第4章
ビルの外は逃げまどう人たちであふれかえっていた。みんな、とにかくビルから離れようと、我先に駅のほうへと走っている。ビルの左右では、駆けつけた制服警官たちが、人々をビルの外へと誘導しつつ、中の様子をうかがっていた。たぶん、空港の他の部分を警備していた警官たちだろう。すでにロボの武装についてはある程度通達が届いているのか、突入命令はまだ出ていないようだった。
坂梨さんと高平さんはそれぞれの車を歩道脇に停めて待っていた。車はどちらも黒のセダン。要人警護用の防弾車両だ。
高平さんは運転席に座り、エンジンをかけたまま、いつでも発車できるようにしていた。先導車のドライバーである坂梨さんは、車から降り、高平さんの乗る車のそばに立って、後部のドアに手をかけ、いつでも開けられるようにしたまま、もう一方の手をこちらに振っている。
「甘利! 真宮! 急げ!」
坂梨さんに促され、あたしたちが車に駆け寄ろうとしたそのとき、鈍い発射音とガラスの砕け散る音が背後から聞こえてきた。
「伏せて!」
思わずあたしはせっちゃんとタカシくんをその場に押し倒し、その上に覆いかぶさった。
その瞬間、強烈な爆風が破裂音と共に襲いかかってきた。
顔を上げると、高平さんの車が木っ端微塵に吹き飛んでいた。そばに立っていた坂梨さんの身体は、血まみれになってあたしたちのすぐ真ん前に転がっていた。高平さんの姿はどこにも見えない。
再び、後方から発射音がした。
今度は、坂梨さんの車に弾が当たって炸裂、またも爆風が周囲を席巻した。
爆風の衝撃で朦朧としつつも、背後を振り返ると、派手に割れたガラスの向こう側で、どこから取り出したのか、グレネードランチャーを左手に持ってロボが立っていた。
グレネード弾が入ったぶっといシリンダーが真ん中についてる。40x46mmグレネード弾5連発の軍用グレネードランチャー、ダネルMGLだ。南アフリカのアームスコー社製だけど、米軍も含めて世界のあっちこっちで正式採用されてる、これまた戦場ならどこでも見かける現用兵器だ。
右手にアサルトライフル、左手にグレネードランチャーを持って、空港のロビーに突っ立ってるロボ(装甲服?)の姿は、あまりにも現実感に乏しかった。なんでこんなバカげた展開でばんばん人が死んでるのだ?!
あまりの不条理さにムカムカしながら、あたしはなんとか立ち上がって、せっちゃんとタカシくんに叫んだ。
「タクシー乗り場!」
あたしたちの車を狙ってきた以上、あのロボの狙いはやっぱこのタカシくんだと考える妥当だろう。なんとしても急いでヤツから遠ざからないと。
「こっち!」
あたしは、二人の手を引いてタクシー乗り場まで駆けていった。先頭の車にたどり着くと、運転手のおっちゃんが後部の自動ドアを開ける前に、助手席側のドアを自分で開けて中に飛び込んだ。
「ドア開けて! はやく!」
あたしに怒鳴られ、運転手のおっちゃんがあわてて後部ドアを開いた。あたしは後ろを向いて手を伸ばし、タカシくんの腕をつかんで車内にひっぱりこんだ。ええい、もたもたしてんなー! リアミラー越しに、空港ビルからロボが出てくるところが見えてんだよ!
タカシくんを押し込むように、せっちゃんも乗り込んできて、前を向き、
「おじさん、急いで東京ま……、え?!」
と言いかけて、口を開けたまま固まってしまった。
「へ?」
横の運転席に目を向けると、運転席側のドアを開け、あわてて走り去っていく運転手のおじさんの姿が見えた。……バックミラー越しにロボが見えちゃったのか? だとしても、気が動転したのはわからんでもないけど、どうせ逃げるんなら、車のほうが速いと思うなあ。てか、どうすんじゃ、この状況?! 敵のランチャーにはまだ弾が残ってるつうのに!
「ああっ、もう!」
しょうがないんで、あたしは運転席に移動した。キーは刺さったままだ。バックミラーにはこっちに近づいてくるロボが映ってる。
「行くよー!」
「って、ひかり、あんた免許は?!」
後ろからせっちゃんが慌てて声をかけてきた。あたしはかまわずキーを回してエンジンをかけ、レバーをドライブに持っていった。オートマなんで、ギアチェンジは楽勝だ。
「だいじょーぶ! あたし、カリフォルニア州の免許、去年取ったし!」
アクセルを踏み込むと、タクシーは一気に加速して走り出した。
「それは日本で使って良いのーー?!」
「心配ご無用!」
あたしはさらにアクセルをいっぱいに踏み込んだまま、高速道路の入り口めざして車を走らせた。
「って前! バス! バス! バスが!」
「わかってるって!」
目の前にはリムジンバスが二台横に並んで、車線をふさいでしまっていた。
あたしはハンドルを大きく左に切って、車をビル前の舗道に向けた。
「うわ、そっちは……」
タクシーはガタゴトと大きな音を立てて舗道の上に乗り上げた。
「どっせーーーーっ!」
あたしはクラクションを思いきり鳴らしつつ、歩道を突き進んだ。
「どいて、どいてー!」
旅行客たちが悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げていくのが見えた。
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