第15話 新しいゴーレム

「おはよう、ハンターギルドにいくぞ」

「おはようございます」

「おはよごす」




 ハンターギルドの朝の混雑を掻き分け受付に行く。

 借家を紹介して欲しいというと家賃など条件の書かれた書類と三本の鍵を渡された。

 鍵には番号のタグが付いてる。

 書類にはその番号と場所の地図と間取り各種条件が書いてあった。

 良い家がこの中にあれば良いと思いながら一件目に向かう。




 外観は問題無かったが中に入り驚いた。


「どうだろうか、間取り周辺環境共に良い。だが、だいぶ傷んでる」


 部屋の中から見た様子は漆喰が所々剥げ落ちている。

 大きなひびもありかなりの間、人が住んでいなかったさまを想像させた。


「ええ壁が少し酷いですね。修繕しないと不味そうです。すぐ住むんだったら、無理ですね」

「家賃も少し割高だ」

 とローレッタが言う。


「次に行くか」




 この家は住宅街の一角にある。静かな住宅地は住むのには最適だと思う。

 窓も大きい開けると爽やかな風を運んでくる。

 床に埃も無く清潔に保たれているのが分かった。


「これは特に問題が見当たらない」

「台所が広いのもポイント高いです」

「値段も手頃だ」


 二人も高評価だ。


「最後の物件に行くか」





 家は歓楽街にあり白い壁の家はとてもおしゃれに見える。

 ドアも特別な木を使ったのか重厚感がありとてもマッチしていた。

「二階建てだ。間取りは問題ない。しかし、歓楽街のはずれかぁ。環境が悪すぎる」

「そうですね。夜うるさそうです」

「店は近ぐて便利だばって。家賃がちょっと高けだ」




「さて全部回ってみたが文句なしに二件目がいいと思うんだ」

「はい私もそれで良いと思います」

「問題ねじゃ」




 受付嬢に二件目の番号を告げる。やっぱりですかという顔になりしょうがないですねと言われた。

 今日から入居できるという事で手続きをして鍵を貰う。




 防具店に行くと犬の雰囲気のおじさんは力を入れて金属鎧を布で擦っている。


「こんにちは、また来ました」

「こんにちは」

「こんにずは」


「今日は何かな」

「三人の鎧を新調しようと思いましてオークの領域に行きたいのでそれに合う皮鎧が有りますか」


「オークの領域なら金属を使った鎧の方が安心なんだけど、女の子は軽い方がいいから魔獣の皮でもいいかな」

「それだと既製品って訳にいきませんよね」


「六日はみて欲しいかな」

「値段はどれぐらいです?」

「一人金貨四枚と大銀貨二枚と言いたい。贔屓にしてもらっているし金貨四枚かな」


 一人分百二十万円。下手な車並みだ。ハンターが成り上がるのは大変なのが分かった。


「ではそれでお願いします。できた頃取りに来ます」




 今日の昼飯は屋台でミートパイに似た料理にする。

 サクサクのパイ生地に包まれた肉汁たっぷりのミートパイは大変美味しかった。

 肉は魔獣のだというが豚肉に似た味は全然気にならない。




「裏庭に集まってもらった訳だ。これから新しいゴーレムを作る」

「とっても気になります」


 興味深げにフィオレラが言う。


「材料費、高がったんでねだが」


 ローレッタらしい意見だ。


「そうだ良いお値段がした」


 昨日の夕方配達された土を麻袋から地面にぶちまけた。

 手に入れたミスリル液を土の上に掛けゴーレムを作る。

 ミスリル液なんだが魔導金属のミスリルを特殊な薬品で溶かした物だ。

 魔導金属は魔力を色々なエネルギーに変換させる性質を持つ。

 ミスリル液の一般的な使い方は剣などにミスリル液を掛け一時的に魔導金属を使った武器みたいに扱う。




「これ只の泥ゴーレムじゃないですよね。何です?」

「泥魔術師ゴーレムだ」

「魔術師どは凄いじゃきゃ」


 泥魔術師ゴーレムは魔法使いのスキルがなくても魔法みたいな力、魔術を使うことができる。

 魔術と魔法の違いは魔獣が使う魔法みたいな現象を魔術、スキル使うのを魔法と定義されていた。

 そこからスキルではない魔力現象を魔術と言っている。


 魔導金属の武器の炎も魔術だ。

 そういう意味ではアビリティも魔術だろう。

 それと現在、魔術は魔法の下位互換と言われて蔑まれている。


「動かしてみるぞ。【ゴーレム操作】それで魔力を火に変換する。ふん」


 突き出したゴーレムの掌から拳ぐらいの火の塊が浮かぶ。


「すごいじゃ。いっそ魔法じゃきゃ。こいだば魔法使い要らねだの」


 ローレッタが感心する。


「欠点があるんだ。魔法使いと同じ威力を出そうと思ったら、十倍の魔力を籠めなきゃならない。試験をしに森へいくぞ」




 泥魔術師ゴーレムを連れて森の近くに行く。

 まずは魔法使いが使ってた炎の槍の半分のサイズを再現してみる。

 泥魔術師ゴーレムから小さい炎の槍が飛んだ。

 地面に当たるとポンと可愛らしい音を立てて跳ねる。


 適当な魔力でやったのが駄目だったのか。

 ローレッタからはまた可愛いのがではだのと半分からかう様な口調で感想を貰う。

 ありゃ小さすぎた。まるで炎のダーツだ。

 もう少し魔力を込めて見る今度は炎の槍の半分ぐらいの物が出た。

 ちょうどいい。

 しかし、槍と言うより矢と言った方が近い。

 威力の確認をしてみる。

 木に向かって炎の矢を放つと炎の矢は加速しながら一直線に飛ぶ。


 ドガンと言う音を立てて木を爆発が削る。

 爆発した痕を見ると木が少し抉れていた。

 良い感じだ。


 今度はフルパワーで行くか。

 魔石から魔力を吸出し全回復した。

 そして、最大魔力で炎の槍を放つ。

 炎の槍は木に当たるとドゴーーンと言う音と共に空気を振るわせる。


「凄い威力だ。木が爆散したぞ。それでも魔法使いのより少し小さい気がする」

「師匠、すごいです」


 フィオレラにほめてもらってうれしい。

 だが、一発しか撃てないんだよ。


「次は魔力消費の実験だ」


 魔石から魔力を吸出し魔力の計測をフィオレラに頼む。

 ゴーレムを操作し炎の矢を放つ。


「魔力の消費は二十一です」

「次は射程だ」


 障害物の無い所に炎の矢を放つ。

 矢は真っ直ぐ進むと大体百メートルで消えた。


「今日は実験は終わりだ。明日は午前中を魔力の充填に充てて午後実験をする」

「私達は午前中は何をすればいいです?」

「二人は借家で使う家具や寝具と日用品をこれで買ってくれ足りなければ後で精算しよう」


 金貨五枚をフィオレラに渡す。


「分かりました」

「じゃあ帰るぞ」




「女将さん、明後日の朝で宿を出ます」

「そうかいさびしくなるね」


 女将さんのさみしそうな顔に心がちくりとした。しかし、人生に別れはつきものだ。しょうがない。

 少しフロォーしとくか。


「暇を見てちょくちょく顔を出します」

「そうかい、まっ同じ町に住んでいるのだから今生の別れでもないさね」


「それとローレッタの歓迎会を明日の夜にやりたいので三人分のご馳走を用意してもらえますか」


 胸を叩きながら気合を入れる女将さん。


「まかしときな。飛び切り美味いのを用意するよ」




 フィオレラとローレッタ、二人と食卓を囲む。

 テーブルには外はカリッと中はもちもちでもの凄く噛み応えのあるパンとポトフに似た料理と温野菜サラダが載っている。

 食前の挨拶をして食べ始める。


「どうだ、家具は揃いそう?」

「ベットは既製品を頼みました。タンスとかは明日回る予定です」


「新品買ってもらっていがったはんですか」

「中古はどうもなあまり気が進まない。食器や調理道具も忘れるなよ。後は何かある?」


 フィオレラはおずおずと少し恥ずかしそうに切り出す。


「食事の場でなんですけど、トイレ用スライムを手配しないと」

「スライムなんていたの?」


 驚きだ。商売の種にならないか。トイレにまで利用されているのだから難しいか。


「魔獣では無くて動物でもない不思議生物です」

「あれはいつの間にか居るんず」

「そうか不思議な事は世の中には一杯あるって事か」


 この宿をもうすぐ出て行くのは感慨深い物があるなどと考えながら食事を終える。

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