第20話 嫌われ者

 気を引き締めるように二人に発破を掛け狩りに繰り出す。

 昨日とは違う道は新しい経験を期待させ同時に少しの不安をもたらす。




 フィオレラから警告が飛んだ。

 警告の内容は魔獣が一匹来るとの事。

 単体は強敵が多い。

 二人に注意を促す。

 元気の良い返事が返ってくる。




 前方から草をかきわける音が聞こえてきた。


「なんだ小さい。網ト」


 網トーチカと鉄条網の指示を出そうとした時。

 兎型の魔獣がもの凄い勢いでフィオレラに飛び掛ってきた。

 フィオレラを助けようと咄嗟とっさに手を出すとザックリ切られている。

 魔獣の方向は少しずれ。

 フィオレラの腕に装備されている盾に阻まれた。

 一瞬動きの止まった魔獣にクロスボウの矢が突き刺さる。




「いててっ」


 急いで中級ポーションを傷口に振り掛けた。

 傷口はあっという間に塞がる。

 ポーションは飲んでも振りかけても効果あるなんて不思議だ。

 便利だ。

 どうやって作るのだろう。


「び、びっくりした」


 半ば放心状態のフィオレラ。


「フィオレラ、大丈夫?」

「はい、盾に大きな傷ができただけです。師匠こそ大丈夫です?」


「ああポーションで直したから心配いらない。それと、よくやったローレッタ」

「兎は慣れでらはんで得意だ」


「こいつはエッジラビットだな」


 エッジラビットは嫌われ者の魔獣だ。

 ほお骨から左右に刃状の骨が突き出ている。

 油断していると一瞬で大怪我になる癖に売値は安い。

 魔石を抜いて二人の方に話掛ける。


「毛皮は安いけど、肉は美味い。解体はどうしよう」

「絶対、解体すべ」


 ローレッタが食いついた。


「食材になるのでしたら、いいんじゃないでしょうか」

「よし解体しよう。フィオレラは魔力探知。ローレッタは念の為警戒してくれ」

「「はい」」




「けちが付いたし少し休んだら今日は帰ろう。ポーションの補充もしたい」

「そうですね」

「早ぐお肉ばシチューにしてだ」




 しかし、帰り道魔獣に出会ってしまった。


「一匹きてます」

「どうやら強敵らしい。みんな無傷で帰るぞ」


 遠くからドスドスと足音が聞こえてきた。


「でかい。オークだな」


 なぜここがオークの領域と呼ばれているかと言うとオークが金銭的に美味しい獲物だからだ。

 オークは二メートル半の二足歩行の猪の魔獣だ。その怪力は侮れない。

 それは腰蓑を着け右手には樵の物だったと思われる巨大な斧がにぎられていた。


「フィオレラ、薄いトーチカと鉄条網だ」

「【土魔法】あっだめ」


 何事かとオークを見ると鉄条網を踏みつけ、トーチカに斧を振り下ろしていた。

 ガコンと大きい音がして、トーチカにヒビが入っていた。


「うそだろ、ローレッタ今の内に反撃だ」


 窓からローレッタはクロスボウを俺はゴーレムで炎の槍を撃った。

 炎の槍が当たり爆発する。

 グオオッという叫び声が聞こえ、一応ダメージは入った。

 急いで魔石から魔力を吸収する。


「フィオレラ、厚いトーチカに切り替えだ。そうだゴーレムを借りるぞ」


 泥魔術師ゴーレムからストーンゴーレムに操作を切り替え、オークに殴り掛かる。

 頭を狙ったパンチは避けられた。

 ローレッタも矢を放つが、厚い皮に阻まれて思う程刺さらない。


 オークもストーンゴーレムを強敵と見て、トーチカから離れストーンゴーレムと向き合う。

 オークは斧をストーンの胴体に叩きつける。

 ガゴンという音が聞こえてきた。

 ゴーレムからは石の破片が飛び散る。

 やばい、ゴーレムが削られている。

 向こうは斧を持っていたので、リーチの差は如何ともし難い。


 ローレッタが目を狙う。

 矢は斧に当たる。

 オークは斧で顔面を庇う。

 下半身ががら空きだ。

 ゴーレムでオークの股間を蹴り上げる。

 オークが絶叫を上げ、悶絶して斧を落とす。

 そうだよな急所はあるよな。

 雄で良かった。


 うずくまって悶えているオークの頭にパンチを放つ。

 メギッと鈍い音が響いた。

 連続して頭にパンチを入れると、オークは仰向けに倒れる。

 追撃でゴーレムの全体重を乗せたエルボーを入れた。




「ローレッタ、念の為目にクロスボウを打ち込んでくれ」

「打ち込んだ。死んでらった。ピクリども動がね」

「フィオレラ、スキル解除していいぞ。休憩しよう」


 休憩を終え。早くオークの血抜きをしなきゃと思いながら指示を出す。


「フィオレラ、魔力探知を頼む」

「【魔力探知】多数の何かに囲まれてます」


 状況からピンときた。

 こいつはウインドウルフだ。

 ウインドウルフは狼型の魔獣でみえない風魔術で攻撃してくる。

 こいつはハンターに嫌われていた。

 獲物を横取りしようとするからだ。

 今日は嫌われ者に縁がある。


「来たぞ。薄いトーチカと鉄条網だ」


 ウインドウルフは鉄条網を恐れて、風魔術で刃を一斉に撃つ。

 なんで見えない風魔術が分かるかというと、魔力の分析を使っているからだ。

 風を切る音が迫って来る。

 フィオレラにトーチカの窓を小さくするよう指示を出す。

 風の刃が幾つもトーチカに当たり跳ね返される。


 ウインドウルフの一匹が後退して助走をつけて向かってきた。

 鉄条網を飛び越えるつもりらしい。

 窓を元に戻すよう指示をしてローレッタに跳んだ瞬間を狙うように言う。

 やはり飛び越えてきた。

 俺は炎の矢を撃つも外れ。

 ローレッタの撃った矢は見事額に命中した。

 ウインドウルフはギャウンと情け無い鳴き声を上げ倒れた。


 それを見たウインドウルフは名残惜しそうに一声上げ一斉に引き上げた。

 えっ逃げちゃうの。

 そうだよな全滅するまで戦わないよな普通。

 フィオレラはゴーレム作成を使いストーンゴーレムを修理する。

 オークを血抜きし、帰路につく。

 オークを背負って歩くストーンゴーレムは何故か間抜けに見える。




 倉庫が見えると張り詰めていた緊張が一瞬で解ける。

 無事帰ってこれた。

 ストーンゴーレムを倉庫に入れる。

 ローレッタに解体の人間を呼んできてもらう。

 荷車を引いた男達が現れ、オークの手足をバラバラにし、慣れた様子で荷車に積み込む。


 オークは魔石が約金貨一枚。

 身体も金貨一枚になった。

 オークの持ってた斧は銀貨一枚でクズ鉄として引き取ってもらう。

 オーク一体六十万円、良い値段だ。


 ウインドウルフは魔石が大銀貨一枚。

 身体が銀貨五枚。


 エッジラビットは魔石が銀貨五枚となった。

 こちらは四万五千円と一万五千円。

 さすがに安い、嫌われ者だけの事はある。




 気になっていたポーションの作り方をフィオレラに聞いてみる。

 すり潰した薬の材料に魔力変質スキルを掛けるとポーションが出来上がるらしい。

 薬の材料は魔境で取れる物が殆んどだという事だ。

 ハンターギルドで薬師の護衛依頼が沢山あるが、そういう理由があったのか。

 一つ勉強になった。




 夕食のメニューは案の定。オークの串焼きとエッジラビットのシチューだった。

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