45 ダイケイブの財宝




 その後、我々は肩を落として、来た道を戻った。


 地下川原を上流の方向に歩いていた時に、暗い雰囲気を変えたいのか、急にタータが笑顔をつくり、我々に提案した。


「ねぇ、この先に地下神殿があるんでしょう? 神殿の奥に、財宝が眠っているんじゃないのかしら? せっかくここまで来たんだから、確かめに行ってみましょうよ」


「いや、タータ。そんな事をしている暇はないぞ。取り急ぎ村に戻り、ザウロスへの対抗策を練らなくては」マケラが言った。


「なぁマケラ様、ここまで来たんだ。そして、この先二度とダイケイブに来ることもないだろう。ちょっと寄り道してみたらどうでしょう……? ここまで来て、何の収穫も無しに帰るのも面白くないですよ」ラモンが言った。


 マケラは唇を噛んでしばらく考えている様子だった。そして言った。


「良かろう。寄り道してみよう」




 我々は地下三階への階段がある場所まで戻ってきたが、そこを通り過ぎて、さらに上流を目指して歩き続けた。魔物の気配はなかった。ひたすら歩くこと数時間、以前にザウロスと対決した、あの川原の小屋が見えてきた。


 小屋は、空き家になっていた。誰も住んでいる気配はなかった。暖炉の火は消え、テーブルや椅子の上にはホコリが積もっていた。


 ここで休憩をしてはどうか? とラモンが提案したが、マケラが嫌がった。この小屋は、ザウロスに心を囚われていたマケラが長い間幽閉されていた小屋だ。マケラが嫌がるのも無理はない。我々は、マケラの意思を尊重し、先へと急いだ。




 またしばらく歩き続けると、砂利道が石造りの道に変わった。そして、石造りの道に沿って進み、とうとう我々は地下神殿にたどり着いた。


 目の前に巨大なドーム状の空間が広がっている。あちこちに天井まで伸びる石柱が立っている。そして、ドーム状の空間の中央には、十段ほどの石段に囲まれた広いステージがあった。


 我々は、石段を登りステージの上に立った。ステージは五十メートル四方ほどの広さがあった。ステージの中央には祭壇があるが、荒れ果てた祭壇の上には、特に気になる物は置かれていなかった。




「おい、あそこを見てみろ」ステージの上から周囲を見渡していたラモンが遠くを指さして言った。


 このステージを通り過ぎて、ドーム状の空間を突っ切った先の岸壁に、大きな両開きの扉があるのをラモンが発見した。


 我々は、ステージを降り、扉のある所まで歩いて行った。両開きの扉は、鍵が閉まっていて開かなかった。


「私に任せて」タータが言い、タータは鍵開けの術を使った。すると、カチャリと音がして、扉の鍵が開いた様子だった。


 マケラとラモンが注意しながら両開きの扉を開けた。


 扉の向こうは、広い部屋だった。そして、部屋の中央には、大きな宝箱が鎮座していた。


 我々は歓喜した。しかし、喜ぶのはまだ早かった。宝箱の重い蓋を持ち上げて中を確認すると、入っていたのは数粒の宝石の欠片だけだった。


「ぬうう、これだけかぁ」ラモンががっかりした声で言った。


「もっと沢山財宝があると思ったのにね」タータが言った。


「恐らく、元々はこの宝箱の中に沢山の金銀財宝が入っていたのだろう。ザウロスが奪ってどこかに運んでしまったのだろうな」マケラが言った。


 しかし、ここにわずかばかり残された数粒の宝石も値打ちのある品物だった。おそらく、一粒で家が建つほどの価値があろう。数えると、宝石の粒は三つあった。


 俺は宝石など特に欲しくはなかったので、三人で一粒ずつ分けたらどうだ? と提案した。すると、マケラも俺と同じく、宝石はいらない、と言った。


 そこで、二粒をタータが、一粒をラモンが貰い受けることとなった。ラモンもタータも嬉しそうにしている。




 ザウロスに杖を奪われて、暗い雰囲気となっていた我々だが、僅かばかりとはいえ、ダイケイブの財宝を手にし、少なくともラモンとタータは満足した様子だった。




 その後、我々は地図を頼りに、長い道のりを戻り、無事にダイケイブを脱出することが出来た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る