46 マケラ邸にて
我々がダイケイブを出た時には、外は真夜中だった。我々は坑山入口から少し離れたところでキャンプを設営し、夜明けまでの間、交代で仮眠をとった。
朝が来てから、我々は帰路についた。その日の午後にトンビ村に到着し、東の詰所で解散した。
タータは、タリアに土産物として宝石二個をプレゼントした。
「これが戦利品?! すごいじゃない! じゃあ、旅は大成功だったのね」タリアが言った。
「いや、そうでもないんだ。実は、杖はすんでの所でザウロスに奪われてしまった」俺は説明した。
ザウロスが杖を奪って消えた。護符と杖をまんまと手にすることが出来たザウロスは、その力を蓄えている所だろう。
対抗策を急がねば。本領発揮したザウロスがこの村に報復にやってくる可能性がある。
しかしひとまず、タータを無事にタリアに返すことができて良かった。タータも冒険ができて満足そうだ。
その日の夜は、四人姉妹と夕食をともにした。タータが土産話を披露し、タリアとユリアとニキタは、タータの話に聞き入っていた。オークを一撃で倒した場面の話では、三人とも手を叩いて喜んだ。タータは得意気だ。
夕食が終わり、俺は四人姉妹に挨拶をして、離れに戻った。離れに入ろうとしたときに、俺を追いかけてきたタリアに呼び止められた。
「ねぇプッピ、本当にありがとう」
「何がだい」
「タータを守ってくれて、無事で返してくれたわ」
「いや、俺は何もしていないんだよ。さっきのタータの話のとおりさ。今回の冒険は、タータが大活躍だった。俺は地図を片手に道案内をしていただけさ」
「本当? でも、とにかく良かったわ。あなたもタータも無事で帰ってきて。私は今日はよく眠れそうよ」
「よく寝てくれよ。俺も、ひとまず今日はぐっすり眠るとするよ」
タリアは母屋に帰って行った。俺は離れに入り、風呂に浸かってから、ベッドに潜り込み眠った。
翌日は、朝から仕事に出た。タリアの店は、最近は急患も減り、すっかり落ち着いていた。ピートとルイダも、暇を持て余している様子だ。
この日はダイケイブからの急患もなく、客も少なく平和に終わった。
夜になり、俺は馬車を使い、マケラの屋敷へと向かった。
「プッピ、来てくれると思っていたよ」マケラが出迎えた。
マケラとノーラと俺で、夕食を摂った。
ノーラは相変わらず元気そうだった。マケラがダイケイブから無事で帰ってきたことを喜んでいた。
俺達はダイケイブでの土産話を皮切りに、他愛もない話をして盛り上がった。
そして夕食が終わり、ノーラはいつものように俺とマケラに挨拶をして、寝室に上がって行った。
「プッピよ、渡したいものがあるのだ」
そう言って、マケラはミスリル製の短剣を俺の目の前に持ってきた。
「工房に発注して、あらたに作らせたのだ。今日届いたばかりだ。ラモンには同じくミスリルの矢を進呈するつもりだ。今後、またこれを使うときもあるだろう」マケラは言った。
「ありがとうございます」俺は礼を言った。
短剣を手に取ってみる。以前に俺がデリクの工房で作らせた物よりも、ずっと品質が良さそうだった。切れ味が鋭そうで、持った感じも適度な重みがあり、手にしっくりくる。
「護符を奪い、杖を取り戻したザウロスは、今頃力を蓄えているところだろう。いつ奴がトンビ村に報復をしかけてくるかわからぬ。油断はできんぞ」マケラが言った。
「マケラ様、まだ私達には呪禁の護符があります。大祈祷師ルベロの話では、この世にこの護符がある以上ザウロスは本来の力を発揮できないだろうとのことでした」
「うむ。もはや我々の切り札は、呪禁の護符だけだな。これを上手く活用して、何としてもザウロスと対抗しなければならぬ」マケラが言った。
その時だった。
二階から、大きな音が響いた。続いてノーラの叫び声が聞こえた。
「まさか!」マケラが叫んだ。
俺とマケラは応接間を飛び出し、二階のノーラの寝室へと急いだ。
「ノーラ!」マケラが大声で呼びかけながら、寝室のドアを開けた。
ノーラの部屋の窓が開け放たれていた。
窓辺には仮面を被ったローブ姿の男、すなわちシン、いや、ザウロスが立っていた。
ザウロスは、右手に先日奪っていった杖を持っている。
そして、左腕に意識を失ったノーラを抱えていた。
「マケラよ。娘は貰っていくぞ」ザウロスがマケラに言った。
「そうはさせるか! 私と勝負しろ!」マケラは剣を構え、ザウロスに言った。
「マケラよ、お主はわしの相手ではない。何度試したらわかるのだ」ザウロスがそう言い、邪悪な言葉を一言つぶやき、マケラに杖の先端を向けた。杖の先から放たれた稲妻が、マケラを打った。マケラは意識を失い、その場に倒れた。
「プッピよ。マケラの娘を返してほしくば、呪禁の護符と交換だ。明後日の正午に、呪禁の護符を持って、ワツカの寺院に来い。一人で来るのだぞ。約束を守らなければ、この娘の命はないと思え」
ザウロスはそう言って、今度は俺に杖の先端を向けた。杖の先端から放たれた稲妻に当たり、俺は意識を失った。
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