第20章
また、よくわからんおたくネタを言ったあと、せっちゃんはようやく本題らしきことを口にした。
「あー、途中、何カ所か画像が歪んでるねえ。昨日ニュースで見た、監視カメラの映像とおんなじだ」
「そうなのよ。そして、あのごてごてしたメカの姿がきちんと映ってるカットが一つもない。つまり、あのメカって、目撃証言はあっても鮮明な映像は一つも残ってないってこと」
「何それ?」
「もしかして、あの装甲服が画面に入ると映像が乱れるということですか?」
今、横からタカシくんがシレっと大変なことを言ったような気がする。
「たぶんね」
そしてそれをせっちゃんがシレっと認めた気がする。
なんじゃそりゃああああ?!
「てことは何? あのロボ、透明になれるだけじゃなくて、普段でもカメラにははっきりとは映らないってわけ? どーゆー技術ですか、それ?!」
「すごいっしょ」
「感心してる場合でなく! つか、どこまで現実離れしてんのよ、あのロボ!」
「でも、透明になれるのなら、さらにそんな技術は要らない気もするんですが……」
タカシくんがもっともな疑問を口に出した。
「たぶん、稼働中は透明になれないんじゃないかな」
せっちゃんがそういうと、タカシくんはオーバーな仕草でうなずいて見せた。
「あー、それはあるかも知れませんね。どういう原理かはともかく、おそらく機体の周囲にまわりの映像を投影してるわけですから、急に身体を動かしたりしたら追随できないのかも」
「まわりが動いてる分はともかくね」
なんか二人だけで納得しとる。なんじゃそりゃああ。
「ちょい待ち。言ってることがわかんないよ、せっちゃん。まわりが動いてる分はオッケーだけど、自分が動いたらダメって、どゆこと?」
「まあ、ちょっとコレ見てみ」
そう言ってせっちゃんも大型画面の前のコンソールを操作して、どっかの動画サイトにアクセスしてみせた。
「今度は何?」
「どっかの大学でやってた光学迷彩の実験。ほれ」
そこには、一台の車がビルの前に停まっている映像が映っていた。しばらく見てると、車のあちこちで光が瞬いたかというと、風景が映し出されていき、最後には車全体に背後の風景と同じモノが映って、ぱっと見には背後と見分けがつきにくくなった。ただし、タイヤはそのまま残ってる。
「おー。って、あたしたちが見たのとはちょっと違うね。なんか、あれだ、プロジェクション・マッピングだっけ? あれっぽい」
あたしの言葉にせっちゃんが頷いた。
「あー、似てるよね。これは、ビデオカメラで撮った周囲の映像を、表面上に映し出すことによって、周りの景色に溶け込んでるの」
とかしゃべってると、画面の中の車がちょっと動いた。とたんに、車の上に映ってる画像と背景とがズレてしまった。そして、また前と同じように車のあちこちが瞬き、背景と画像が一致した。
「なるほど。確かにこれじゃ動くととたんにバレちゃうわけね」
「そゆこと。あのパワードスーツは完全に姿を消してたから、もっと進んだ技術を使ってるんだと思うけど」
そう言いつつ、せっちゃんはさらにコンソールを操作した。スクリーン上に、今度はアニメの一場面が映った。
「理想はこうなんだけどねー、光学迷彩」
若いねーちゃんがビルの上からすーっと落ちていきながら、その姿が消えていく。
「おー、『ゴースト・イン・ザ・シェル』!」
なんか、やけに良い発音の英語でタカシくんが歓声を上げた。そういやあったなー、タケシの出てる映画。
「ロボくんにはこの手は使えない。そう考えた方がいいのかもね」
「そこが弱点、ということ、ですかね?」
あたしたちの顔を見ながら、たかしくんが自信なさそうに言った。
「どうかにゃー。あの透明化ってのは、人目につかず搬送できるから便利だろうけど、稼働した後は意味なくない? だって撃たれてもいいようにごっつい装甲してるんでしょ?」
「あんた、さっきから何が言いたいわけ?」
あたしの不満そうな顔を見て、せっちゃんが聞いてきた。
「なんかさー。やたらとスペックオーバーつうか、機能詰め込みすぎな気しない? 全部入りつうかなんつうか」
「全部入りて……」
そう言いかけて、せっちゃんはポンと手を打った。
「わかった。あんたが何言いたいか。あれだ。実用ってより、試作っぽいってことか」
せっちゃんの言葉に、タカシくんが頷いた。
「あー。自動車メーカーとかが展示会用に作るコンセプトカーみたいなものですか?」
「それそれ。なんかそんなやつ」
あたしは、自分の違和感を二人が言葉にしてくれたおかげで、なんかすごくスッキリした。
けど、せっちゃんはあきれ顔でパンパンと手を叩いた。
「はいはい。証拠もないのに推論重ねても意味ないから。脳細胞の無駄づかいです。さっさと支度して出かけるよ!」
こーゆーときだけ、妙に先生っぽいの、ほんとむかつくー。
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