第8話 スキル検証

 テーブルの上には肉野菜炒めとパンとスープが並ぶ。

 俺はフォークを幾分ぎこちなく使って肉野菜炒めを突く。

 時折、向かいに座っているフィオレラを見るが、何時もと変わりない調子で朝食を食べている。


「何か顔に付いてます?」


 気持ち悪げに尋ねられた。




 うん、どうしよう。

 思い切って昨日の事を聞くか。

 はっきりして下さいと言いたげなフィオレラを見て素直に聞く事にする。


「昨日の事どれぐらい覚えている」

「沢山飲んで食べた記憶はあります。料理は美味しかったです」

「そうかなら良い」


「なんか今朝のお師匠様は気持ち悪いです」

「いや良いんだこの話は終わりだ。さっさっと食って教会行くぞ」


 フィオレラは昨日の事は覚えていないみたいだ。

 よかった。

 恋人になっても良いが経済状況が悪すぎる。

 イベント毎のプレゼントや美味しい物をたべたり旅行に行く事もある。

 付き合いにはお金がかかるものだ。

 質素にやるという手はあるが、若いうちは楽しまないとあっと言う間におじさんだと先輩から聞いた。

 せっかく異世界来たんだ。

 バンバン稼いで成り上がるさ。




 途中、果物の露店がちょうど良い場所にある。

 熟れた果実の香りが周囲に立ち込めている。

 さてどれが美味いのか。

 フィオレラに選んでもらう。

 オレンジ色のりんごほどの果実は美味しそうだお土産に最適だ。




 教会は今日もひっそりとしている。

 せわしさとは無縁だ。

 女性神官が神様の像の埃を払っている。

 多神教なんだな。

 どの神が何の神かは分からないが老若男女沢山いる事は確かだ。


 女性神官が俺達に気づいたので教会長を呼んでもらう。

 部屋で椅子に腰掛け待っている。

 暇だ。




「フィオレラ、神話ってどうなっている」

「簡単にならでいいのなら説明します」


「聞かせて」

「始まりは無であった。神々は何処からか辿り着きそこに創造神は大地を作り、次に普通の獣と草木が糧として作られ支配者として魔獣が作られた。しかし、魔獣は失敗作になり嘆いた創造神は豊穣神に相談し人間を創造した。人間は不完全であった為、今度は技巧神に相談して人間にスキルが与えられる事になった。創造神は結果に満足する。これで創造神話は終わりです」

「ありがちだな」


 魔獣は失敗作なのか。

 魔力では人間を上回るものもいると言う。

 人間が勝手に作った神話なのかも。





「「おはようございます。教会長様」」

「おはようございます。フィオレラは弟子の生活にはもう慣れましたか?」

「はい、楽しくやっています」


「これ詰まらない物ですが。みなさんで召し上がって下さい。今日来たのは教会長様に相談がありまして」


 これまでフィオレラのスキル獲得の経緯と危惧を説明する。




「フィオレラよかったですね。そんな簡単な方法でいいのなら、もっと早くフィオレラにスキルを獲得させてあげたかった。しかし、分からないところがあるのですよ。まず、魔力は認識できない。まして、操作などできない」


 首を傾げかなり不思議そうな教会長。


「かけらも魔力が分からないのですか?」

「ええ、生まれてから今まで魔力を認識したことは一度もありません」


 そうか分からないのが普通なのか謎だ。




「私が魔力が判るのは稀人だからだと思っています。なら、フィオレラは何故できるのでしょう。フィオレラ、一番最初に認識したのは何時だ」

「一番最初に認識したのは捨てられる原因になった五才の時の事故です」


 当時を思い出しているのか顔に悲痛の色が現れる。


「つらいなら話さなくていいんだぞ」

「昔の事ですし今は大丈夫です。村の子供同士で遊んでいた時に有力者の子供に酷い悪戯をされた事があってすごい怒ったんです。そしたら、子供の右腕から出血しその時、頭が真っ白になって心臓の辺りがザワザワしました」




「教会長様、心当たりは」

「魔力暴走だな。魔力が多い子供にごく稀に起こる現象だ。その時のショックで魔力を認識できるようになったのだろう」


 魔力暴走また謎が増えた。




「それでその後どうなった」

「子供が怪我をしたので役人が来て私に罪状確認のスキルを掛けました。そして、問題なしと出ました」


「どういうことですか教会長様」

「罪状確認のスキルは間違いが起こり易いスキルだ。妻と口喧嘩しただけで有罪と出たりする。良心の呵責を量っていると言われている。たぶん事故の原因が最初自分にあると認識できなかったのだろう」


 罪状確認にそんな弱点が覚えておくか。




「それでどうなったフィオレラ」

「幸い子供は後遺症もなく治り。事故は不思議現象として片付けられました。私は悪魔の子と呼ばれ。両親も迫害され。親は私を責めました。私はザワザワを感情が凄い高ぶると感じるように。子供心にこれは悪い物だと思い。ザワザワを抑えるように強く念じました。最初は難しかったのです。しかし、段々静かにさせる事ができるようになりました。そうしていると些細な感情の変化でザワザワを感じられるように。そして、無意識にザワザワを静かにさせるようになりました。そうして十才になった時、慣習としてやっているスキル鑑定でスキル無しと判定され捨てられました」


「辛かったなフィオレラ。教会長様、ザワザワが魔力だとして感情が高ぶった時に乱れる魔力を抑えるのが、何か意味があるのでしょうか」

「普通の人は感情が高ぶると自動的に魔力を動かす。その時、思っていた事に魔力が反応して、結果スキル取得の訓練になっているのではないかな」


 自動的に動かす魔力は微量だから現象を起こすまではいかないけど、スキル取得の経験値は溜まるという事か。


「ということはフィオレラは魔力を抑えたから、スキル取得の訓練が全く出来ずスキル無しになったと。スキル取得のスピードが異様に速いのはなぜでしょう」

「おそらく、感情で魔力が動くのを抑えるのはもの凄く魔力操作の技量が磨かれるのだろう。それを十年間やって無意識でも出来るまでにしたのは達人と呼ばれるほどなのだと思う」


 チートだ。普通こういうのは稀人が持つものじゃないか。




「なるほど魔力操作を極めればスキル取得のスピードが速まるのと言う事ですか」

「私の魔力を抑えて生きた十年間は無駄ではなかったのですね」


 フィオレラの努力が報われたのは素直に嬉しい。




「それで、教会長様どうしたら、いいと思います?」


 教会長の顔は一気に険しくなった。


「かなり危険な状態です。隣の帝国で三十年前ぐらいからですが、リバーシ、イゴ、トランプ、チェス、ショーギという物が発売されています。噂によると稀人が発明したそうでその人は暗殺されたとか。異世界の知識を巡ってのいざこざが原因だと聞いています」


 それ、たぶん日本人だろう。囲碁と将棋は外国の人でやっているのはあまりいないと思う。

 稀人である事を隠したのは正解だったか。

 異世界から持ち込んだ物は売れない。

 腕時計を普段しているけど、これは便利だから外せない。

 数字の文字が違うから変わったアクセサリーに見えないかな。


「暗殺は勘弁してほしいですね」

「稀人だと分かると利用価値がある知識を狙われる危険があります」


「今回の知識は利用価値を証明したわけですか。フィオレラも狙われる危険がありますね」

「方法は二つあると思います。スキルの取得を抑えてゴーレム使いとして地味に生きる。ただ、稀人とばれると危険です」


 一生ビクビクしながら生きるのは嫌だ。


「もう一つはスキルを沢山覚えてハンターとして成り上がりSランクになる事です。Sランクぐらい強ければ戦闘になっても切り抜けられます。そしてSランクになれば貴族に叙されます。大抵のやっかい事から開放されると思います」

「どうも成り上がるしか方法は残されて無い様ですね。フィオレラはどう思う」


 フィオレラは腹を決めたようだ。態度に決意が見える。


「お師匠様に従います。一蓮托生です」




 すまん、フィオレラ完全に巻き込んだ。

 もう謝っても取り返しがつかない。

 結局出した答えが成り上がり。

 スキルを増やしたぐらいで出来るのか。




 そう考えるとヤギウは凄いな建国だもん。

 侍だったのだろう。

 最初のスキルが確か斬撃強化だったか。

 切りまくったのだろう。

 情景が目に浮かぶ。




 俺の強みはゴーレムか。

 現代人の知識なめんなと言いたい。

 どうだろう前途多難だ。

 救いはフィオレラのチートかな。

 経験値チートには素直に期待したい。




「それでスキルモドキの事だ。モドキという偽者みたいなので今後はアビリティと呼ぶ事にする」

「わかりました。アビリティですね」


「教会長様、今日はありがとうございました。これ少ないけど、喜捨です」


 スキル獲得のシステムが分かった気がする。

 ようは行動すると経験値が溜まる方式で最初はレベル0でレベル1になった時にスキルがもらえると。

 スキルは使い続けると経験値が溜まり、レベルが上がると威力が上がって使用魔力が減る。


 アビリティは経験値百倍状態なので一ヶ月ぐらいで一つ覚えると。

 フィオレラは更に経験値一万倍ぐらいの特殊能力者という事だ。

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