第12話 %/☂√


 地球の東アジアには梅雨という季節がある。

 ――星にはない。

 地下水を汲み上げて人工雨を定期的に降らせる。

 ゆえに長雨などはない、スケジュールが決まっているからだ。

 そもそも――星の人工雨は一部の農業プラントの中、つまり屋内にしか降らない。

 故に外に降る雨も傘を差すという習慣も――星人にはない。

 私は、地球の雨というのをしてみたかった。

 だから擬態装置の出力を上げて、傘を差していなくても不自然に思われなくした。

 ケイジ君には相変わらず見えているようだったが、あまり気にしていないようだった。

 擬態装置を最大出力まで上げれば、ケイジ君にも私の姿が他の地球人と変わらないように見えるだろうか。

 しかし、それで擬態装置が壊れても困るので、その実験はやめておく事にする。

 ……別に、本当の姿を見ていて欲しいわけではなく。

 まあとにかくそんなわけで、私の雨を浴びる数日が始まった。


 それはなかなかに気持ちいいものだった。

 雨を浴びるだけではない、アスファルトに打ち付ける雨の音に耳を傾け、たまには公園に入り木の下で葉に雨が当たる音を楽しむ。

 もし傘を差していたら、傘に当たる雨の音でかき消されてしまうであろう音を全身に浴びる。

 雨の景色は、確かに晴れの時と比べ暗かったが、私にとってはとても新鮮だった。

 暗い雲から降りしきる水の球。

 これが人工的なモノではなく、自然現象なのも驚きだ。

 私はそんな感銘を受けながら、自分の体の異常に気付いていなかった。

 

 まさか、地球の雨の酸性がここまで強いとは。

 ――星人は酸に対して耐性があまりない。

 ゆえに身体が溶けてしまった。

 溶けること自体は――星人の基本機能の一つではあるのだが。

 今はそれが体調不良により暴発しているような感じだ。

 地球人なら熱や咳、くしゃみにでも例えれば分かってくれるだろうか。

 今、擬態装置を最大出力にしている。

 どうかケイジ君には見られていませんように……!

 そう思いながら帰路につく。

 その時だった。

 学校の玄関口。

 いけない今日も傘を持ってきていない。

 どうしようかと思って、先生に傘を借りようかと思っていた時だった。

 

 ケイジ君が隣に来て、傘を差し出してきた。


 やっぱり最大出力でも駄目だったかーと思いつつ、差し出された傘に対してどういう扱ったものかと思案する。

 これは、つまり。

「いいの? 一緒に?」

 そういう事だろう。

 なんだかケイジ君が驚いた顔をしていた気がしたが気にしない。

 いわゆる相合傘というのを私は知っている。

 ……どうして、ただ同じ傘に入ってるだけで、窮屈なはずなのに。


 こんなに嬉しいんだろう。

 

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