第10話 罠ゴーレム

「フィオレラ、おはよう」

「おはようございます」


「今日は色々新しい事をやる。午前中は準備に当てるぞ」

「はい楽しみです」




 初めてきたハンターギルドの裏側にあるバックヤード。

 テントやら何に使うか分からない太いロープとか色々な物が混沌と置かれている。

 気難しげなおばさんから荷車を買う。

 大銀貨2枚と銀貨3枚。

 六万九千円。

 貯蓄がどんどん減っていく早く稼がないと。




 東門の外は木と草が疎らに生えどことなく寂しげな印象を与える。

 大物の魔獣に会いませんようにと祈りながら進む。

 そして、川幅が飛び越えられるような川が見えてきた。

 川原で石を拾い荷車いっぱいに積む。

 ゴーレムに引かせる荷車はかなり重そう。

 だが、軋んだ音を立てる以外問題ない。




「お師匠様、裏庭に石なんか運び込んでどうするんです?」

「まあ見てろ【ゴーレム作成】」


 丸い輪にギザギザの歯が付いた胴体、申し訳程度に頭と手足が付いたゴーレムが出来上がる。


「これ何です?」

「罠ゴーレムだ。こうやって使う」


 ゴーレムを地面に置きゴーレム操作のスキルを発動させる。

 薪をゴーレムの胴体に近づけたところで体を二つに折り挟みこむ。

 バッチッと言う音をさせて薪が挟まる。


「面白いですね」

「本当は鉄で作るトラバサミという罠だ。ストーンゴーレムで代用してみた。材料の石が無くなるまで作る。手伝ってくれ」




 六個目を作ったところで魔力切れになった。

 フィオレラを見るとまだ作り続けている。

 そうだよなフィオレラは五百四十八も魔力がある。

 二人合わせて三十個程作ったら、材料が無くなった。




「フィオレラ、ご苦労様、助かったよ。ところで昨日ちょっと思いついた事があったんだ。魔力鑑定アビリティがあるだろあれを玉じゃなくて。円が広がるイメージでやってみてくれないか」


 上手く行ってくれれば今回の計画が更に簡単になる。


「やってみます……すごいです。周りにいるどれだけ人がいるのかが判ります。魔力の強さも判ります」


 上手く行ったか。

 駄目元だったんだが。


「もう一回やってみます。あれ魔力切れです。魔力はまだかなりあったと思ったのに」


 かなり訝しげに首を捻るフィオレラ魔力消費が大きいのか。


「二十分くらいの休憩を挟んで何回もためしてみろ。あれっそう言えば魔力鑑定って自分自身に使えたっけ」

「魔力の玉がUターンして自分に戻ってくるイメージをすれば使えます」


 俺はフィオレラがあたらしいスキルに挑戦している間、魔力がなくともできることフィオレラがやっていた魔力操作の訓練をした。

 魔力を認識すると異物感が相変わらずある。

 気にしないで魔力の動きを抑えるように魔力を操った。

 以外に難しいなこれ。

 残り魔力が少ない内はなんとかなった。

 しかし、魔力が回復してくると魔力が勝手にざわめく。

 魔力が回復するまで訓練を続ける。

 暇な時は積極的に練習しよう。


「フィオレラそろそろお昼にしよう」




 パスタに似た料理を出す店に入る。

 これまたミートソースに似た料理にぱくつく。


「フィオレラ新しいスキルが取れたかもしれないから鑑定してみたらどうだ」

「【スキル鑑定】魔力探知というスキルが増えました」


 やったな、索敵などにこれから重宝しそうだ。


「有効範囲と消費魔力はどれ位だ」

「【魔力鑑定】【魔力探知】【魔力鑑定】範囲は大体三百メートル位だと思います。消費魔力は四十三です」

「かなり使える。消費魔力が多いのが欠点か」


 ただフィオレラの場合二分ぐらい休めば魔力消費は関係ない積極的に使っていこう。


「そういえば、フィオレラはゴーレムをどれだけ離れた所から操作できる?」

「大体百メートル位です」

「なんだって、俺は八メートルなのに……」


 俺は最初三メートル離れた所からしか操れなかった。

 ハンターを始めた時で五メートルだ。

 確実に成長しているが、格差が身にしみる。

 もしかして俺いらない子。

 いいやフィオレラは攻撃ができない。

 二人で補うんだ。


「お師匠様、気を落とさないで下さい」

「ああ、大丈夫だ。気を取り直して午後の説明をするぞ。森に行って少し開けた場所を探す。そこに罠ゴーレムをできるだけ設置する。ゴブリンを誘き出して罠にかける。後は槍で殺す」


「それで私は何をすればいいでしょうか?」

「フィオレラには魔力探知のスキルを使ってもらう。ゴブリンが百メートル以内にいた場合はゴーレムを先行させて誘き出してもらいたい」


「百メートル以上三百メートル以内の時はどうするんです?」

「その時は音を立ててゴブリンを百メートル以内に誘き寄せる。そして同じようにする」

「分かりました」


「よし狩りにいくぞ」




 罠ゴーレムを沢山積んだ荷車は重そうだ。

 門番は罠ゴーレムを見て不思議な顔をしたが、石で出来ていると分かり素通りさせた。

 森ではウッドゴーレム二体に罠ゴーレムもたせて中に入る。




「この辺りに罠を設置するぞ」


 罠ゴーレム沢山設置して罠ゴーレムの操作を試す。

 三十以上のゴーレムを同時に操作するのは普通、無理。

 だが、一斉に体を折り畳んで挟むだけならできる。

 罠ゴーレムを落ち葉で隠す。

 さすがにゴブリンがいくら馬鹿でも剥き出しの罠には掛からない。


「フィオレラ、魔力探知を頼む」

「【魔力探知】百メートル以内にはゴブリンらしき反応はありません。三百メートル以内はあちらには一匹います」


 ハンターギルドで買っておいた魔獣を誘き寄せる兎の鳴き声の笛。

 それを一匹いる方向に向かって吹く。




「フィオレラ、魔力探知をもう一回頼む」

「【魔力探知】やりました。何かが近寄ってきます」

「よしゴーレムで誘き寄せるぞ」


 フィオレラのゴーレムが何かがいる方向に歩いていく。

 ゴーレムにゴブリンが気づいたみたいだ。

 ゴブリンが見えた。

 ゴブリンを上手く誘導する。


 ここだ。

 罠ゴーレムを作動させる。

 やった、罠に引っかかった。


 罠ゴーレムのパワーは強くて骨にひびがいったみたいだ。

 歩けなくなったゴブリンに槍でとどめを刺す。


「魔力が回復するまで休んだら又誘きだすぞ」


 少し休みフィオレラから回復しましたと声が掛かった。




 兎の鳴き声の笛を色々な方向に吹く。

 しばらく経って。


「フィオレラ、魔力探知を頼む」

「あちらに三匹きています」


 三匹は厳しいかもしれない。

 いざという時には筋力強化アビリティを最大にしよう。




 三匹の方向に笛を吹く。同じ様に誘き寄せる。


「フィオレラもしもの時はゴーレムを囮にして逃げるぞ」


 上手く三匹が罠に入った。


 今だ。

 全部罠に引っかかった。

 槍で殺す。

 長かった。

 やっと三匹を普通とは言えないが倒せるようになった。




 そのあと同じようにゴブリンを罠に掛け。

 五匹のグループも難なく倒せ。

 半日で三十八匹の戦果を上げた。




 意気揚々とハンターギルドに行くとEランクにランクアップしていた。

 今日の稼ぎは大銀貨三枚と銀貨六枚。

 十万八千円だ。

 良い感じに稼げるようになった。

 今日は少し贅沢しよう。

 ご馳走は女将さんに迷惑が掛かるから夕食時に酒で乾杯だ。




 裏庭の訓練が恒例になってきた。


「フィオレラ次はどんなスキルを覚えたい?」

「生活魔法の洗浄です」


 洗浄は女将さんにやってもらった時、分析したので魔力の動きは解る。


「はじめるぞ。試しにやってみる」


 汚れた罠ゴーレムを一つ手にとり洗浄アビリティをやってみる。

 成功したみたいだ。


「ゴーレムを魔力で動かしているのは解るな。汚れや埃を魔力で動かすイメージで綺麗にしたい物を魔力で包む」

「やってみます。こうかな、えいえい」


 フィオレラは荷車に積まれている罠ゴーレムを手にとり綺麗にしている。

 罠ゴーレムがミルミル綺麗になる。




 俺は余った魔力でスキル鑑定アビリティを自分自身に掛ける。

 次の取得スキルはスキル鑑定に決めた。

 一ヶ月で取得できるか判らないががんばろう。

 寝る前にも忘れず練習しておこう。

 俺は早々に魔力切れになり、魔力操作の練習に移った。

 フィオレラが三十分で洗浄のスキルを覚えた。

 さすがに生活魔法を覚えるのは早い。




 三十分ぐらい経った。

 八分の一程度の魔力が回復しているはずなので。


「後の二つの生活魔法も教えとく試しにやってみるか。まずは生水だ」


 生水も女将さんに見せてもらった。

 魔力を広げ水蒸気を集める。

 広げた魔力を体に戻しながら水を集める。

 うまくいったコップ半分ほどの水が落ちる。

 魔力を体に戻すので魔力消費は少ない。

 物質の三態の知識をフィオレラに教える。

 そのあと生水のスキルのやり方を教える。




「次は照明だ」


 照明は見せてもらった事はない。

 たぶん魔力を光に変換しているのだろう。

 やってみる上手くいかない魔力切れか。

 イメージが違うのか。

 魔力鑑定アビリティをやってみる魔力はまだある。

 何故だ。


「フィオレラ魔力が光に変わるイメージで魔力を放出してみてくれないか」

「こうですか、えい」


 フィオレラの手から光が出ている。

 なんで俺は出来ないんだ。

 種火を試してみる。

 薪を手に取り魔力を熱エネルギーに変え薪の先端に火を点けようとする出来ない。

 送風を試してみる。

 空気を魔力で動かす出来た。


「フィオレラ今度は薪の先端で魔力を熱に変えて火を点けてくれないか」

「やってみます。うーん、できました」


 この理由はなんだ。

 水魔法アビリティを試すために魔力を直接水に変換するイメージを試す。

 出来ない。

 という事は念動みたいな事はできるけど、魔力を別の物には変換できないという事か。

 いわゆる小説で偶にある無属性と言う設定か。

 俺は魔法使いには成れないらしい。

 バクフ建国記の中でもヤギウが魔法を使う描写は無かった。

 もしかして稀人の特徴か。

 無い物はしょうがない諦めよう。


 やけ酒だ。

 夕飯を食べた後一人飲む。

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