第16話 歓迎会
朝起きてからすぐに魔石に充填。魔力の回復を待つ間に散歩に出かける事にする。
借家の近辺の店をチェックしようと思いそちらに足をのばす。
住宅が立ち並ぶ一角なので店はあまりないなと思ったら、古本屋が一軒あった。
時を経たレンガ造りの建物で年季を感じさせる。
覗いてみる事にした。
「いらっしゃい、こんな時間に客とはめずらしいわい。ゆっくり見ていっておくれ」
うず高く積まれた本の塔の中で老婆が店番をしていた。
しばらく本のタイトルを眺め、スキル関係の本棚から『無詠唱の証明』と言う本を買うことにする。
「これください」
「大銀貨一枚と銀貨二枚じゃ」
三万六千円。
元の世界でも専門書はそれぐらいするのもざらにあったから驚きはない。
朝の宿は出立する客で混雑して喧騒が上の階まで聞こえてくる。
本は夜落ち着いたら、読もう。
魔石に充填しないと。
しばらくしてフィオレラとローレッタが帰ってきた。
「どうだ、家具は揃えられた?」
満足そうな二人の顔上手くいったのだろう。
「たげ値引ぎしてもらった」
「はい一通り揃えられたと思います。今日配達してくれるそうです。お釣りを返します」
「午後はローレッタは借家で荷物の受け取りの為に留守番してくれ」
「えー留守番だか。しょうがねだの。分かった」
ローレッタは少し不満そうだ。
「明日宿を出て借家に移る。それと今日夕方にローレッタの歓迎会をする」
一息ついたところで泥魔術師ゴーレムを連れてフィオレラと森へ実験に行く。
「今日は泥魔術師ゴーレムでゴブリンと戦う。魔力探知を頼む」
歩きながら時たま魔力探知をする。
「師匠、あちらに何か一匹います」
指し示した方向に向かって歩く。
ゴブリンがいる。
風魔術で攻撃する事にした。
今日は色々な属性を試したい。
泥魔術師ゴーレムに手を突き出したポーズをとらせる。
風魔術を放つと空気を切り裂く音と共に風の刃がゴブリン目掛けて飛んでいく。
ゴブリンは何だというキョトンとした顔を見せ。
次の瞬間に腹の辺りがざっくり裂け、一撃でゴブリンは死んだ。
ゴブリンには楽勝だ。
魔力を補給して次の相手を探して移動する。
今度は四匹の団体だ。
まずは火魔術。
炎の矢を駆けて来る先頭のゴブリンに向かって撃つ。
炎の矢は狂いも無く目標のゴブリンの頭を吹き飛ばす。
ゴブリン達は一匹やられた事で足が鈍る。
土魔法で拳大の石を作り撃ち出す。
やはり目標の頭には問題なく当たりゴブリンが昏倒する。
近寄ってきたゴブリンのパンチを石の盾で受けた。
ゴキッと骨にひびが入る様な音がする。
顔をしかめたゴブリンに石の槍を魔術で突き出す。
体をふかぶかと刺されたゴブリンは呻き声を上げ倒れた。
最後の一匹は水魔術で棍棒を作り操る。
振り下ろされた水の棍棒は額に当たりゴスッという音を立てた。
ゴブリンは脳震盪を起こしたようだ。
ふらついて座り込む。
水を変形させ顔に張り付かせる。
ゴブリンは喉をかきむしり程なく息絶えた。
ゴブリン相手の魔術の実験は弱い者いじめみたいでもうやめようと思う。
でもゴブリン害獣なんだよ。
増えすぎると森の中にえさが無くなり町に集団で攻めてくる事もある。
間引きは必要だ。
生き物の共存は難しい。
気を取り直して魔力を補給して考える。
使えるな泥魔術師ゴーレム。
問題はオークの領域の魔獣に今込めている魔力量の魔術が通用するかなんだよ。
全魔力でやれば間違いなく通用すると思う。
魔石を充填するにも時間が掛かるし何か手はないだろうか。
課題も見えたし魔石の魔力も無くなった。
帰るとするか。
宿の一階の食堂でフィオレラとローレッタを待つ。
しばらく経ったら、ローレッタが帰ってきた。
「ローレッタ、お疲れ。女将さん料理お願いします」
鳥肉のグリルされた物。肉と野菜の串焼き。茄子に似た野菜の表面にチーズを掛けて焼いた物。ウインナーの盛り合わせなど美味そうな料理が運ばれてくる。
「乾杯しよう。パーティの益々の発展を願って乾杯」
「「乾杯」」
こういう時会社の先輩はどうしてたっけ。仕事の調子とか部下に聞いていたな。
俺もそうしてみるか。
「どうだ、ローレッタ、ハンターの仕事は」
少し考えて答えを返す。
「まだ始めだばしでいぐ分からね」
そうだ税金の話はどうなったんだろう。
「仕送りのお金は溜まりそう?」
「えい、この分なら三ヶ月もへば余裕だ」
「そうか良かったな」
「はい前のままだと弟や妹が闇ギルドに売らいだったかもしれね」
「闇ギルドなんてあるんだ」
「人身売買や盗みや暗殺などするそうです。犯罪者の集まりです」
フィオレラが代わりに答える。
人身売買なんてのもあるのか。
やっぱり人間はどこでも同じだ。
人情に厚い人もいれば犯罪に走る人も出る。
俺は正義の味方なんてものに憧れはないから闇ギルドを潰そうなんて考えない。
しかし有名になると何処かで絡んできそうなんだよな。
「買われた人はどうなるんだろう?」
「娼館に売られたり暗殺組織に売られたりするそうです」
「歓迎会にそぐわない話題になった。この話はもうやめよう」
「んだんだ」
やれどこそこの旦那さんが浮気しただの。あそこの屋台は美味いだの雑談しながらしばらく食事を進める。
「フィオレラ、今日はあんまり飲むなよ。こないだみたいなのは御免だ」
「はい、分かりました。でも、こないだの事ってなんです?」
「分からないのなら良い。ところでローレッタは大丈夫か」
「どうせわなんか足手まといだば。今日も留守番だったし。うぁーーんしくしく」
やばい酔ってる。こいつ酒に弱い。
「ギルドさも登録でぎない。みそっかすじゃし。うぇーーん」
どうするんだ、これ。
「村の年頃の娘は大体恋人がいらし。どうせわなんか一生結婚できねんず。しくしく」
「危ない方に話が転がってきた。落ち着けローレッタ。お前はよくやっている」
「んだ嫁こに行けなかったら、シロクさんが嫁こにもらってけ」
「だめです。師匠は私と結婚するんです」
「二人共酔ってるな今日はお開きにしよう」
「逃げないで。どっちが良いかはっきりさせて下さい」
「んだはっきりして」
「ああっと、ハンターランクがAになったら、考える」
「絶対ですよ。約束ですから忘れたら、ゆるしません」
「分かった。フィオレラ酔いつぶれたローレッタを部屋に連れてってくれ」
フィオレラが筋力強化を使いローレッタを運んでいく。
もうこのメンツで飲み会はしないぞ。
部屋に戻り今日買ったばかりの『無詠唱の証明』を読む。
要約するとこの本は無詠唱が存在するかどうか検証している。
ヤギウの無詠唱は眉唾だと書いてあった。
実際出来ているけど、どうなんだ。
他にも面白い情報として命が危険にさらされた時スキルが自動発動する事があるらしい。
激怒した時や悲しい出来事があった時にも稀に起きると書いてある。
これを意図的に起こせば無詠唱になるのではと推論されていた。
うーん、なんか引っかかる。
この話は覚えておこう役に立つかも知れない。
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