ゴーレム使いの成り上がり

喰寝丸太

第一部 ハンター初心者編

プロローグ

「なんだ、何が起こった?」

 見渡す限りの白い空間は病院の雰囲気にも似て、静謐せいひつな感じがして、冷たく寒々しく感じた。

 さっきまで会社からの帰り道だったのに、急に眩暈めまいがしたと思ったら、この状態だ。


 喚き出したいのを堪え、正気を疑い自分のプロフィールなど思い出してみた。

 俺は白久しろく 大成たいせい二十三才。

 就職がようやく決まり新入社員として、それなり無難にやっていたどこにでもいるサラリーマンだ。




「目をさましたかのう」


 急に声が掛かる。

 その方向には誰もいないはず。

 体を起こし、声がした方に向く。

 サンタクロースみたいなじいさんがローブを着て立っていた。

 顔は慈愛に満ち溢れとんでもない気品がある。

 超常現象の最中だ。何が出てきてもおかしくない。

 もしかして、神様なのか。


「その通り神と呼ばれておる」


 驚いた心を読まれた。

 本当に神様なのかも。


「なぜ、この場所にいるのか。聞いても?」

 今一番聞きたい疑問が思わず口を衝いて出た。


「時空の歪みの事故に巻き込まれて次元の壁を越えたので。宇宙空間に放り出される瞬間に保護したのじゃ」


 とんでもなく深みのある声。

 神様という事に納得する自分がいる。




「神様のミスとかですか?」


 神様の失点なら元の場所に戻れると言う希望にすがる。


「神も超越しているというだけでミスはする。今回の件はわしの責任ではない。保護したのは気まぐれじゃのう」


 うん、なんとなく分かってた。

 唇を噛み締めたいのを我慢する。


「元の場所には帰れるのでしょうか?」


「無理じゃな。規則でな。よほどの理由が無い限り次元の壁は越えられん」

 神様は可愛そうな者を見る目で説明した。


 どうなってしまうんだ。泣きたい。


「これから、どうなります?」

「わしが管理しているある惑星に行ってもらう。サービスとして、言葉が解るようする。そして、スキルと魔力をつけるがよいかの」

 言葉が解るのは助かる。

 スキルと魔力は詳細がわからない。

 金だ、何が無くとも金が必要。


「お金を少しでいいので下さい。それと、詳しいスキルなんかの説明が欲しいです」

「金は少しあげるがの。説明は町についたら、誰かにしてもらうことじゃ。ギルドで色々尋ねるがいい」


 少し神様が申し訳なさそうだ。

 規則でもあって説明が出来ないのか。


「わかりました。向こうについたら、やらなけりゃ、いけない使命とかあります?」

「特に無い。好きに生きてよい。それじゃ送るぞい達者でな」




 一瞬で世界が切り替わり朝日が目に眩しい。

 なんとなく歩き始めスラックスの裾が草原の朝露に濡れる。

 嫌でも異世界に来た現実を思い起こさせた。


「とりあえずスマホをチェック。やっぱり圏外だ」


 こんな事なら安いスマホにしとけば良かった。

 先月買い換えた高性能のスマホも異世界では役に立たない。

 腕時計を見て、十一時を指していたので六時にとりあえず合わせる。


 体が軽い。とりあえずジャンプしてみた。

 スラックスのポケットで硬貨がチャリチャリ音を立てる。

 ポケットを思わず探り、銀貨が五枚出てきた。

 銀貨は祝福するように朝日を反射している。

 小銭入れにいそいそとしまう。


 これはなんだ。

 心臓の辺りに異物な力が見えるように感じる。

 神様が言っていた魔力か。

 意識すると少しうっとうしい。




 ネクタイをしていたのに気づき、急いで外す。

 スラックスのポケットに入れながら考える。

 異世界から来た事は極力隠す方向で行こう。

 面倒事はごめんだ。

 まずは金策と寝床の確保。


 落ち着いて辺りをみる。

 子供が数人で棍棒とナイフをもって、兎を追い回しているのが何グループか見える。

 人里が近いのか少しほっとする。




 遠くに城壁に囲まれた町が見えた。

 お土産の絵葉書で似たのを見たことがある。

 たしか城砦都市だったか。

 しばらく歩くと土が踏み固められた道にでた。

 さらに町に向かうべく道を進む。




 町に近づくと牛と馬を放牧しているのが見える。

 動物だよなあれ。

 危険な魔獣ではないよな。

 おそるおそる近づく。

 子供が平気で脇を通っているのを見て安心する。




 町に入るための門が見えた。

 門番の槍を持ち鎧を着た格好をみて思う、完全にファンタジーだ。


 こっそり、ステータス、メニューなど思いつく言葉を試した。

 一向にウィンドウみたいな物は現れない。

 情報不足だ。

 町に入ってから聞いてみよう。




 皮鎧を着た門番は通る人、一人一人に手をかざし呪文のような物を唱えている。

「【罪状確認】。よし行っていいぞ!」


 二種類の言葉が混じっていたみたいだ。

 【罪状確認】はスキルを発動する言葉だろう。

 ドキドキしながら自分の番が来るのを待つ。


「【罪状確認】。よし行っていいぞ!」


 やはり、スキルを発動するのは特別な言葉を使うみたいだ。




「あのー、ちょっと聞いていいです?」

 現地語で喋れた。

 簡単だな、意識するだけでいいのか。


「なんだ。少しなら、いいぞ、手短にな」


 門番は忙しそうだ。

 必要最低限の疑問に絞った方がよさそう。


「この町はなんと言う町です?」

「そんな事も知らずに来たのか。この町はアドラムだ。ちなみにここは南門だ」

 門番は呆れた口調で説明する。


「手っ取り早く仕事を探すにはどこに行けば?」

「ハンターギルドだな。この道をまっすぐ行けば剣と弓の看板があるからすぐわかる」

「ありがとうございました」




 俺は石畳の道を歩き露店を冷やかす。

 値札は問題なく読めた。

 いい機会だ物価をチェックする。




 剣と弓の看板がある大きい三階建ての建物が見えてきた。

 あれだな、ハンターらしき武装した人が頻繁に出入りしている。

 魔獣退治とかハンターがするのだろうか。

 中には窓口と机が幾つもありまるで銀行のようだ。

 小説でよくある酒場は無い。

 なんとなく寂しい。




 キョロキョロ見回し新規加入と書かれた窓口を見つける。

 人ごみを避けながら近づく。


「すいません、新規登録したいのですが」

 かなり不安だ。挙動に出なければ良いが。


「はい、この用紙に必要事項を書いてください。文字はかけますよね?」

 この人大丈夫と言う目で受付嬢が見てくる。


「文字は大丈夫だと思います。登録費用とかはどうでしょうか? 今、心もとないもので」

「登録費用は無料です。たまにいるのよね。無一文でやってくる子。しょうがないわね。登録が終わったら、手っ取り早く稼げる仕事を教えるわ」




 田舎から家出して来た困ったお上りさんに見られたみたい。

 ショックだ。

 しかし、この人が今は頼り。


「よろしくおねがいします」


 用紙をできるかぎり埋めて提出する。


「スキル鑑定窓口に行って、この紙をだして鑑定してもらってね」


 サービスで貰ったスキルが凄い気になる。




 窓口にはモノクルを掛けた白髪混じりの初老の係員がいて疑うような眼差しでこちらを見てくる。


「あの鑑定して、貰うように言われたのですが」

「新規登録か? さてどうかな【スキル鑑定】」

 納得したと言う顔で係員はスキルを発動する。


「まあまあ。当たりじゃ。ゴーレム作成とゴーレム操作のスキルがあるわい」


 当たり良いって事か。

 なんだか少し安心した。


「それってどういうスキルですか?」

「ゴーレムを作って操るスキルだ。わりと高給とりじゃ。詳しい事は知らんが」


 高給とりかぁ。

 期待が膨らむ。


「次にいくぞ。【魔力鑑定】。結構多い。百五十二じゃ」


 多い事はいいって事だよね。


「それって、平均と比べるとどうなんです?」

「人の平均は五十でゴーレム使いの平均は百ぐらいだ」


 おおっ三倍。そこはかとなくエリートになった気分。


「次回から鑑定は銀貨一枚じゃ」




 そうだ貨幣はどうなっているんだろう。


 銅貨、銀貨、金貨の順に価値が上がっていくんだろうか。


「硬貨について聞いても良いですか? 箱入りなので自分ではお金をあまり使ってなかったので」


 不審げにしているが、説明はしてくれるらしい。


「今は暇なのでいいぞ。まずほとんど使われないが鉄貨というのがあって。これが一リルじゃ。次に鉄貨十枚で銅貨一枚。銅貨十枚で大銅貨一枚。大銅貨十枚で銀貨一枚。銀貨十枚で大銀貨一枚。大銀貨十枚で金貨一枚。よく使われる硬貨はこんなところかの」


 鉄貨が一円。銅貨が十円。銀貨が千円。金貨が十万円。とりあえず仮のイメージとしてはこんな事だろう。


「ありがとうこざいました」




 新規加入の窓口に戻って紙を渡すと受付嬢が金属のカードに情報を書き込んだ。


「これで登録は終わりよ。仕事の相談なんだけど……」

 カードを受け取りながら濁した語尾が気になる。


「何か良くないことでも?」

 受付嬢がすまなそうな表情をする。


「このスキルでハンターができる適当な仕事はないわね」

 ハンターの仕事が無いそんな。


「なぜですか? まあまあ当たりと言われました」

「ゴーレム作成はゴーレムを作るスキルよ。強いゴーレムを作るには材料にお金が掛かるのよね」


 世の中、結局、金か。

 どこも世知辛い。


「そんな、じゃあ、どうすれば」

「心配いらないわ。建築ギルドに行けば仕事が沢山あるから」


 仕事が見つかりほっとする。


「建築ギルドに行けば良いんですね。行ってみます」




 建築ギルドに着くと中は日焼けした作業員風な男が沢山いた。

 汗臭い雰囲気だ。

 中に入りたくない。


 ここで稼がねば宿に泊まる事ができないかも。

 しかたない覚悟を決めるか。


「ゴーレム作成とゴーレム操作のスキルがあります。日雇いで何か適当な仕事は無いですか?」

「ご利用は初めてでしょうか? ギルドカードは何かお持ちでしょうか?」

 受付嬢はてきぱきと受け答えをする。

 有能そうだ。


「ええ初めてです。ハンターギルドでカードは作ってもらいました」

「ゴーレム使いのスキルを確認いたしました。建築ギルドにも登録なさいますか?」

「ええ、おねがいします」

「仕事をされたいとの事ですが、初めてですとこの仕事がお勧めです。土木作業の手伝いなんですけど、半日で銀貨五枚です」


 土方は金に困った時、バイトでやった事がある。

 なんとかなりそうだ。


「それでいいです。手順はどうしたら、いいですか?」

「この依頼表を持っていって現場の責任者に渡して下さい。仕事が終わったら、依頼表にサインを貰って下さい。それを建築ギルドまで持ってきて下さい」




 道を進むと途中タレの焦げるいい匂いが漂ってきた。

 お腹が盛大に鳴る。

 屋台で少し浪費してしまった。

 さあ仕事に行くぞ。

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