第12話 二人目の忌み子

 ハンターギルドで草原ウルフ討伐の依頼を受ける。

 朝の草原は爽やかだ。

 荷車を引くゴーレムの足も軽く見える。

 子供達が元気にホーンラビットを追い回していた。

 なんだかほっとする。




 ハンターギルドの依頼は中級者からの物だ。

 ランクで言うとDランクから上がほとんどである。

 草原ウルフ討伐は例外で町の予算から費用が出ていた。

 何故かと言うと草原ウルフは五匹程の群れで暮らし数が増えると若い個体がハグレとして旅にでる。


 ハグレは群れではないのでホーンラビットを上手く狩れない。

 腹を空かして昼間に狩りをする事がある。

 昼間の草原はホーンラビットを狩る為に子供がいるから、ハグレには出てほしくないので討伐依頼を出して群れを間引く。

 もちろん群れを全滅させても構わない。

 草原ウルフが減りすぎてもホーンラビットが増えるだけだ。

 なので、町の肉の供給量が増えて結果的に町が潤う。




「フィオレラ、骨が周りにある巣穴を探そう」

「お師匠様、あれそうじゃないですか」


 ホーンラビットより一回り大きい巣穴は調べた資料の通り骨が巣穴の周りにある。

 すこしびびる。

 作戦が上手くいけば良いが不安を押し殺して実行に入る。


「魔力探知のスキルで中にいるか探ってくれ」

「【魔力探知】中に四頭いるみたいです」


「この付近の巣穴を全部ふさぐ様に土魔法で網を出してくれ」


 フィオレラは網の使い方に納得出来ここに使う為だったのかという顔になる。


「はい【土魔法】」




 全て巣穴に携帯用の火入れから火を点けた煙玉を放り込んでいく。

 しばらく経った時、網が少し盛り上がり引っかく音と唸り声が聞こえてきた。

 音の場所に急いで行く。

 巣穴から煙がモクモク立ち上がり煙の中に草原ウルフの顔が見える。

 草原ウルフは地球の狼を一回り大きくして顔を獰猛にした感じだ。

 犬は嫌いではないがこれは駄目だ愛でる気にはなれない。


 網の隙間から見える草原ウルフは歯を剥き出し涎をたらし凶暴そうに見える。

 槍を鼻面目掛けて突き出す。

 当たった。

 草原ウルフはウウッと唸る。

 今度は目を狙って突き出す。

 仕留めたみたいだ。




 次の巣穴に行き同じ様に対処する。

 三頭仕留めたら、屍骸が邪魔で槍が突けない。

 フィオレラに網を変形して屍骸だけ外に出すように指示を出す。

 網が屍骸を包む様に動きその後押し出すよう動き屍骸だけ外に出すことに成功した。

 結果最後の一頭も無事討伐できた。

 作戦が上手くいった。

 安堵感に胸をなでおろす。


「フィオレラ、草原ウルフを荷車に積んだら町に帰るぞ」

「あれ、解体しないんですか?」

「時間が惜しいから解体はしない買取所に丸ごと売って次の群れを討伐するぞ」




「草原ウルフ売りたいのですがーー」


 買取所のおっさんは何処と無く納得いかないよう顔で見ている。


「傷が頭しかない。どうやったか分からんが良い腕だ」


 土魔法で網を作って巣穴を塞いだなんて言えない。

 あんまり頻繁に持ち込むとやばいか。

 とりあえず言い訳だ。




「頑丈な金網で巣穴を塞ぎました。それから槍を使って仕留めました」

「金網かなり重たいのじゃないか?」

「そこはゴーレム使いなのでゴーレムに運ばせました」

「そうか手口を聞いて悪かったな」

「いいですよ。草原が平和になるのは良いことです。広めてもらっても構いません」


 騙されてくれたかな。

 まあそのうち有名になれば嫌でも目立つだろう。




 買取は問題なく進んだ。

 値段は魔石がゴブリンの1.5倍の大きさで銀貨三枚大銅貨三枚。

 身体が銀貨五枚。

 討伐料が銀貨一枚。

 解体料銀貨一枚引いての合計銀貨八枚大銅貨三枚だった。




 身体が銀貨五枚で割りと高いのは傷が頭にしか無かったからである。

 剥製にでもしない限り頭の毛皮は使わない。

 あれから二往復し全部で十四頭の草原ウルフを売った。

 銀貨八枚大銅貨三枚掛ける十四頭で銀貨百十六枚位になる。

 三十四万八千円。

 ゴブリンの時が一日平均銀貨八十枚。

 二十四万円だったからかなり稼げている。




 それから五日間同じ様に草原ウルフを狩り。

 料金を貰いにハンターギルドに行った時に彼女に出会った。

 狩りからの帰りのハンターでギルドはいつも通り賑わっている。

 だが、いつもと少し空気がちがうざわついた感じだ。

 中に進むと少女の大声が聞こえてきた。




「最後の希望なのに……なんでギルドに登録できねんだが!!」


 受付嬢に茶髪の頬っぺたが赤い純朴そうな娘が詰め寄っている。


「規則です。スキルの無い方は登録できません」


 あちこちから忌み子だという囁き声が聞こえる。

 フィオレラを見ると悲しいようなやるせないような表情をしていた。


「お師匠様なんとかなりません?」


 どうするべきか幸い今はお金には余裕がある。

 スキルが無いのを理由に働けないのは凄くかわいそうだ。




「そうだな、とりあえず話してみて弟子に加える方向でいこう」


 うな垂れている彼女のそばに行き話しかける。


「取り込み中悪い。ゴーレム使いのシロクだ。こっちは弟子のフィオレラ話によっては相談に乗れるかもしれん」

「本当だか。もう手段がねぐてなすていのか」


 うん、訛りが酷い。

 でも神様からもらった言葉の知識で分かる。

 手段がないと言っている。

 かなり憂わしげな表情だ。

 安心させてやりたい。




「事情を話してくれ」

「わはローレッタど言う。貧乏な村の出身で今年十五才になる。七人兄弟の長女で出稼ぎに町まででった」


「それで」

「村には特産物もねぐ税金がこのままだと払わいねぐなるのが出稼ぎの理由こだ」


 税金払えなくなるのか。

 そういえば俺達税金払ってないよな。

 後でフィオレラに確かめよう。




「なるほど仕送りしたいがどこも雇ってくれなかったんだな」

「はいそった。村では魔力が少ねぐてスキルがあまり使わいね人も数人いだはんで問題ながったんず」


 村ではスキルがないのが問題にならなかったと。

 小さい村は人情味に溢れているんだろう。

 大きい町は世知辛くていけない。


「そうだ、魔力量はどうだった?」

「二十三だ」


 魔力が少なくてスキルが獲得できないパターンか。




「何かできる事はある?」

「強ぇ弓は引けねのだばって。弓が得意だ。兎や鳥ば獲ってました」


 強い弓は引けないが弓は出来ると。


「遠距離攻撃はいい。そこで提案だ。ローレッタには弟子兼パーティメンバーとしてやってもらいたい」

「じぇんこはどれぐらい頂げるが?」


 お金がどれぐらい貰えるか聞いているのだな。


「うちのパーティでは収入は基本的に人数割だ。ここ数日は一日で銀貨百二十枚ぐらい稼いでいるから、一人あたり銀貨四十枚だ」


 ローレッタの不安は晴れたようだ。

 心持ち顔が明るくなる。


「分かったパーティに入る」

「よろしくねローレッタさん」

「こちらこそ、よろしぐねがうフィオレラさん」

「内密に話したい事もあるんで二人とも宿屋に行くぞ」




 道すがら税金の事をフィオレラに聞いた。

 税金はギルドから払われる。

 ハンターギルド建築ギルドは国が運営していると言う事だ。

 所得税が引かれていると言う事だな。

 納得した。




 ローレッタに故郷の事を聞いてみよう。

 色々訛りの事とか聞いた。

 どうも祖先が遠くの国からきたらしい。

 村が作物が取れない貧しい所を割り当てられているのもそのせいだと言う。




「今日はローレッタは働いていないが今日の稼ぎの三分の一を渡そうと思う。支度金代わりだ。フィオレラいいか?」

「ええ結構です」


 お金がもらえてホッとした様子のローレッタ。

 かなり手持ちが少ないのだろう。

 俺も町に着いた時は心細かった。


「明日はローレッタの装備を買う。金は俺が出す」

「はいシロク様」

「呼び方が少し恥ずかしい。お師匠様も恥ずかしいし今更か。でもシロクさんて呼んでくれ。フィオレラもただの師匠で良い」


 フィオレラがローレッタにおずおずと話しかける


「ローレッタさん、私友達になりたいので呼び捨てにしない」

「ええ友達になるべフィオレラさん、いえフィオレラ」

「これで又、夢の一つが叶いました。一緒に頑張りましょうローレッタ」


 フィオレラの夢は幾つあるのだろう。

 全部かなえてやりたい。


「提案が一つあるのだばって。仕送りば増やす為にも二人部屋に宿泊してと思う」

「ええ、私も孤児院にいた時には大部屋だったので寂しく思ってました。二人部屋に住みましょう」


「いいかな、これから秘密を一つ話す。フィオレラは半月前にはスキルが無かった。でも今は沢山のスキルがある。ローレッタにはスキル獲得を目指してほしい」

「分かったシロクさん」

「今日はこんなところだ。明日からハンター仕事だから英気を養ってくれ。ローレッタ、フィオレラとあまり夜更かしをしないようにな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る