第79話 次元門

 ガスポーションの量産は順調だ。

 患者の数は減っていき毎日、納品しなくても良くなった。

 弟子入りの件を薬師ギルドのギルドマスターに相談したら、自分がやると言い出す。

 忙しくないのかな。

 薬草の目利きをまず覚えて貰うと言われ、レシールさんは村で収穫した薬草を前に勉強している。

 こんなの分かんないと喚いていたが、俺にはどうしようもない。




 全て順調の日々を送っていたが、迷惑な客が訪れた。


「今日からお世話になりますわ」

「今日からよろしくだにゃ」

「セラディーヌさんとアレタさんですよね。どうして、ここに」

「私の国で和平派が実験を握りました。表向きは友好の使節ですわ。でも実態はスパイですね」

「右に同じくだにゃ」




「スパイって言ったら、スパイにならないのでは」

「そこは問題ないです。後でばれたら怖いので、先に言っておくよう念を押されましたわ。この国の上層部も納得してます」

「シロクは目立ちすぎたにゃ。他国はおろか自国にも脅威に思われてるにゃ」

「そんな。ただ命令に従ったのに」




「ところで、その顔に着けてる物はなんにゃ」

「ああ、これですか、サングラスです。強い光を見ても緩和される道具です」

「何か変ですわ。似合ってないわよ」


 どうせ俺はちょい悪とか、そういうキャラじゃない。




「明日からパーティメンバーとして、よろしくお願い致します」

「これからは仲間にゃ」

「セラディーヌさんとアレタさんは仲がいいのですか」

「獣人国は同盟国ですわ」

「そうですか知りませんでした」




 俺の弱点などは腐るほどあると思う。

 まず近接戦闘が駄目だ。

 それから射撃もあまり上手くない。

 生産はフィオレラに頼りっきりだ。

 色んな国に分かったところで、どうしようもない。

 ただフィオレラの実力は隠したいと思う。




 俺がやり過ぎたってのは、事実らしい。

 ゴブリンは一万を超えてたと聞いた。

 人間でも千人の部隊に匹敵すると思われていると言われた。

 無傷で倒した事から数倍の戦闘力があると見られているかも。

 うん、やってしまったのは仕方ない。

 スパイの件を最初から打ち明けるほど恐れられているのか。

 侮られるより、ましと思う事にした。




 婚約者一人に元弟子が一人と監視一人。そして、スパイ二人。

 どんなパーティメンバーだ。

 まあ、ハンター業はボチボチ行くから問題は無いだろう。




 皆を集める。


「ローレッタ以外は知っているな。セラディーヌさんとアレタさんだ。パーティに加わる」


 フィオレラが嫌だという顔をする。


「フィオレラ、国が噛んでいるから、拒否はできない」

「ぐっ」


 納得した顔ではない。後でフォローだな。




「ローレッタだ。よろしぐ」

「よろしくですわ」

「よろしくにゃ」




「部屋をどうするかな。部屋が足りないんだ。悪いけど宿に泊まってくれる」

「ええ、分かりましたわ」

「了解だにゃ」




 信用できないから、宿屋に泊まってもらった。

 ただ部屋が無いのも事実だ。

 フィオレラを宥めるのが大変だった。

 借金を返したら、愛の巣を作ろうと言ったら機嫌が回復。

 部屋数たりないから一石二鳥だ。




 翌日、森で二人に中折れ銃の説明をする。


「凄いですわ」

「前にも使っているところ見たにゃ。あれの方がすごかったにゃ」

「あれはミスリル貨十二枚の特別製なので」

「この武器も中々だにゃ」

「これも大金貨一枚ぐらいはします」

「それは困りましたわ。良いお土産になると思いましたのに」

「それなら弓使うにゃ」


 武器に関する評価はまあまあだ。

 しかし、なんとか作り方を教わり自国に持って帰りたい様子が見え見えだった。




 的に向かって撃たせると二人は中心ではない物の外すことなく打ち抜く。


「上手いですね。見ていて下さい。今度は魔弾です」


 俺の撃った魔弾は的に当たりくくりつけた木も倒す。


「凄い! これなら多少お金が掛かってもいいですわ」

「これは一発で大銀貨五枚もするんです滅多に撃てません」


 二人の武装は中折れ銃でいいな。

 マシンガンは流石に持たせられない。




 時間があまったので、ハンターギルドに顔を出したら奇妙な依頼があった。

 なんでもゴブリンの領域で空間が歪んで見える場所があるらしい。

 何人か挑戦したが、何も分からないと言う事だ。




 興味を引かれたので受けた。

 ゴブリンの領域なので一人で出かける。


「あれだな」


 確かに空間が歪んで見える。

 最初はミラージュスネークでも居るのかと思ったが、俺が近くに寄っても反応しない。

 しばらく眺めて木の棒で突いてみた。

 木の棒は歪みに飲み込まれる。




 小石を投げ入れて見た。小石は飲み込まれ何も起きない。

 チラッと景色が見えたような気がした。

 その景色は地球のどこかの町のようだ。

 地球に通じていると思うと郷愁の念が噴出してどうにもたまらない。

 次に景色が見えたら転移刀を突き刺そう心に決める。




 今だ。転移刀を差し込む。

 ミシミシいう音と共に空間に十センチの亀裂が入る。

 もの凄い轟音と共に亀裂が拡大し始めた。

 亀裂は空気を吸い込みビュウビュウと風が音を立てる。

 これはやばいんじゃないか。




「助けて神様!」


 気がついたら叫んでいた。

 亀裂の拡大が止まる。

 亀裂が変形して三十センチぐらいの正方系になった。

 そして見えなくなる。




「困った事を助ける約束、果たしたぞい」


 神様がいつの間にか立っていた。


「わしの仕事の助けになったから、今回はサービスでスキルを与えるのじゃ」

「ありがとうございます」

「次元門のスキルを授ける。注意事項は穴を広げようとしない事。生き物を通さない事。持ってきた食べ物をこの世界の人間に食わせない事じゃ」

「えっと食べ物は何故ですか?」

「次元門の先の世界の食べ物はこの世界の人間にとって毒になる場合があるのじゃ」

「分かりました」

「ではさらばじゃ」


 次元門の先の食べ物は毒か。

 俺はこの世界の人間じゃないよな。

 どうなんだろう。

 繋がった先を見てから考えよう。




 さっそくスキルを発動してみる。

 三十センチぐらいの違った景色が見える空間が宙にある。

 この景色は……そうだアパートの前だ。

 地球と繋がったのか。

 石を投げ入れると石がアスファルトの地面に転がる。




 これ通ったら地球に帰れるのか。

 待てよ。

 確か穴を広げるのが駄目で、生き物も駄目だったな。

 じゃあ帰れない。

 せめて実家に無事で生きている事を連絡したい。

 この景色、移動できないのかな。

 おお、念じると動く。

 とりあえず、自分の部屋の前まで来る。

 表札を見ると他人の名前が書いてあった。

 仕方ない。

 俺はきっともう人々の記憶からなくなり始めている。

 そう思うと涙が出てきた。

 スキルを解除すると現場を後にする。




 とにかく無事を実家に伝えよう。

 急いで家に帰り、次元門の検証に掛かる。

 分かったのは移動スピードが歩くぐらいだと言う事。

 これじゃあ実家まで移動するのは無理だな。

 実家までは百八十キロはある。無理すれば可能に思えるが、時間が勿体無い。

 電車に乗ったら動きに着いていけず、壁に当たってスキルが解除された。

 魔石銃を撃ったら炎の矢は地球でも爆発。

 次元門を裏から見ると透明だ。何も無いように見える。

 次元門を開く時は部屋を暗くしておこう。

 そうすれば、こっちの景色は見えにくいはずだ。




「フィオレラ、新しいスキルを授かった」

「凄いです。どんなスキルですか」


 笑顔で興味深げに聞いてきた。


「次元門だ。元の世界と繋がっている」

「えっ、帰ってしまうのですか」


 フィオレラが少し悲しそうにうつむく。


「心配はいらない。生物は通れない」

「そうですか、安心しました」


 フィオレラが再び笑顔になる。


「実験するので協力してくれ」




 次元門を通して地球上でスキルを試したが、問題なく使えた。

 念動で地球の物を引き寄せる実験をして成功。

 三十二センチを超える物は門に入らない事も判明。

 これで手紙を出す算段は立った。

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