第13話 金策

「今日から新しいパーティメンバーも増えたし心機一転がんばるぞ」


 ローレッタが不安そうな顔をして話しかけてくる。


「わは何ばすればいいじゃか?」

「まず武器の弓と防具や背負い鞄を買ったり準備を整えよう。午後から草原ウルフ狩りだ。狩りの時は余っている槍を使って俺と一緒に草原ウルフを殺してもらう」


「上手ぐできるべか?」

「網の隙間から草原ウルフを突く簡単なお仕事だよ。やってみてのお楽しみと言う感じかな」


 緊張をやわらげる為におちゃらけた口調で話す。




 いつも利用している防具店は他の客もおらず。寂れている雰囲気がある。

 でもここ安いんだよな他と比べて金属鎧をあまり置いていない事から初心者向けの店なんだろう。

 調整に手間は掛かったが、ローレッタの鎧一式を揃える。




 弓の店は多種多様の弓が置いてあり俺にはどれが良いのか分からない。

 店の人に色々な弓を出してもらった結果、今ある弓でローレッタが引けたのが子供用弓しかなかった。

 ローレッタは不満たらたらだったが宥めて使わせる事にした。




 雑貨店では背負い袋とポーションを買った。

 ローレッタは土産の工芸品に気を引かれて物色している。

 しかし、最後まで買わなかった。


 故郷の兄弟に買ってあげたかったのかな。

 輸送料もお金が掛かるから気安くは送れないだろう。

 店を出て石畳を行く。




 屋台からバターとニンニクに似た匂いが漂って来た。

 見ると火で炙ったパンにすりおろしたニンニク似た物とバターを混ぜた物を塗ったお手軽料理を売っている。

 みんなで心置きなく味わう。うん、満腹になった。

 さあ、狩りに行くぞ。




「フィオレラ何時もの手順で行くぞ」


 一時間ぐらい巣穴を見過ごさないように懸命に探す。

 そして、骨が周囲にある巣穴が見つかった。


「フィオレラ何匹だ」

「【魔力探知】五頭です」


「フィオレラ、網を頼む」

「はい、【土魔法】」

「フィオレラすごいじゃ。魔法使いだったんだの」


 はしゃぐローレッタ確かに魔法は凄い俺もそう思う。




「ローレッタぼやぼやしてないで行くぞ」


 煙玉に火を点けて巣穴に放り込む。


「おっ出てきたな【筋力強化】」


 外に出ようとして網を引っかいている草原ウルフを槍で仕留める。


「そっちの草原ウルフはローレッタがやってみろ」


 へっぴり腰から突き出された槍は見事外れた。


 どうみても右足と左足の踏み込むのが逆だ。


 高校の授業で剣道はやったから突きの足運びぐらい分かる。


 指摘して再度挑戦させる。

 えいえいそりゃと掛け声は勇ましいが、浅い傷ばかりで致命傷にならない。

 草原ウルフは無茶苦茶吠えている。

 ローレッタは怖くないのだろうか。

 気を取り直したのか今度は見事首を切り裂いた。

 無事仕留めたみたいだ。




 慣れない槍ご苦労様と心の中で声を掛ける。

 残りの三匹は手分けして片付けた。


「どうだ、ローレッタ、感想は」

「こったに簡単でいんだべか」


 簡単でもなかった気がしたがあえて突っ込まなかった。


「普通、魔法使いは草原ウルフ狩りなんかに出てこないからな」

「それって、たげだ贅沢なんでねだが」

「聞いてるかもしれないがフィオレラは事情があって攻撃ができない。考え様によっては分相応かもしれない。今日はもう帰るぞ」




 そして三人での狩りの日々は続き。

 六日経つ頃には三往復できる距離の巣穴は見つからなくなっていた。

 かなりの数の草原ウルフをしとめたが、ちょっとも強くなった気がしないのは何故だろう。


 気を取り直し考える。

 今後の事を検討する時期にきたようだ。

 今日は早めに狩りをやめ宿に帰る。




「フィオレラ、ローレッタ、会議するぞ」


 サラリーマンは何であんなに会議が好きなんだろう。

 俺も嫌いではないけど、理由は分からない。


「草原ウルフを狩り続けるのは巣穴の距離がどんどん遠くなっていくから稼げなくなる。このまま距離を伸ばして探すのは駄目だ。どうしたら、良いと思う」

「オークの領域で活動するのが良いと思います」


 フィオレラが意見を出す。


「その場合攻撃力が足りない」

「すわねわがお荷物で……」


「ローレッタがスキルを覚えれば楽になる。魔力の分析をどうするか解決策がない。少し待ってほしい」

「はい、待ってら」


「新しい高性能のゴーレムを作れば良いのは分かっている。だが、金が足りない」


 前クレイグさんに聞いたセオリーだと二通りある。

 一つは大型のストーンゴーレムだ。

 この場合パーティを組んで普段は護衛してもらう事になる。

 大型魔獣担当を兼ねた荷物持ちだ。

 この場合の欠点はよそのパーティに入れてもらうと稀人だとばれる危険性があるのとフィオレラの異常性も隠せない。

 それと現実問題としてローレッタはお荷物になってしまう。




 もう一つはウッドゴーレムの一種のトレントゴーレムだ。

 このゴーレムはスピードが目茶苦茶に速い。

 オークの領域の魔獣で追いつける者はいないはずだ。

 この場合の欠点は材料であるトレント材の値段が高いという事。


「いくらくらい掛かります?」


 フィオレラが聞いてくる。


「ストーンゴーレムが大金貨二枚。トレントゴーレムの場合だとミスリル貨二枚だ」


 六百万円と六千万円か大金だ。

 ローレッタが驚愕する。

 村娘には縁の無いほどの大金。当然だ。

 金策の当ては異世界の物が売れればいいが稀人というのが一発でばれる。

 札も一円玉も何枚かあるけど、駄目だ。


「何か金策のアイデアはない?」

「先人に倣うというのはどうでしょうか」


 フィオレラが意見を出す。彼女は物知りだから何か知りたい時は頼りになる。


「先人というと?」

「オルコット氏です」

「ああそれならハンターギルドの資料室で本を読んで知っている」

「わはその話知りません」


「ゴーレム作成師のオルコット氏が子供用家具をゴーレムで作ったと言う話だ」

「ゴーレムで家具ば作ったら、頭ど手足がじゃまだと思うばって」

「売り方が上手かったんだ。納品に行った時にゴーレム使いに家具を踊らせた。子供に大層受けたらしい」

「んだかきっと可愛い見だ目の家具なんだびょん」

「俺も何か作るか。そうだ思いついた事がある。材料を仕入れるからちょっと待っててくれ」




 いつもの工房に行くと若い職人はフィオレラがいなくて残念そう。

 しかし、値上げもなくいつもの値段で魔木の端切れを売ってくれた。


「おまたせ、早速作るぞ。【ゴーレム作成】」


 四角い長方形の枠に頭と手足、一本の棒に五つ玉が刺さってそれが沢山並んで枠に収まっているゴーレムが出来上がる。

 これに頭と手足はいらない。

 しかし、ゴーレム作成は頭と手足をイメージしないと失敗する。


「なんだかこれ今まで見だことがね」

「私も用途が思いつきません」

「そろばんゴーレムだ。計算に使う道具で。玉を弾くことで計算する」


 そろばんを使って計算の説明をする。


「慣れると早く計算できそうです。すごいです」


 フィオレラは書類仕事をしてきただけあって有用性に気づいたようだ。


「フィオレラこれを売り込むとしたら、どこがいいと思う」

「そうですね。商会に伝手は無いし、商業ギルドに売り込むのが無難かと思います」

「わかった。明日は商業ギルドに行くから狩は休みにする。二人とも休日を楽しんでくれ」

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