第19話 オークの領域

 泥魔術師ゴーレムを連れて三人で朝の町を歩く。

 道行く人が物珍しそうに見てくる。

 ゴーレムなんて珍しくも無いと思っているが、連れているといつも注目を浴びた。

 正直いって注目の的は苦手だ。


 ハンターギルドに行くとハンターがこの貧乏人がという顔をする。

 そういえば泥魔術師ゴーレムをハンターギルドに連れて行くのは初めてだ。

 このゴーレムは九十万円なんだよ。

 普通のウッドゴーレムぐらいの価値は有るんだと言いたいのを堪える。


 受付に行って中級ポーションを頼む。

 お金大丈夫ですかと心配される。

 今度からゴーレムは外に置いて中に入ろう。

 ポーションも手に入ったし、とっとと次に行く。




「こんにちは、鎧取りに来ました。出来てます?」

「出来てますよ。試着室で着てみてきつい所があったら、直します」


 鎧は皮なのに黒光りしてかっこいい。でもやっぱりコスプレ感は抜けない。

 二人は腕を捻ったり屈伸したりしている。

 二人は可愛く無いとか胸の大きさが分かるのはつらいなどくだらない事を喋っていた。

 二人を置き去りにして鎧を着たまま試着室を出る。


「問題ないようです」

「それはよかった。一ヶ月に一回ぐらい補修にきてくれるとうれしいかな」

「何かあったら、また来ます。二人共さっさと行くぞ」




 西門の外の倉庫はレンガ造りで大きい木の扉がついていて観音開きで開くようになっていた。

 扉の中央には鎖と鍵が付いている。

 倉庫の並びの角には事務所があり男性が三人いた。

 管理人の一人に書類を見せると鍵を渡される。

 鍵の番号である七番倉庫へ行き鍵を開け馬鹿でかい扉をゴーレムで開け中に入った。

 中には二メートル半ぐらいの灰色の岩がある。


「ストーンゴーレムを作るぞ。使うのはフィオレラになる。フィオレラが作れ」

「はい分かりました。【ゴーレム作成】現場で使われていたゴーレムを参考にしました」


 三メートルぐらいの灰色のゴーレムが出来上がる。


「うん、いいんじゃないか」

「フィオレラたげだだ。うわいはでけだ。たげだ迫力だ」


 ローレッタが驚いている。


「ローレッタ、ストーンゴーレムを見るのは始めてなの」

「村にはねがったじゃ」

「よし、これからオークの領域に挑戦するぞ。俺とフィオレラはゴーレムを操作する。ローレッタは周囲の警戒をしてくれ」




 ゴーレム二体と三人のパーティでオークの領域の道を進んで行く。

 オークの領域の魔獣は大きい為、持って帰るのにはストーンゴーレムが必要となる。

 よく通る場所はゴーレムに踏み固められ道になっていた。

 森はゴブリンの領域とは違って虫の声や鳥の声などが聞こえさわがしい。

 果実も沢山生っていて色彩豊かだ。




「この辺から魔獣が出てくるはずだ。フィオレラいま魔力探知はどれぐらいの範囲に届く?」

「そうですね。五百メートルほど届きます」

「十分ほどゆっくり歩けば五百メートルぐらいか。十分歩く毎に魔力探知を使うとしよう」


 何回か魔力探知を掛けては進みを繰り返した時。


「なにかあちらの方に五匹います」

「群れを作る魔獣は大抵弱い。でも数の力は侮れないから慎重に行こう」

「「はい」」




 ゆっくり魔獣がいると思われる方向に行く。


「見えました。あそこです」


 射手らしく目の良いローレッタが真っ先に見つけた。


 大木の果樹に巣を張った一メートル半の蜘蛛形の魔獣がいた。


「ハンターギルドの資料で読んだぞ。たしかウィップスパイダーだ。近寄ると鞭の様に糸を操って攻撃してくるぞ」


 どうしたものか。

 こっちも攻撃できる範囲まで近づかないと話にならない。

 射程距離の勝負だ。


「ここまで近づけはこっちの攻撃が当たる。勝負に勝ったぞ」

「フィオレラ、網トーチカと鉄条網だ」


 俺はまず手始めに炎の矢を撃つことにした。

 姿を隠そうとしない止ってる標的に当てるのは簡単だ。

 炎の矢はウィップスパイダーの一匹に吸い込まれるように当たり爆発音を響かせる。

 ローレッタはその間に矢を二発、俺がやったのとは別の一匹に命中させていた。

 慌てたようにウィップスパイダーが動き出し、糸の鞭を繰り出してくるが届かない

 お返しに炎の矢を撃つ。

 外れた。

 今度はどうだ。

 惜しいかすった。

 爆発の余波でダメージを与えたがたいした事ない。

 動く標的に当てるのは難しい。


 攻撃が届かない事に業を煮やした三匹が木を降りてくる。

 地面を移動して襲い掛かってきたが、鉄条網に阻まれて接近できずにいる。

 チャンスだ。ローレッタ全滅させるぞと声を掛ける

 魔石から魔力を吸収し、連続で炎の矢を放つ。

 ウィップスパイダーぴくりとも動かなくなった。

 ローレッタも一匹仕留めている。


「なんとかなった。死んだふりしてる奴がいるかも知れないから。ローレッタ止めを刺してくれ気をつけろよ」

「わんつか怖ぇだ」


 ローレッタは恐る恐るウィップスパイダーに近づいて頭にクロスボウを撃つ。


「ぜんぶ死んでら」

「フィオレラ、スキル解除していいぞ。魔力疲労があるから三十分は動けない。ここで休憩だ念の為に魔力探知頼む」


「あいって、まさか」

「どうしたローレッタ」

「これ、リクスの木だ」


 巣が在った木を指して驚いている。


「これが如何どうかした?」

「この木の実とっても美味しいんだ。だばサイズが違しうの」

「魔境の森は魔力が濃いと云われていて成長が早いんだ魔獣も草木も良く育つ」

「採っていってもだが?」


 期待のこもった目で見つめてくる。


「しょうがない。俺の背負い鞄にずた袋が入っている。それに入る量なら良いぞ」


 ローレッタは嬉しそうに木に登って実を採る。


 袋がいっぱいになる頃に休憩が終わる。




「ストーンゴーレムに魔獣を括り付けたい。しゃがませてくれ」


 ストーンゴーレムに魔獣をロープで固定しついでにずた袋も固定する。


「帰りも来た時みたいに魔力探知しながら行くぞ」


 何事もなく町に帰って来れた。ウィップスパイダーは一体当たり魔石が大銀貨三枚。身体が大銀貨一枚で売れた。


 十二万円掛ける五体、六十万円だ。


 初日の戦果としては充分だろう。




 帰る自分の家があるのは宿とは違うくつろぎが存在する。


「スキルの練習するぞ。俺は魔力探知を覚えたい。フィオレラは土魔法でトーチカのパターンの切り替えを練習してくれ」

「はい、庭で練習します」

「ローレッタ、あまりやりたくないんだ。しかし、スキルを獲得できそうな訓練を思いついた」

「怖ぇった。やってみてった」


 あまり乗り気でないようだ。


「俺の魔力を使ってローレッタの魔力を刺激しようと思う。だが、他人の魔力が及ぼす影響が読めない」

「危険だはんですか?」

「分からない命を掛ける価値があるのか考えてくれ」

「うーん、今のままだといずれ付いでいけなくなりそった。決めだ。訓練してけ。但しわが死んだら家族の税金ばシロクさんが払ってけ」


 意を決したような声、良い顔をしている。


「分かった。もしもの時は税金は俺が払う。訓練をやってみる。手を出してくれ」


 ローレッタの手を握り魔力を送りこんで刺激する。魔力が激しく動くのが分析で分かる。


「どうだ、何か感じるか?」

「手ば握らいるとわんつかめぐせだ。あっ段々だるぐなる」


 かなり恥ずかしそうだ。ウブなんだな手を握ったくらいで顔を赤くしている。

 適当なところで魔力を送るのを止める。


「どうだ、身体に異常はない?」

「ものすげぐだるだ。動ぎてぐねだ」


 やっぱり一回では魔力を認識できないか。


「たぶん魔力疲労だと思う。異常がなかったら、とりあえず夕方一回三十日ぐらい続けたいと思う」

「へずねばって後二十九回だの。けっぱる」


 頑張ってくれるらしい。

 俺のスキル練習も終わる頃にはローレッタの魔力疲労も回復していた。

 魔石の充填をフィオレラに頼む。




 フィオレラと一緒に料理する約束を実行する。

 何を作ろう。

 何の芋かしらんがかなりあった。

 俺に作れるのはコロッケにしよう。

 コロッケは子供の頃手伝ってよく作った。


 フィオレラと一緒に茹でた芋を潰す。

 フィオレラは鼻歌を歌っている。

 こんな作業が楽しいのか。

 潰した芋に調味料を混ぜる。

 こっちの調味料は分からないから完全にフィオレラまかせだ。

 後は小麦粉をまぶす。

 そして、溶き卵を付け、パン粉を潜らせ揚げるだけだ。

 狐色に揚がった出来立てのコロッケは美味しそう。


 二人でハフハフ言いながらほお張る。

 芋がジャガイモではない。

 サトイモでもコロッケが出来る例もあることだ。

 これはこれで美味い。

 夕飯はパンとコロッケと人参みたいな野菜と肉のスープ。

 デザートはリクスの実だった。

 リクスの実をほおばるローレッタがとても嬉しそうだった。

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