29 ユキのパート その10




「再起動開始します」ブース内に、プログラミングルームからの音声が流れた。


「シンさん、さよなら」ユキは別れの言葉をシンにかけた


 シンは、ユキの言葉を聞き、右手を振って合図した。


 次の瞬間、正面の大画面スクリーンに映し出されていた映像がフッと消えた。画面の中央に“システム再起動中”というメッセージが白字で表示された。


「うまくいってくれよ……」針山がつぶやいた。


 その時だった。針山とユキとシンがいるブースの扉を、ドンドンと叩く音がした。針山が音に気付き、扉を開けた。プログラミングルームにいたエンジニアの一人だった。


「針山さん、まずいです。システム終了しましたが、起動しません」


「なんだって!? なぜ起動しないんだ。再起動だろう?」


「そのはずなのですが、どこかでエラーが生じているようです。今、対応中です」


「タカハシさんとシンはどうなるんだ?」


「わかりません。とにかく、復旧を急ぎます」


 プログラミングルーム内が慌ただしく動いていた。ユキは、ゲーミングチェアに座るシンを見た。シンは微動だにしない。


「針山さん、再起動失敗です。再起動ではなく、全ての電源を一度落とします。いいですか」


「タカハシさんとシンはどうなるんだ?」針山は繰り返した。


「起動さえできれば、何とかなる筈です」


「ええい、仕方ない。電源を落とせ」針山が決断した。


 システムの電源が完全に落とされた。かすかに聞こえていたモーター駆動音が止まり、オフィス内は完全な静寂に包まれた。




「起動します」エンジニアの一人が言った。


 ブーン、という低い音がして、再びシステムが動き始めた。


「どうなんだ? タカハシさんとシンは無事か?」針山が聞いた。


「まだわかりません。起動プロセス終了までお待ちください」エンジニアが言った。


 しばらく時間が経過した。シンは、ゲーミングチェアに座ったまま微動だにしない状態だ。


 やがて、目の前の大画面スクリーンに、タイトルバックが表示された。




 “   ISLAND    


   presented by 地球人類研究所


   loading please wait......”






「針山さん、システムが起動しました」エンジニアが声をかけた。


「タカハシさんとシンは?」針山が聞いた。


「まだわかりません。あっ、待ってください。シンは……アイランドに入ったようです!」


「そうか、良かった。……で、タカハシさんは?」




 ゲーミングチェアに座る人物、すなわち、先ほどまでシンが入っていたタカハシの抜け殻は、微動だにせず、固まったままだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る