4 はじまりの街2

 ネールスの案内で子爵邸──正しくはリージュ都市伯爵邸とでも言うのだろうが──に踏み入った訳だが、まず玄関から凄い。

 本当に凄いという陳腐な言葉しか出てこないほどに、煌びやかで豪華、それでいて統一感がある。

 絶対高い。カーペットだけで前世で欲しかったもの全部変えたんじゃないかなと思うほどに。


 あと、シャンデリアがあるんだけれど、この世界って電気ないよね?

 ろうそくにつけてるとかなのかな?

 あ、でもクリエイトファイアーでも結構な火力出ちゃうし、全く別のものなのかも。


 なんて周りをしげしげと見ていたらネールスが心配そうにこちらを見て、

 「お気に召しませんでしたか?」

 って聞いてきた。


 いやお気に召すも何も感想が出てこないほど凄いなって思ってただけなんだけど。


 「あ、いや、凄いなって思って。シャンデリアとか初めて見たし」

 「やはり誕生したばかりといえど、さすがリッチーでございますね!お目が高い!」

 「あ、そうなの?」

 「ええ、ええ。あのシャンデリアは宥和政策を採られていた6代前の魔王様の御時から当家に伝わっているものと聞いておりまして、当時の人間族で最も優秀と言われた光魔法の使い手と魔族で最も優れた魔道具製作者が共同で作られ────」


 あ、あのここ玄関なんですけど?

 いや確かに魔道具好きとは聞いてたけど、まずシャンデリアが魔道具だって今知ったし、そもそもここまでとは思ってなかったんだよ。


 だってこれ''魔道具好きな人''じゃなくて"魔道具オタク"じゃん!


 「────というわけで、このシャンデリアは魔族領域にはほとんど出回っていない、希少価値の高いものでありますので、そこに目をつけられたタカシ様は慧眼の持ち主であると、私は確信致しました」

 「お、おう、ありがとう」


 やっと終わった……。この世界に時計はないから正確な時間はわかんないけど、とりあえず長かった……。

 ネールスの話を要約すると、まだ人間と魔族が仲が良かった頃に、人間で1番すごい魔法使いと、魔族で1番すごい研究者が一緒に作った、魔力を補充すればずっと使えて、安全に周りを明るくできる魔道具、ということらしい。


 まあぶっちゃけでいえば電灯でした。

 ないと思ってたけどあるんだね。数は少ないっぽいけど。


 ネールスから解放された俺はメイドさんに案内された応接室で僅かな休憩を挟み、パーティ会場へ向かった。


 来たのが急だったから、参加者はネールス夫妻、先代夫妻、ネールスの弟に街の商人、ギルドの代表者だけという小規模なものではあるみたい。

 けれど、俺は前世ではこんなパーティに出るほどの家ではなかったし、立身出世できるほどの年齢でもなかったから初めてのパーティに胸を躍らせていた。


 パーティはネールスが私を紹介して、その後私の挨拶、それから顔合わせという流れになる。

 挨拶は応接室で考えたから大丈夫。顔合わせは緊張するけど、変なことする訳でもないしなんとかなるでしょ。


 ☆


 「本日のゲストは誕生されたばかりであられます、リッチーのタカシ様でございます。リッチーのお方に街にお越しいただけるというのは光栄の極み、ささやかな催しものではございますが、お楽しみいただければ幸いです。では、そのままタカシ様からお言葉を頂戴いたしたいと存じます」


 思ってたんとちがーう!

 小規模って聞いてたからもっと無礼講で気楽な感じかと思ってたのに、全員直立不動でまっすぐ俺を見てくるし、怖い……。


 でもそんなこと言ってたって始まらないし、何とかやるべきことは終わらせなきゃ。


 「ご紹介にあずかりました、リッチーのタカシです。本日はこのような機会をご用意いただけたこと感謝しています。この世界に参りまして本日で5日目で、右も左も分からないような若輩者ですので、御無礼な点もありますが、多目に見ていただけたらと思います。本日は無礼講でいきましょう。以上です」


 ふっふっふっ、我ながら完璧なスピーチ……ってあれ? 参加者全員目を見開いて固まってるんだけど!?

 訳が分からないのでネールスに目配せしたけど、だめだ、ネールスも固まってる。


 その一瞬の静寂の後、1人のおじいさんが拍手をしたのをきっかけに、ぽつりぽつりと参加者の皆さんも我に返ったようで、拍手でスピーチは終わった。

 結局なんで固まったかはわかんなかったけど、あとでネールスに聞けばいいや。


 ☆


 顔合わせというのは挨拶らしいのだが、てっきり俺の方が挨拶回りするのかと思ったら、参加者側が俺の前に列を作って挨拶をするらしい。


 ……と聞いたのだが。今俺の前には誰もいない。

 やっぱりさっきのスピーチまずったのかなぁ……。

 参加者は目配せし合っているだけで誰も来ない。


 料理食べたいから早くして欲しいんだけどなぁ……。


 すると、さっき1番初めに拍手をしたおじいさんが前に進み出て俺の方に来た。


 「儂は先代伯爵のヘラウス=ホーマットと申します」

 「あ、どうも、リッチーのタカシです」


 先代だったみたい。

 たしかに似てると言われたら似てるかも。


 「これが終わったあと、個人的にお茶でも飲みながら話をしたいと思ったのじゃけれど、よろしいでしょうか」

 「構いませんよ。むしろ私がこの世界のこととか色々お聞かせ願いたいくらいですので」

 「ほーほー、それでしたらご期待に添えると思いまする。ではあまり長く話していても他の者たちもおりますので、失礼致します」


 他の者なんて誰も……って、めっちゃ並んでる!!

 さっきのは誰が最初に行って様子見するかって事だったのか……。


 まあいいや。早く済まそう。

 ご飯食べたい。


 ☆


 あの、あれだけ飯の話しといてなんだけど、応接室に帰ってきた。

 理由はなんとなく察してると思うけど、あんまり美味しくなかった……。


 料理が冷めてるってのは、パーティだし、毒味とかもあるから置いといても、調理法が煮るか焼くかしかないのと、味付けが一辺倒。貴重な香辛料を使ってあるのは分かるんだけど、そもそもその種類も少ないんだと思う。


 どうしよう。サクラ様飯ももうあと2日分しかないんだよね……。

 食材さえあれば自分で作れるけど、そもそも何があるかも分からないし、慣れるしかないかな……。


 そんなことを考えていたらドアがノックされた。

 「タカシ様、準備が終わりましたのでご案内致します」


 メイドさんの先導で先代とのお茶会の部屋に行くと、もう先代は着いていて、先代の他にもう1人おじいさんがいた。


 「お待たせしました。ヘラウスさん、そちらの方は?」

 「いえいえ、待ってなどおりませぬぞ。こやつは前の魔王様の御時に賢者をしておったクラトンと申す者です。今は引退しておりますがの」


 賢者……ってことはめちゃくちゃ偉い人なんじゃ……。


 「賢者様ですか、お会いできて嬉しいです」

 と頭を下げた。

 偉い人とか普通に怖いし、これが当然だとおもっていたのだけれど、


 「ふむ、ヘラウスの言う通り面白いやつよのう」

 「じゃろ?して、どうじゃ」


 変わってる扱いらしい。


 「うむ、ええじゃろう。お主、タカシと言ったかな」

 「あ、はい、タカシです。」

 「わしの弟子になる気は無いか?」


 弟子とな?


 「弟子……ですか?」

 「そうじゃ。お主、タカシは生まれてから日が浅く、この世界のことが知りたいと聞いたのじゃが」

 「ええ、そうですね。何も分からないまま、1人では何も出来ないので」

 「ほうほう、良い心がけじゃな。わしはヴァンパイアでリッチーよりは位が低いが、それでも良いなら弟子にとってやる」

 「そんなことはどうでもいいです。それに俺にとっては渡りに船ですし。でもクラトンさんの方にはなんのメリットもないので申し訳ないなと」

 「もう既に弟子がおるから大して変わらん。それに若いリッチーにものを言えるようになる機会なんてそうそうないしの」


 先方がいいと言うなら躊躇うことは無い。


 「なら、よろしくお願いします」

 「よし、じゃあこれからはわしのことは師匠と呼べ。握手したら契約成立だ」


 クラトンさん、改め師匠が手を差し出してきたので、俺も応じる

 「はい、ししょ───」


 しかし、師匠の手を取った瞬間、なにやら俺は古いエレベーターが動き出した時のような浮遊感を感じ、慌てて目をつむった。


 そして目を開けたら俺は知らない場所にいた。

 ログハウスのような丸太でできた建物のようで……って、あれ? 師匠は?


 慌てて周りを見渡すが、どこにも師匠はいない。

 え、俺置いてかれ──


 俺の目の前には満面の笑みの師匠がいた。


 「あれ、さっきまでどこにも……」

 「あ、言ってなかったかの。わしは空間魔法が使えるのでな、わしの家まで転移して不可視の魔法インビジブルで姿を隠しておったのじゃ」


 姿を隠した挙句、満面の笑みで出てくるってそれはもうわざとでしかないような気がするけど。そんなことより、


 「空間魔法???? なんじゃそりゃーー!!!!!!」

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転生したら魔族になったのでとりあえず魔王になることにした naka @nakanakapretty

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