34 バクタ
アイランドを地震が襲った翌々日の午後、俺達はバクタに到着した。
バクタの街も、少なからず地震の被害に遭ったようで、倒壊した建物もちらほらあったが、それでも街は活気があり、賑やかだった。道行く人々が発する言葉のイントネーションが、少し違って聞こえた。東の国バクハードの訛りだろうか。
我々はバクタの街の西部の出入口から街に入った。バクタの街は、ダマスの街と規模的には変わらないくらいに大きな町だ。東の国バクハードの首都である。街の中心には国王アンドフの居城がある。
そして、大祈祷師ルベロの住処は、街の南西部に位置する大聖堂だという。我々は大聖堂を目指して馬車を走らせた。
大聖堂に到着したのは、日が暮れる直前だった。この時間に訪問するわけにはいかないので、今日は宿をとり、一泊しようという話になった。大聖堂から少し離れた場所になったが、馬車を留めることのできる宿が見つかり、我々はそこで部屋をとった。
夕食は、バクハードの名物料理だという、蛙のシチューをはじめ、トンビ村やダマスの街ではあまり出てこないような珍しい料理が並んだ。どれも美味だった。
その夜、相部屋のラモンがぐっすり眠ったのを確認してから、俺はスマホを取り出した。SMSを確認すると、新着メッセージが入っていた。やっと復旧したようだ。
◆『ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。回線が復旧しました。タカハシさん、大丈夫ですか?』
◇『失敗したのかい』
ハリヤマの返信はすぐに届いた。
◆『はい。申し訳ありません。失敗しました。再起動自体がうまくいかなかったのです。シンをアイランドに送ることは成功しましたが、タカハシさんをこちらの世界に戻すことができませんでした。』
◇『シンはどうしている?』
◆『実は、それを把握できていないのです。アイランドに入ったことはわかっていますが、探知不能です。連絡もとれません。タカハシさんともSMSが繋がらなくなり、やっと今復旧した所ですので、今後シンとも連絡がとれるように復旧を急ぎます』
◇『再起動と同じタイミングでアイランドで大地震が起こったけど、何か関係があるの?』
◆『よくわかっていません。しかし、何らかの関連があると思われます』
◆『タカハシさんを早期にこちらの世界に戻せるよう、対策を練っていきます。すみませんが、もうしばらく時間をください』
ハリヤマとの交信を終え、次にユキからのメッセージを確認した。
◆『タカハシさん、大丈夫ですか? 連絡待っています』
俺はメッセージを入力して送信した。
◇『こっちは大丈夫だよ。なんだか大変だったみたいだね。俺を元に戻すのを失敗したらしいね』
ユキからの返信もすぐに届いた。
◆『無事で良かったです。心配してました。タカハシさんが戻ってくるのを楽しみにしていたのに、今回は残念です』
◇『そうだね。また次の機会があることを祈っているよ』
◆『タカハシさん、いろいろすみませんでした。私、シンさんの事とか知っていたんですけど、言えなかったんです』
◇『わかってるよ。ハリヤマから口止めされてたんだろう?』
◆『はい……。そうです。いろいろな事がはっきりするまで、タカハシさんには何も伝えないように、と言われていました』
◇『ハリヤマの方針だったら、仕方ないよ』
◆『すみませんでした……。ところで、シンさんがアイランドに入ったことは間違いないのですが、連絡が取れないみたいなんです』
◇『そうらしいね。ハリヤマから聞いたよ』
◆『もし、シンさんに会ったらよろしく伝えてください。早く居場所だけでもわかると良いのですが』
◇『もし会ったら、伝えるよ』
◆『私、タカハシさんに会えるのを楽しみにしていたんです』
◇『俺もだよ。まぁ、仕方がない。また次の機会に……だね』
◆『そうですね。いつか会えることを信じてます』
◇『うん。しかし不思議な気持ちだよ。昨日までユキさんは俺と、じゃなくてシンと喋ってたんだろう? シンは俺の身体を使ってたんだろう? なんだかユキさんは俺よりも俺の事をよく知ってる存在になったよね』
◆『確かにそうかもしれませんね。タカハシさんが留守にしている間のタカハシさんの事を私はよく知っています。こないだ一緒にスタバにも行きましたよ。……なんだかややこしいですね(笑)』
◇『それだよ! ややこしい(笑)早くもっとシンプルな関係に戻ってユキさんと喋りたいです』
◆『私もです』
◇『今俺はバクタという街に来ていてね、明日は大仕事が控えてるんだ。そろそろ寝ます』
◆『頑張ってください! おやすみなさい(zzz)』
◇『おやすみ』
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