうだ」


 ビオンダさんは祝いの言葉と共に花束を渡した。

 ローレッタは指輪の箱を開け顔を綻ばせる。


「わりの、祝ってけで嬉しだ。宝物にす」




 俺の部屋でフィオレラがミシンを踏む。


「フィオレラ、今なにか欲しい物あるか」


 フィオレラはあわただしく立つと窓を開け空気を入れ替えた。


「突然どうしたんですか」

「最近、贈り物をしてないと思ってな」




「そうですね。稀人である事を隠す必要が無いなら、ダイヤカットの教本が欲しいです」

「それなら、翻訳が面倒なだけで、本自体は簡単に手に入る。他には無いか」

「前々から思っていたのですけど、一人で食べているカレーでしたっけあれが食べてみたいです」

「カレーは猛毒なんだよ。まてよ、香辛料はこの世界にもある。なら再現すれば」




 味覚強化を使えばカレーに使っている香辛料と似ているこの世界の香辛料を探し出せるかも。

 インターネットで調べてみるか。

 ふむふむ、この香辛料ならスーパーで手に入るな。




「フィオレラ、香辛料を少しずつ沢山の種類集めて欲しい」

「分かりました」


 フィオレラは自分の部屋に戻ると買い物籠をもって出てきた。

 俺に行って来ますと元気に挨拶し、ローレッタを連れて出かけて行った。

 数が多いのでローレッタを巻き込んだな。




 重そうに買い物籠を提げフィオレラとローレッタが帰って来た。

 リビングには取り出した小瓶が並ぶ。

 スーパーで手に入れた香辛料を舐め、小瓶の中から味の近い物を探す。

 味覚強化のアビリティ大活躍だ。

 近い物が分かった。

 再びお目当ての香辛料をかなりの分量、買ってきてもらう。

 インターネットで調べた分量を参考にブレンドする。

 出来上がったが色と匂いが違う。

 それは今後の課題だな。




 試食してみる。

 味は確かにカレーだけど匂いが違うと、これじゃないと言う気持ちが溢れてくる。

 ナンもどきは美味いな。

 フィオレラとローレッタはガツガツと食べている。

 玄関でノックの音がする。




「この匂いなんですの。たまらないですわ。とても美味しそう」

「セラディーヌさん、良かったら食べてって下さい」


 セラディーヌさんはリビングの椅子に座ると、何も言わずにカレーをナンもどきに付けて食べ始めた。

 エルフ的には大好物なんだろうか。

 それとも、セラディーヌさんだけに好評なのか。

 フィオレラとローレッタも美味しそうに食べているから売り出そう。




 生産はポーション工房に丸投げだ。

 とりあえず、エルフ国にセラディーヌの伝手でサンプルとして送ってみる。

 国内の営業は商業ギルドに任せた。

 権利料払うからレシピが欲しいと申し出られたが、断固ことわった。

 味覚強化を持っている料理人はいるだろうから、放って置いてもそのうち真似されると思う。

 カレー文化が起こると良いなんて思ったりもする。




 カレーは大流行した。

 工房では雑務ギルドから人を雇い、カレー粉を量産した。

 雑務ギルドから秘密が漏れるのも時間の問題だな。

 露店の串焼きまでカレー味なのはどうかと思う。




 どこに行ってもカレー味なのは参った。

 つぎに流行らすのはデザートだな。

 実はバニラに似た香辛料はカレーの研究で見つけてある。

 まずは、バニラアイスだな。

 冷却の魔道具の強力な物を作る。

 材料を混ぜて火に掛けて冷やして固めるなんちゃってアイスだ。

 固まってから混ぜるとふんわりしてきてアイスらしき物になった。

 もう一度冷やして完成だ。




 食べてみたが、少しジャリジャリする。

 どうも、なんちゃっての域を出ていない。

 アレタさんが居たので食わせてみる。


「試作したお菓子があるんだ食べてみる?」


 アレタさんは器に盛られたアイスをスプーンで大きくすくい豪快に口に入れた。


「うみゃーーー!! すごいにゃ! とろけるにゃ!」


 アレタさんは毛を逆立てて叫ぶ。




「なんですの」

「シロクさんこれは」


 フィオレラとセラディーヌさんが部屋から一緒に出てきた。

 セラディーヌさんはフィオレラの作った服を着ている。

 ああ、服のモデルをやっていたのか。


「なんだ敵襲ではないのか」


 ビオンダさんは戦闘態勢だ。銃を手に持っている。


「みなさんも召し上がって下さい」




「シロクさんこれ毎食作って下さい」

「うめだ。ほっぺが落ちそう」

「美味しいですわ」

「美味いな。神を感じた」


 アイスは好評だった。女性陣の目の色が違う。




 商業ギルドにレシピを売る。

 魔道具が更に売れそうなのでこういうレシピはいいな。




 一方、本の翻訳作業は思いのほか大変だった。

 スキャナーやパソコンの外字登録を使ったりした。簡単な辞書も作った。

 とりあえずフィオレラが読み進めるのに合わせてコツコツと翻訳する事にした。

 実践しながらなので、翻訳のスピードとしては丁度いい。

 簡単なカットならフィオレラは出来るようになった。

 売りに行った宝石店では高評価だ。

 しかし、変形スキルがあるからすぐに真似されるだろう。

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