47 対決の準備
マケラの屋敷の執事に起こされて、俺は目を覚ました。
シン、いや、ザウロスの姿はすでになかった。そして、ノーラは攫われてしまったようだった。
「プッピ様、マケラ様が目を覚まさないのです」
マケラは倒れている。声をかけるが、目を覚まさない。頬を張ってみたが、無駄だった。呼吸はしているので、死んだわけではなさそうだが。
「ノーラ様はどうした?」俺は執事に聞いた。
「そ、空を飛んで行ってしまわれました」
執事の話では、シンはノーラを抱えて窓を飛び出した。飛び出した先には、巨大な鷲が控えており、シンとノーラは鷲の背に乗り遥か彼方まで飛んで行き、消えてしまった、とのことだった。
俺は執事と協力してマケラを下の階に運び、介抱を続けたが、マケラは一向に意識を取り戻す様子をみせなかった。
執事に、東の詰所まで行き、急患の鐘を一度鳴らさせるよう頼んだ。そして俺はマケラを馬車に運び、タリアの店に連れていった。
タリアの店には、鐘の音に気付いたタリアがすでに店に出て来てくれていた。
「マケラ様……、どうしたの?」意識不明のマケラを見て、タリアが聞いた。
「マケラ様の屋敷にザウロスが出現して、マケラ様は稲妻に打たれた。そして、ノーラが攫われてしまった」俺は説明した。
「なんてこと……大変」タリアは両手で口を押えて驚愕した。しかしすぐに気を取り直した。「とにかく、マケラ様をベッドへ」
マケラをベッドに運び、タリアと俺で診察した。マケラは、意識不明である以外には、身体に異常はみられなかった。特に外傷もない。おれはマケラの眼球を見た。瞳孔が開いていたり、変な方向を向いていたりする事もなかった。
タリアが気つけ薬を処方して嗅がせたが、マケラの意識は戻らなかった。
他にも、タリアは薬草屋でできるあらゆる処置を試したが、マケラの意識は回復しなかった。
俺は魔術師ベアリクと、祈祷師ウェイドをそれぞれ呼び出した。時間外であったが、二人とも領主の危機であることを伝えると、すぐに支度をしてタリアの店に集合してくれた。
ベアリクとウェイドがそれぞれ、意識を失っているマケラを診た。そして、ベアリクは何かの呪文を唱えてみたが、何も起こらなかった。二人は顔を見合わせて、首を横に振った。
「プッピ、マケラ様は、ザウロスの呪いにやられたのだと思う」ベアリクは言った。
「俺も同感だ。ザウロスを倒さない限り、マケラ様が目を覚ますことはないかもしれんぞ」ウェイドがそう言った。
「……なんていう事だ。マケラ様が倒れて、ノーラ様が攫われて……。トンビ村はどうなっちまうんだ」ベアリクが嘆いた。
「プッピ、ザウロスとの闘いに、勝ち目はあるのかい」ウェイドが聞いた。
「わからん。ザウロスは、ノーラを攫っていき、そして俺にこう言った。呪禁の護符と交換だ、と。一人でワツカの寺院まで来い、とな」
「ワツカの寺院といえば、この村の北の出入り口から出て、半日ほど歩いた所にある古い無人の寺院だよ。ザウロスがそこに来いと言ったんだな? いつ?」ベアリクが聞いた。
「明後日の正午だ」
「時間がないな……。しかしプッピ、本当に一人で行く気か」
「ああ、約束通りにしないと。ノーラの命が危ない」
マケラは意識を失ったまま、微動だにしなかった。マケラが目を覚ますまで、このままタリアの店で様子をみることとなった。ザウロスを倒せば、マケラは目を覚ますのだろうか。
この日は、タリアがマケラの看病をするため店に残ることになった。
俺は家に戻り、明後日の対決に備えて、眠った。
翌日、俺は朝早く起き、タリアの店へ向かった。マケラの容態は変わりがなかった。
そして、次に東の詰所へ行き、ラモンとオルトガに昨晩の事件を報告に行った。
「なんということだ。ノーラ様が攫われてしまったとは……。」オルトガが言った。
「プッピ、それで、マケラ様はどうなんだ」ラモンが聞いた。
マケラはザウロスの稲妻に打たれたきり目を覚まさない事を説明した。そして、ベアリクとウェイドの見立てでは、ザウロスの呪いを解かない限り、マケラが目を覚ますことはないだろうとの話だったことを伝えた。
そして、ザウロスは呪禁の護符と、ノーラを交換条件に出し、明日の正午に俺一人でワツカの寺院に来ることを要求している、と説明した。
「で、プッピ。まさか一人で行く気じゃあるまいな」ラモンが言った。
「ああ、一人で行く」俺は答えた。
「しかし、危険だ。ザウロスに殺されるぞ」オルトガが言った。
「でも、他に方法がない。ザウロスの要求通りにしないと、ノーラの命が危ない」
「おれは反対だ。ザウロスが約束通りにプッピとノーラを無事に返すとは限らない」ラモンは言った。
「俺も反対だ。ラモンの言う通りだ。プッピ、甘いぞ」オルトガが言った。
結局、二人の意見に押されて、明日はラモンとオルトガと三人でワツカの寺院に行くこととなった。
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