第17章

「現在、敵は涼風学園の校庭に展開ちゅ、あれ?」


『どうした?』


「敵は撤退中です」


 校庭に向いている監視カメラにはすでに敵の姿はなかった。学園の周辺に張り巡らされているセンサの一つが反応した。


 監視カメラの一つがそれに反応して、自動的に該当箇所にレンズを向ける。そこには、学園の東側の塀を越えていく男たちの姿が映っていた。


 あたしは学園の外側を映しているカメラの一つを選び、スクリーンに映るその画像を拡大した。


 塀の外には、例の怪しげなトレーラーがいつの間にか移動してきていた。その背後の扉が開いていて、男たちが次々に中に入っていく。あっというまに扉が閉まり、トレーラーはゆっくりとその場から動き出した。


「敵の一団は大型トレーラーで現場から移動を始めました。カメラの映像をそちらに送ります」


 あたしは、コンソールを操作して、カメラの映像をそのまま本部に転送した。


『了解した。警察庁に情報をまわして対応を依頼する』


「了解です」


『ともあれ、すでに応援部隊の手配はしてある。用心のため、彼らには涼風学園周辺の警戒にあたらせよう。おまえはアンダースン博士と一緒にじっと身を隠しているんだ。いいな』


 さすが狸親父は話が早い。まずはホッと一息。


「そちらも了解。状況がさらにやばくなったら、また連絡します」


 室長はうなずくと、あたしの背後に視線を向けた。


『アンダースン博士とお見受けしますが』


「あ、はい!」


 振り向くと、タカシくんが直立不動の姿勢で突っ立って、こっちを、というより、スクリーンに映っている室長を見つめていた。何やってんだかなあ。


『警備責任者の本道です。このたびは、ご迷惑をおかけして、本当にもうしわけない。陳謝します』


 室長はカメラに向かって深々と頭を下げた。


「あ、いや、そんな……真宮さんはよくやってくれてますし……」


 おいおい、そんなあからさまに適当なフォローはいらんっちゅうの。つか、どうしてそこで口ごもりますか、キミは。


『そう言っていただけて、誠にありがたく感じております。ご不便をおかけしておりますが、今しばらくご辛抱ください』


 そう言って室長は再び深々と頭を下げると、あたしのほうに視線を戻した。うひゃ、顔が全然笑ってないよ。あとがコワイよー。減俸だけは勘弁っ。


『甘利から報告は受けた。情報漏れがあったかどうか調査中だが、まだ漏洩元は見つかっていない』


 おっけー。仕事の話だ。話を本筋に戻して、ボスの怒りをそらさねばっ。


「こうなっちゃった以上、何らかの方法でアンダースン博士本人がトレースされてると考えたほうがよさそうです。なんせ、見つかったの、もう三回目だし」


『……電子的にか?』


「どうやってトレースされてるのかは不明です。まあ、明日の居場所ははっきりしてるわけだから、もう今からそんな話をしてもしょうがないっちゃあしょうがないんですが。会場の警備を強化するしかないかと」


『明日の警護に関しては、こちらで調整中だ。うちだけじゃなく警察からも人員が配備されることになるだろう……』


 室長の眉間にぐっとしわが寄った。敵襲も面倒だが、警察との縄張り争いも面倒だってかあ。ああ、大人は大変だ。


「それなんすけどー……」


 あたしは、背後に立つタカシくんをちらりと振り返ってから、室長に向き直った。


「明日の学会、博士は欠席というわけにはいきませんか? 休日とはいえ、場所は大学の構内です。どれだけ厳重に警備しても、限界があります。それに、今日空港に現れたみたいな超兵器をテロリストたちが所有しているとなると、どんな被害が出るか、予想がつきませんし……」


 室長は、いよいよ眉間のしわを深くした。


 あたしは、もう一度タカシくんの方を振り返った。


「いいよね、タカシくん? どうせ、世紀の大発見ってわけでもないし、すでに中身は文書化されてるって、昼間言ってたじゃん」


 タカシくんは眠そうな目をして、片手で頭をポリポリかきながら、


「んー、まあ、そうなんですけどね……」


 と答えた。


 おいおい、疲れてて眠いんで、頭働いてないだろ。今、重要な話してんだからシャキッとしてよ~。


『それなんだがな、真宮……』


 と、室長がものすごーく暗い声で話しかけてきた。うわ、なんじゃ、こりゃ。頑固一徹仕事の鬼で、自他共に厳しいワーカホリック老人が、なんかすげー仕事に疲れたような声出してるよ?!


「な、何か問題でも?」


『おまえが雲隠れしてるあいだに、今回の空港でのテロの主犯を名乗る相手から、警視庁宛に電話があってな』


「はあ……」


『明日の学会、もしアンダーソン博士が卑怯にも逃げ隠れして現れなかった場合、無差別テロに切り替える、だそうだ』


「んなムチャクチャな……って、ちょ、ちょっと待ってください。それっておかしくないですか? そんな脅迫までしといて、なんで今夜も連中はあたしたちを襲ってきたんです?」


『そこだ。別のグループがいるのか、それとも、おまえたちの居場所がわかったので急遽計画を変更したのか……』


 どゆこと、それ? なんかもーむちゃくちゃな話じゃん。


『真宮。とにかく、おまえはそこで穴熊やってろ。増援はそちらに着き次第、周囲に展開して警戒に当たらせておく。明日のことは追って連絡する』


 いや、もう夜明けまでそんなに時間ないすよ、室長~。……とは思ったものの、今何言ってもどうにもなんない気がしたので、


「了解でーす」


 と答えておいた。うう、疲れてどうでもよくなってんのはあたしのほうかも。


『ところで……』


 と、室長は疲れた顔にさらに疲れ果てた感じを上乗せして、あたしをじろりとにらんだ。うわー、きたよ、お説教タイム。


『どこから情報漏れがあったかわからん状況では、連絡を絶ったのは正解だし、灯台もと暗しは悪い案ではなかったが、同居してる学生たちの安全を考えると少し無謀だったな』


「……すいません」


『繁華街のホテルなどよりはよほどマシだがな。それともう一つ。また外部の人間を使ったな』


「あ、いや、まあ、他に手を思いつかなかったもので……」


『判断は悪くないが、臨機応変にも限度がある。自分が国家公務員だということを忘れるな。始末書はきちんと書いてもらうぞ。もちろん、これは前にも言ったが、経費では落ちんからな』


「……わかってます」


 あはは、そこはまあ、最初から期待してなかったよ、うん。


『真宮、慎重の上にも慎重にな。以上だ』


 そう言うと、室長は画面を消した。

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