第9話 地球技
本日は球技大会である。
運動が苦手というほどではないにしろ、好きではない自分としては、不参加を表明したかったが、そうもいかないのが社会の縮図たる学校の、暗黙のルールである、
なぜか高校生なはずなのに競技一覧に組み込まれているドッジボールに驚きつつ、そこに参加希望を出す事にする。
ドッジで適当に当たったりして、外野で適当にキャッチ&リリースしておけば問題あるまい。
さて件の宇宙人はといえば、バレーボールに参加希望を出していた。
選んだ理由は何だろうと思いつつ。
文武両道の万能宇宙人ならそつなくこなすに違いない。
……そういえば、彼女が汗をかいているところを見た事がない。
体育は男女別なので、見れないのは当たり前なのだが。
夏になれば、普通に汗をかいているのだろうか……なんかまた思考と行動が変態化しそうになっている気がする。
これはいけない。
宇宙人の新陳代謝に学術的興味がなくはないが。それで社会的に死ぬのはごめんである。
……ただ。丁度、ドッジとバレーの時間がズレているので、試合を観戦するくらいは許されるだろう。
球技大会当日。
ドッジボールのメンバーには敵味方両チームがやる気のない面々の集まりであった。
それはもう。如何に上手く当たりに行くかというゲームと化しており、そのグダグダとした地獄のような有り様に「野球にすればよかったかな」などと時すでに遅しな事を呟いた。
なんとかその当て合いではなく当たり合いになんとか勝利し、外野で休憩していると、体育館の二階の観客席(というには質素な通路のようなモノ)にシロホシの姿を見かける。
前から思っていたのだが、シロホシが俺を見る理由とはなんだろう。
俺が彼女を見るのは、シロホシが宇宙人だからだ。
しかし、俺は他の人間と変わらない一般人だ。彼女曰く「目がいい」らしいが。
俺の眼を観察しているのだろうか?
そうか。それなら多少納得できなくもない。
そんな事を考えていたら、いつの間にか試合が終わっていた。
結果は俺のチームの負け。しかし、休憩出来たので勝負には勝った。
シロホシのバレーの試合。
トス、ボレー、スパイク、どれもが素人目に見ても非の打ちどころない完璧なフォームだった。
シロホシだけで、どんどんと点を稼ぐ。
しかし、敵も負けてはいなかった。
敵に居たバレー部のエースの妹(非バレー部)とかいう卑怯なのがいるのだ。
姉にアドバイスでも受けたのか血筋の力か、純粋な努力か(最後ならバレー部に入って部活部門に行けと言いたい)とにかく。宇宙人に食らいつく強さを発揮していた。
勝負は五分。その時だった。
俺はとある違和感に気づく、最初の疑問。
シロホシが汗をかいている。
別におかしな事ではないのかもしれない。
むしろ汗をかかない方が不自然なのだ、少なくとも地球では。
だから。あれは擬態の一種なのかもしれない。
だけど、だけど、だけど。
もしも。もしそれが異常な事態だとしたら?
「シロホ!……シ……」
思わず前に出て声を出しかける。
声をかけて。どうしようというのだ。
出来ることなどないというのに。
しかし、シロホシはこちらを向いた。
かと、思えば両膝を床につきへたり込んだ。
試合は一時中断。
シロホシは保健室で休むことに。
チームメイトに支えられコートを去るシロホシが、またこちらを見て。
何かを呟いた気がした。
そして微笑んだ。
俺は読唇術は使えない。
けど、それでもあれは。
「ありがとう」
だった気がする。
なんだよ、それ。
俺は何もしてないっていうのに。
出来れば勘違いであってほしかった。
そうでなきゃ自分の無力感に押しつぶされそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます