44 探し物の術
「なんて不思議な場所なの……」タータが目を丸くして言った。
我々は地下四階にたどり着いた。地下四階は、地下川の流れる広大な川原だ。そして、川原の砂利の中に多量の発光石が含まれていて、辺り一帯、松明の光も必要ないほどに不気味な明かりに満ちていた。俺とラモンとマケラは、一度来たことがあり、見慣れているのだが、タータは初めて見るため、この不気味な風景に圧倒されている様子だ。
「さぁタータ。ここらで、探し物の術を披露してもらえないか」マケラがタータに言った。
「そうね、やってみるわ」
タータはそう言って、背負い袋から水晶玉を取り出し、左の掌の上に載せた。右手をかざし、何やら呪文を唱えた。そして、目を閉じたままじっとしている。集中しているのだろう。
しばらくして、タータが目を開けた。
「杖は、あっちの方に落ちてる」そう言って、タータは地下川原の下流側を指さした。
我々はタータを先頭に、川原を下流側に歩いていった。
出かける前にスマホの地図アプリで確認した所、この地下川原の下流側は、途方もないほど先まで延々と続いていた。目的の杖が、それほど遠く離れた場所ではないと良いのだが……。
だいぶ長い時間、我々は川原の下流に向けて歩き続けていた。
発光石の光は 途切れることなく続いている。不気味な光が川面に反射している。
「なぁタータ、本当に大丈夫なのか? 道は合っているか? この先に本当に杖があるのか?」不安になったのだろう、ラモンがタータに質問した。
「大丈夫。近づいてきているわ。杖はもう少し先の方にある。川原に落ちてるわよ。川の中に沈んでいるのではなくて良かったわね」タータが言った。
延々と同じ景色が続く。
我々はひたすら歩いた。
杖は、本当にこの先にあるのだろうか。以前にザウロスを倒したとき、杖はザウロスとともに砂と化した。そして、確かにこの川原の下流に向けて、砂は舞い飛んでいった。
ザウロスは肉体を失い、魂だけとなってこの川原を彷徨い、ダイケイブを抜け出したのだろう。
しかし、魂だけとなったザウロスは、杖を持ち去ることができず、この川原のどこかに杖を置き去りにしているのかもしれない。
もしそうだとしたら、シンの身体を操ることができるようになり、護符を取り返したザウロスもまた、杖を取り戻しにここにやって来るだろう。
我々の方が先回りして、無事に杖を見つけ出し、杖を燃やして葬ることができれば良いのだが……。
タータが足を止めた。
「さぁ、着いたわよ。あそこを見て」タータは前方を指さした。
タータが指さす先、前方十数メートル先の砂利の上に、確かに樫の大杖が落ちていた。、まさしく、ザウロスが使っていた杖だった。
「すごいぞタータ。よく見つけたな」ラモンが言った。そして、ラモンが落ちている杖に駆け寄ろうとした。
その時だった。
突然、ブーン、という低い音が地下川原に鳴り響いた。次の瞬間、俺もマケラも、ラモンもタータも、体中を鎖で縛られたかのように動きがとれなくなった。全身がしびれる。俺達は皆、その場に倒れ込んだ。まるで金縛りに遭っているようだ。身動きがとれない。
「な、なんだこれは……」マケラがかすれた声で言った。
ブーン、という低い音はまだ続いていた。そして、四人とも身体を動かすことができずに、何もする事ができずにいた。
遠くから足音が聞こえた。
足音はゆっくりと近づいてくる。砂利を踏みつける音がだんだんと大きくなってくる。
足音の正体は男だった。
黒く長いローブを身にまとっている。そして、顔は仮面を被り隠している。白塗りの仮面は、目と口の部分だけが空いている。その仮面の奥から除く二つの目は、俺を見ていた。俺は仮面の男と目が合ったまま、身体がしびれ、身動きがとれずにいた。
「杖はいただいていくぞ」仮面の男は言った。彼の声は、俺の声そのものだった。間違いない、こいつはシンだ。ザウロスが操る、シンだ。
そして仮面の男は、杖を拾い上げ、右手に持った。そして、高らかに笑った。
仮面の男は右手に掲げた杖を振り、一言呪文を唱えた。
杖の先端から稲妻がほとばしり、それは我々四人に直撃した。
どれほどの時間がたったろうか。俺は目を覚ました。周囲を見渡すと、ちょうど同じときにマケラとラモンも目を覚ましていた。身体のしびれは取れていた。マケラがまだ倒れているタータに声をかけ、頬を叩いた。その刺激でタータも目を覚ました。
我々は長い間気を失っていたようだった。どれくらいの時間がたったのかわからない。仮面の男は、杖とともに姿を消していた。
マケラが悔しそうに歯を食いしばっている。ここまで杖を探しにやってきて、目の前に杖を見つけた途端に、奪われてしまったのだ。当然だろう。
「あの仮面の男、ザウロスに間違いないな。プッピと寸分違わぬ背格好だった」マケラが言った。
「ザウロスに、みすみす杖を奪われてしまいましたね」俺は言った。
「なぜ、俺達は生きているんだろう? ザウロスだったなら、俺達にとどめを刺す機会はいくらでもあったろうに」ラモンが言った。
「たぶん、ザウロスはまだ十分に力をつけていないのよ。それで私達は見逃されたんだわ」タータが言った。
マケラが立ち上がり、目の前に転がっている石を思い切り蹴飛ばしてから、言った。
「いずれにせよ、杖をザウロスに奪われてしまった。ザウロスが以前のような力を取り戻すのも、時間の問題だろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます