第18話 野戦築城

 清々しい朝、実験日和だ。


「フィオレラ、頼む」

「はい、魔力を充填しました」


 自分の魔力を空にして魔石から魔力を吸収する。

 だるい、思わず座り込む。

 口を開くのはなんとか出来る。

 億劫おっくうで歩く事はおろか立ち上がる事さえ出来ない。




 動けるようになるまで三十分近く掛かった。

 うん予想外だ。

 戦闘中に三十分も動けないのは問題。

 ウッドゴーレムを持ってきてから先程と同じようにしてから魔力を吸収する。


 ゴーレム操作を発動する。

 やったゴーレムが動くぞ。

 魔力疲労の間もゴーレムが動くのなら色々できる。

 不幸中の幸いだ。

 何か作戦を考えねば、そうだ動けないのならば立てこもってしまおう。

 野戦築城だ。




「フィオレラ、土魔法でこんな形にできないか」


 トーチカと鉄条網を絵に書いて説明をする。

 トーチカはカマクラみたいな形をしていて窓から攻撃したりする物だ。

 本家はコンクリートなどで作るが魔力で作った石でも構わないだろう。


 鉄条網は有刺鉄線ぞくに言うバラ線。

 針金にトゲが間隔を置いて付いているというのをコイル状にして設置したものだ。

 材質は石で鉄ではないがややこしいのでこれからも鉄条網で良いだろう。


「できると思いますが、やってみないと」


「ローレッタも聞いてくれ」


 少し離れた所でくつろいでいたローレッタに話しかける。


「新しい戦法を試す。そろそろストーンゴーレムの材料が届く頃になるが、鎧ができるまで連携を四日ほど練習する。フィオレラの午前中の行動はギルドで五個魔石を買ってきてそれに充填してくれ。ローレッタはクロスボウの練習だ」

「「はい」」


 各人が散っていき行動に移った。

 俺は連携や細かい問題点を検討する。




 午後になった。

 森の手前で実験する。


「トーチカなんだが三パターン考えてみた。網で作るパターン。二センチの厚さのパターン。四センチの厚さのパターンだ。網は消費魔力が少ないから鉄条網を沢山。二センチは鉄条網を少な目。四センチは鉄条網なしだ。フィオレラの周りに集まれ」


 ゴーレムも含め皆がフィオレラ周りに集まる。


「じゃあフィオレラやってみろ」

「網トーチカから【土魔法】」


「うん、中々いいな。ローレッタ、窓からクロスボウは撃てそうか?」

「はい、大丈夫だけんた。網だはんで周囲もいぐ見える」


「泥魔術師ゴーレムで実際に攻撃するぞ。ゴーレムの前を空けてくれ」


 窓から炎の矢を撃つ。

 次の指示をだす。

 フィオレラは土魔法を発動し今度は薄いトーチカと鉄条網を出す。

 窓の場所を移動するよう指示を出した。

 窓の場所が後ろに行ったり真上に行ったりする。

 魔法は便利だ。

 トーチカは窓の場所が弱点。

 しかし、移動出来るならある程度防げる。


 休憩を入れて今度は厚いトーチカを試す。

 持続時間を試す。

 時間は十分しか持たなかった。

 戦闘一回なら充分だ。


「今日はこんなものだ」


 次の日になりゴブリン相手にトーチカの実験をする事に。

 罠ゴーレムの時のように魔力探知しながらゴブリンを探す。


「あちらに何かいます」

「この辺りで網トーチカと鉄条網を試すぞ」


 兎の鳴き声の笛を吹くとゴブリンが三匹現れた。

 フィオレラが網のトーチカと鉄条網を出す。

 ゴブリンは鉄条網に阻まれて近づけない。


「ローレッタ、クロスボウを撃ってくれ」


 ローレッタがクロスボウを撃つとゴブリンの頭に突き刺さり倒れる。

 トーチカに守られているので安心して次矢の装填ができる。

 ローレッタにとってもこの戦法は相性がいい。

 はずす事なく残りのゴブリンも片付けた。


 今度は厚いトーチカをゴブリンに試す。

 窓はゴブリンの体が入らない大きさにしてもらう。

 ゴブリンは窓に手を入れてくるが何も出来ない。

 隙間からローレッタにクロスボウを撃って仕留めてもらった。




 魔力疲労を回復させる為休憩していた時、ラッシュボアが現れた。

 ラッシュボアは地球の猪より一回り大きい猪の魔獣だ。

 フィオレラに突進してきたら、厚いトーチカで迎え撃つよう指示を出す。

 小石をアビリティの念動で飛ばして挑発する。ラッシュボアは怒って突進してきた。

 タイミングを見てフィオレラに指示を出す。


 ラッシュボアの鼻先に現れるトーチカの壁。

 ラッシュボアは急ブレーキを掛けたが間に合わず。

 これでもかという勢いでぶち当たる。

 ラッシュボアは頭をぶつけクラクラしている。


 ローレッタがすかさずクロスボウを撃った。

 追撃でゴーレムを使い炎の矢を放つ。

 炎の矢は顔に当たると爆発音を鳴り響かせた。

 二回の炎の矢が当たるとラッシュボアは倒れる。


「今日ももう終わりだ。フィオレラ、血抜きしたいんで大き目の泥ゴーレムを作ってラッシュボアを吊り上げてくれ」

「はい、【ゴーレム作成】」


「解体場でラッシュボアの肉を少しもらおう」

「なつかしだ。ラッシュボアのお肉」


 ローレッタがうれしそうだ。

 ラッシュボアを血抜きして、ゴーレムで運んでもらう事にする。


「さあ帰るぞ」




 帰る途中にラッシュボアの肉を黒髪亭におすそ分けする。

 余ったラッシュボアの肉は猪カツと生姜焼きもどきになってもらった。

 料理の仕方は俺が教える。

 二人ともレパートリーが増えたと大変満足だ。

 たらふく食ったが、米が欲しいと強く思った。




 和やかな朝の光に包まれ起きた。

 朝のルーティンを終える。

 フィオレラとローレッタに話掛けた。


「新しい戦法は物になったと思う。予定ではゴブリン狩だ。しかし、今日明日は足りないものを買い物したり好きにしていいぞ。フィオレラ、この後、少しだけ付き合ってくれ」

「なんです師匠。ついに恋人になる決心ができたのですか?」


「それはBランクって言ってあるだろう。ふと考えたんだ。フィオレラから魔石を通じて魔力をもらえば動かないで良いアビリティなら練習し放題なんじゃないか」

「今日私は練習に付き合って魔石に魔力を込めれば良いのですね」


 なんかしぶしぶ納得したという様子のフィオレラ。


「ああ、よろしく頼む。とりあえず前から獲得を目指しているスキル鑑定を練習したい」

「分かりました」




 さてスキル鑑定の練習だ。

 アビリティを発動して魔力が尽きたら、頭の上に魔石を乗せてもらう。


 繰り返し練習しているとフィオレラの顔が段々険しくなる。

 どうしたんだと聞いてみると他人の魔力を吸収するのにまだ抵抗があるらしい。

 俺の寿命が削られていくみたいで嫌なんだとか。

 うーん、どうした物か。

 これが終わったら、必要な時以外しない事を誓わされる。

 一度、二人で料理を一緒にする事も約束させられた。


 フィオレラにしぶしぶ付き合ってもらって二日間。

 スキル鑑定を練習した結果、見事スキルを得た。

 ずいぶん早かった気もしたが、スキル鑑定は今まで暇な時に地道に練習していたからだろう。

 本来ならこの方法でも七日ぐらいかかると見たほうが良いのだろう。

 しかもこの方法は筋力強化みたいに消費魔力の少ない物には効果が薄い。

 ここは一つ手札が増えたと素直に喜んで置くべきだろう。

 しかし、この方法は精神にこたえる。


 一日中だるさに堪えるのは勘弁してほしい。

 釘も刺されたしどうするべきか。

 でも止めないのだろう。

 次に覚えたいスキルも考えておかなくては。

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