第1話 初めてのゴーレム

 現場は正に整地の真っ最中。作業員が慌ただしく仕事をしている。

 石の大きい人形や泥の人形が物を運んでいた。

 作業工具を使って動いているのもいる。


 あれがゴーレムかな。

 同僚が沢山いるようで安心する。




「すいませーん! 建築ギルドに仕事紹介してもらったんですけど」


 作業員の一人におそるおそる声を掛ける。


「こっちだ、ついてこい」




「親方! 建築ギルドから人が来ましたぁ!」

 親方は大柄な体に太い手足で洗いざらした作業服を着ている。

 いかにも現場監督と言うような良く日焼けした腕っ節の強そうな男だ。


「依頼表とギルドカードを見せてくれ。それと経験は」


 経験が無いと駄目なのだろうか。

 不安だ。


「シロクです。今日が初めての仕事です。まだゴーレムを作ったりした事はないです」

「クレイグはいるかぁ!」

「はい親方、なんです?」




 クレイグさんは良く日焼けしているが、ひょろっとしていて肉体労働者には見えない。

 まるでフィールドワークが得意な学者のよう。


「この新入りに一からゴーレムの使い方を教えてやれ」

「はい、分かりました。ついてこい新入り」

「シロクです。スキルを持ってはいるんです。でも、まだ何も知りません。よろしくおねがいします」


 土山がある。これで何かするのだろうか。


「この土でゴーレムを作ってもらう。少しコツを教える良く聞けよ」


 いよいよゴーレムか。期待は否が応でも高まる。

 説明をしっかり聞かなくては。




「まずゴーレムの種類だ。ゴーレムは作る素材と形で種類が分かれる。今日作るのは泥ゴーレムだ。他のゴーレムに興味があれば建築ギルドやハンターギルドの資料室で調べるといい。見本に作ってみせるぞ【ゴーレム作成】」


 ゴーレムができた。こんなに簡単にできるのだな。


「じゃあ作ってみろ。コツはスキルを発動する時、ゴーレムの形を強くイメージする事。それと余分な物をつけない事だ」

「いきます【ゴーレム作成】」


 スキル発動の言葉は意識するだけでスラスラ口から出る。

 やった初ゴーレムだ。

 そこはかとなく嬉しい。




「初めてにしては上出来だ。次はゴーレムの操作だ。コツはスキルを発動する時、ひもをゴーレムにつける感じでいけ。繋がれば動きのイメージを送れば動かせる。ひもを切るイメージをすればスキルは解除される」


 ひものイメージか何故にひも。

 とりあえず言われた通りにやってみる。


「やってみます。【ゴーレム操作】」


 繋がった。

 ゴーレムは送ったイメージに従って動く。

 不思議だ。

 スキルとか魔力とか含めてとにかく不思議。




「うまいじゃないか。あんまりゴーレムを体から離すなよ。繋がりが切れてスキルが解除されるぞ」

「スキルが解除された場合はどうすればいいです?」

「再びゴーレム操作のスキルを発動すればいい」


 色々試してみる必要性を感じた。

 まずは俺も歩きながらゴーレムも同じ方向に歩かせてみる。

 遅い、遅い、俺の歩きに付いて行けてない。




 今は歩いているだけなのでいいが、自分が複雑な動きをしながらゴーレムにイメージを送るのは難しそうだ。

 でもこれ良く考えたら、有線のリモコンロボットだよ。

 ゴーレム使いのスキルを神様がくれた理由を考える。

 趣味でロボットのキットを買って、組み立てや操作を散々やったからだろう。




「そうだ、スキルって魔力使いますよね。魔力なくなったら、どうなります」


 肝心な事を聞き忘れるところだった。


「スキルが使えなくなるだけだ。気持ち悪くなったりしないから安心しろ」

「魔力の管理が難しいですね」

「その辺は経験だ。ゴーレム使いの基本はなんとかなった。後は仕事しながら実践だ」


 いよいよ、実際の仕事だ。頑張らねば。




「親方、基本は教えました」


 クレイグさんが少し得意げだ。


「よし、スコップをゴーレムに持たせて、あそこを平らにしろ」


 目をやるとでこぼこした地面が見えた。

 泥ゴーレムがスコップを持ってすでに五体作業している。

 他のゴーレムと同じように、出っ張った所を掘り返し凹んだ所を埋させる。

 どんどん、掘れるぞ。

 ゴーレムのパワーは素晴らしい。

 俺は全然疲れない。

 良いこと尽くめだ。

 ゴーレムはとっても使える。




 作業を進めていると年配のゴーレム使いが三メートルは在ろう石で出来たゴーレムをつれてくる。

 そのゴーレムで平らになった地面を踏み固め始めた。

 すごい迫力だ。

 ゴーレムはひょっとして無敵。




 笛が鳴った。

 休憩時間に入ったようだ。

 作業員が一斉に休み始めた。


 クレイグさんは居ないかな。

 あっ、あそこで休んでいる。


「クレイグさん、ちょっといいですか?」

「なんだ? いいぞ」


 クレイグさんは教えるのが好きなのかな。

 ちょっと嬉しそうだ。


「さっき石のゴーレムが動いていてあれって無敵じぁないです?」

「たしかにパワーは申し分ないが動きが遅いんだよ。とろい大型の魔獣にはいい。スピードの速い魔獣にはゴーレム使いを狙われてザコさ」




 色々あるんだな。

 常識の無さをひしひしと感じる。

 このままではまずい。

 うーん、どうしよう。

 教えるのが好きなクレイグさんに聞こう。


「ところで口が堅くて知識があって。それから、困っている人の相談に乗ってくれる人知りません?」

「うーん、いない事はない。教会の神官様なら条件に当てはまる」


 そんな特殊な条件に当てはまる人がいるとは驚きだ。


「お金があまりないのです。大丈夫ですか?」

「お金がなければ物とか奉仕でも大丈夫だ」

「暇を見つけて行ってみることにします」


 ゴーレムにまつわる話や世間話は面白かった。

 あっと言う間に休み時間が終わり笛が鳴る。




 ゴーレムの操作は慣れてくると面白い。

 俺はロボットを作ったり操作したりが本当に好きなのだと改めて思う。

 仕事の合間にゴーレムに元の世界の芸人の真似をやって周りを笑わせたりもした。

 もう終わりか。

 終了の笛が鳴り、親方が寄ってきて依頼表を渡してきた。


「今日は上がっていいぞ。お疲れ」


「お疲れ様でした」


 スコップを片付け、泥ゴーレムを土の山に置いて行く。

 泥ゴーレムが寂しそう。

 半日仕事の報酬が銀貨五枚は多いのか少ないのか。

 これで一泊できるかどうか、さっぱりわからん。

 やはり教会に行くべきか。


 石畳をゆっくり歩く。

 行き先は定まらずため息が出る。

 町の地理さえ覚束ない。

 クレイグさんに教わった教会へと自然と足が向いた。




 教会は大通りから外れた少し寂しげな所にこじんまりと建っていた。

 扉の前で見上げると十字手裏剣に円環を組み合わせたシンボルが付いているのが見えた。

 光を表しているのだろう。

 身なりを整え、扉にノックしてから声を掛けて入る。




「すいません。相談したい事があってやってきました」


 中は礼拝堂になっていて、中年の神官服を着た男性が掃除をしている。


「はい、相談事ですね。そちらの部屋でお待ち下さい」


 しばらくして、お茶を乗せたワゴンを押しながら、先程の神官らしい人が入ってくる。


「神官のバーナードです。教会長をさせていただいております」


 教会長は品のある振る舞いをして微笑んではいる。

 生き馬の目を抜くような世界で生きてきた風格が感じられる人だ。




「ゴーレム使いのシロクです。神官様は秘密を守っていただけると聞きました」

「ええ、職業柄、罪の告白などを聞いた事があります。しかし、今まで他の人にもらしたりした事はありません。神に誓えます」


 うーん、どうするべきか。

 異世界人であることを打ち明けるか。

 すごい田舎から出てきた村人を装うべきか。

 服装がワイシャツにスラックスなので村人は無理があった。

 箱入り息子も無理がある。

 ここは人のよさそうな神官様を信じて打ち明けるか。




「実は異世界から今日飛ばされて、こちらの常識が殆どわからないのです」


 遂に告白してしまった。

 この決断がどうなるか。

 出して貰ったお茶のカップを握る手に力が入る。


「これは稀人とは珍しい」

「異世界人のことを稀人というのですね。迫害の対象になったりはしませんか?」

「大抵稀人はどこでも歓迎されます。神様が悪人の稀人は助けないと云われています」


 多分、悪い奴は宇宙空間を漂っているのだろう。神様も案外容赦がない。


「稀人が元の世界に帰ったという話はないでしょうか?」

「そういう話はありません」




 駄目元で聞いた。帰還は無理そうだ。

 親は兄夫婦が面倒を見てくれるだろうから心配いらない。

 けど、家族や友達にもう会えないのは寂しい。

 こうなったら、開き直ろう。

 向こうにいる家族の為にもくよくよしないで吹っ切って行動しなければ。




 かなり情報をもらったのでお礼をせねばと思い、財布から千円札一枚と一円玉一枚を取り出す。

 勿体無い気もしたが、今後の投資と考えよう。




「これが喜捨の変わりになれば良いですが」

「これは、もしかして稀人の国のお金では?」


 教会長は何故か驚いている。


「硬貨の方はこの国の鉄貨に当たり。紙のお金は銀貨に相当すると思います」

「よろしいのですか。両方が珍しい物なのでオークションにでも出せば相当な値がつくと思います。特にこの硬貨に使われている金属は見たことがありません」


 アルミが無いのか。

 紙幣の印刷技術もこの世界ならすごいのかもしれない。




「オークションに出すつてもありませんし商店に持っていっても買い叩かれる気がします」

「では、ありがたく頂いておきます」




「あら、お客様、ようこそおいでになりました。教会長、夕飯の仕度ができました」

「シロクさんどうですか。今日これから宿を取るのも大変だと思います。教会に泊まられては」

「お世話になります」


 お金も心もとない事だし泊まる事にする。

 その後、神官さん達と夕食を頂き。

 空き部屋のベットに横になる。

 知らない内に疲れていたのだろう。

 一瞬で眠りつき異世界一日目は終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る