第7話 スキル獲得

 それからチェルソさんからスキルを使って夕方の短い時間、火を点けるアルバイトを始めたと聞く。

 上手くいっているようで良かった。


 俺は相変わらず石のブロックを積んでいる。

 長時間の石積みは何かとんでもない境地に誘われそうだ。

 話でもしないとやっていけない。

 そうすると筋力強化モドキが解除されそうになる。

 困ったもんだ。

 せめてお金が沢山稼げれば色々気晴らしができるのに。




 十日毎に仕事帰りにスキル鑑定をギルドで掛けてもらう。

 この瞬間が宝くじ発表の時みたいで楽しみだ。

 三十日目に遂に当たりを引いたぞ。

 筋力強化スキルが増えた。

 バクフ建国記の正しさが証明された事になる。

 こんな簡単にスキルが増えるなら、何でその方法が伝わってないんだ。

 まだ何かあるのか。

 それとも秘匿ひとくされているのか。

 やばい感じがする。

 しかし、止まる事はできない。




 フィオレラを宿の部屋に呼び話をする。


「スキルが増えたんだ。その方法が解ったけど、正しいか偶然か判断が付かない。とりあえず試してみたい」

「はい、やりたいです」


「はじめて覚えたいのはゴーレム使いのスキルだったよな」

「そうです。ゴーレム使いの弟子だから」

「一週間やり方を教えてその後は臨機応変に考えよう」


 お休みの挨拶をしてフィオレラがスキップしながら部屋を出ていったのを見る。

 期待に沿えるようがんばらねばと思いながら眠りについた。




「おはよう。宿の裏庭にいくぞ」


 挨拶を返してきたフィオレラは期待に満ち溢れた感じだ。

 こりゃ、駄目だったら、ダメージが相当でかいぞ。




「まずフィオレラは自分の魔力は解る?」

「魔力はザワザワするとよくないことが起きるから頑張って静かにさせてました」


 急に不思議な事を言い始めたぞ。この弟子は。


「その話は誰かにした事はある?」

「最初はザワザワが魔力だって解らなかったのだけれども。子供の時に村に来たハンターのお姉さんに話したら、多分それは魔力で親しい人意外には言わない方がいいって釘を刺されました。お師匠様は親しい人なので特別に話しました」


 うーん、禁忌に触れる話なのか。よくわからん。


「とりあえず魔力を手から放出するように操作してくれ」

「静かにさせる以外考えた事がなかった。こうすれば、いいかなとりゃ」


 吐き気を我慢して魔力を見ると綺麗に魔力が流れ右手から放出されていた。


「よし、もうやめていいぞ。次は【ゴーレム作成】【ゴーレム作成】」


 泥ゴーレムが二体出来上がる。


「ゴーレムに魔力をひものようにして繋げるんだ。繋がったら、動きのイメージを魔力と一緒にを送り込む」

「こうですか、おりゃ」


 ゴーレムの中に人間がいるみたいにスムーズに歩き出す。

 なんと初めてで成功させやがった。




 魔力を見ながら俺もやってみる。

 魔力をひもにするのも難しい。

 太くなったり細くなったりムラがあった。

 ふとフィオレラの方の魔力を見ると、綺麗に均一の魔力で繋がっているがわかる。

 師匠の方が下手なんてかっこ悪い。




 何とかゴーレムに魔力を繋ぎ歩かしてみる。

 怪我した人みたいにぎこちない動きだ。

 そして、ゴーレムが転んだ。

 起き上がらせようとゴーレムをもがかせて諦め。

 フィオレラの操作しているゴーレムを見ると踊っていた。


「お師匠様、これ楽しいです」


 この差は何だ。

 稀人と現地人の違いか。

 あとでゆっくり検証しよう。




「ところで他人の魔力は判る?」

「いいえ、全然わかりません」


 これも稀人と現地人の違いなのか。


「そうか、それならいい。ゴーレムを動かす訓練を一ヶ月やるとスキルが獲得できるはずだ」

「はい、いっぱい練習します」


 楽しそうにゴーレムが色々なポーズを取る。




 俺はスキルモドキによるゴーレムの操作を諦め考える。

 スキルとスキルモドキの違いはオートとマニュアルの違いだろう。

 スキルモドキのほうが格段に難しいけど、融通が利く気がする。

 スキルモドキに慣れると何故スキルを獲得できるのかはわからない。

 とりあえずスキルの獲得方法は合っていると仮定する。




「昼飯を食べに行こう」

「はい、お師匠様」


 屋台で肉にお好み焼きを巻き付けた料理を食う。

 美味いが今一だな。

 香辛料のせいか分からん。




 建築ギルドに寄る。

 今日はフィオレラにも入ってもらうぞ。

 嫌がるフィオレラを引っ張って入る。


「スキルを鑑定してもらえ」

「スキル鑑定しなきゃ駄目ですか?」


 忌み子と知られるのが嫌なんだろう。

 一ヶ月後に鑑定してもよかったのた。

 しかし、もしもと言う気持ちが抑えられない。


「早いか遅いかの違いだ諦めろ」

「はい、お師匠様を信じます」


 フィオレラが窓口で鑑定してもらうと泣きながらこっちにきた。

 やばい傷つけたか。


「ぶえーん。おじじょうさま。スキルありました」

「よかったな。今日はご馳走だな」




 うれしい反面、非常にまずい気がする。

 こんなに簡単にスキルを獲得できる技術があると知られたら、絶対碌なことにならない。

 スキルってなんだという思いが湧き上がった。

 自然に覚える物で魔力が関係していると聞く。

 ゲームだとレベルが上がった時に覚えたりする。

 神様が管理しているのか。

 見ることはできないが、この世界にもレベルがあってレベルが上がると覚えるのか。

 魔獣を倒せばレベルが上がるのか。


 フィオレラは魔獣は倒していない。

 パーティでも経験値は溜まるのか。

 それならハンターは凄いスキルの数になるはずだ。

 謎だ。


 とりあえず窓口で壁補修用の粘土を少し買って宿に帰る。




 宿の裏庭で引き続きスキル獲得の実験をする。


「午後はゴーレム作成の練習だ」


 買ってきた粘土で人形を作る。

 泥で出来た人形は不細工で動き出すような感じはしない。


「これを手に持って動いて欲しいというイメージと一緒に魔力を込めろ」


 フィオレラは人形を手に取り気合を入れている。

 魔力を見ると人形に魔力はこもっている。

 動くイメージもこもっている。


「よし、ゴーレム操作のスキルを発動させろ」

「【ゴーレム操作】動きます」


 粘土の人形がトコトコ歩いている。




「地面に手をついてゴーレム作成のスキルをやってみろ」


「【ゴーレム作成】駄目です」


 スキルはモドキで一回試したぐらいでは駄目らしい。


「スキル発動の時の言葉ってあるよな。あれ普通の人は勉強するのか?」

「いいえ、始めから話せます。記憶喪失で言葉を忘れた人もスキル言語は大丈夫です」


 不思議だ。

 なんでだろう。

 後で考えよう。




「そうか、ゴーレム作成の訓練続けるぞ」


 何回か繰り返し粘土が足りなくなり建築ギルドに追加を買いに行き、三十回ほど人形を作ってスキルを試した時。


「【ゴーレム作成】泥ゴーレムできました」


 いよいよ本格的にやばくなってきた。

 どうしよう、困った時はあれだな教会長に相談だ。

 明日行ってみよう。


 余った時間は休みとし明日教会に行くことをフィオレラに告げる。

 フィオレラは初めてのスキルが嬉しいのか。

 スキルでゴーレムを動かして遊んでいる。




「女将さん無理を言ってすみません」

「いいよお金貰っているんだし」


「フィオレラ、ご馳走を用意してもらった。今日は飲もうお祝いだ」

「はい大いに飲みましょう」


 エールらしき酒を飲み食事を楽しむ。




「この肉美味しいな。何の肉か判る?」

「これは一度だけ食べた事があります。たぶんオークの肉だったと思いますです」


「オークって二本足で立つ豚みたいな魔獣の事?」

「ええそうですよよ。顔は猪の方が近いですです」


「女性を攫ったりするのか?」

「何の為に攫うんでオークはグルメで人間の肉は食べませーん。森の美味しい果物や美味しい魔獣などを好んで食べますです」


「そのまあ何だないろんな説があるって事で」


 やばい性癖の一部が暴露されそうだ。


「なんかあやしい。あやしぃ。そういえば師匠ってどんな女の人が好きなんですかか?」


 フィオレラ酔ってるな。呂律が回ってない感じだ。


「そうだな、大人しめの気配りが上手い子が好きだ」

「私はどうですです」

「かなり酔ってるだろう。今日はお開きにしよう」


 案の定フィオレラはかなり酔っていた。

 肩を貸し二階の部屋のベットに寝かせる。

 誘っているのか俺はへたれだな。

 こういう場面は苦手てんで駄目だ。

 外から鍵を掛ける。




 一階の食堂に降り黙々と残りの料理を片付けた。

 女将さんが意味ありげな視線を送ってくるが、心の中でヘタレですみませんと謝ってから部屋に引き上げる。

 弟子を酔わせて関係を迫る師匠、絵面的に駄目だろう。

 後輩先輩ならあり。

 いや駄目だ。

 しらふの時にちゃんと告白してから、行為に及ぶべきだ。


 それに男なら責任取らないと。

 結婚まではどうかと思うが恋人にする覚悟は持たないといけないだろう。

 ちょっと悶々としながら眠りについた。

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