28 再起動
夜明けが近づいた。俺はタータとラモンを起こさないように、静かに寝床を出た。
タータとラモンはぐっすり眠っている。
俺は、タータとラモンに、心の中でお別れを言った。
俺は音を立てないように気をつけながら、キャンプを後にした。
夜明け前のアリアンナ街道は、冷え込んでいた。身体に震えがくる。街道は東西にまっすぐと続いている。
北の方角に森があった。俺は、森に向けて歩いていった。月明りを頼りに歩く。
やがて森の入り口にたどり着いた。俺は森の中に入っていった。夜明け前の森は静寂に包まれていた。虫の声すらしない。時折、遠くからカラスの鳴き声が響くのみだった。
ある程度森の中に入った所で、俺は足を止めた。そして手近な大木の根元に腰を落ち着け、木の幹に寄りかかった。
間もなく夜明けだ。
もうすぐ、俺はアイランドを去るのだ。いろいろあったが、楽しくて充実した毎日だった。
薬草屋の仕事はやりがいがあった。……タリアは大丈夫だろうか。俺がいなくても頑張るだろうか。タリアにお別れの言葉も言えずにアイランドを去ることが残念だ。
そしてマケラにも。マケラは、俺がトンビ村に来てからずっと俺を支えてくれた。そして、マケラが窮地に立たされている時に助けたのはこの俺だ。アイランドを去る前に、一言挨拶がしたかった。
……現世に戻ったら、俺は何をしたら良いのだろう。失業中の俺は、現世に戻ってもやることがない。しかし、とりあえずアイランドにいた日数分の報酬を貰えるはずだ。正確な金額はわからないが、一千万円を超えるに違いない。それだけの金があれば、しばらく仕事をしなくても暮らしていけるだろう。
俺の留守中に、猫のにぼしの面倒をみていてくれたユキに、何かお礼をするのも良いかもしれない。ディナーに誘ったら、ユキは来てくれるだろうか。
東の空の方向が、わずかに白み始めた。もうすぐ夜が明ける。
さらば。アイランド……。
その時だった。
ゴゴゴ…と、地響きが轟いた。
まさか……! 地震だ!
これが再起動なのか? それとも関係ないのか?
やがて地面が大きく揺れはじめた。かなり大きい。大地震だ。
大木がユサユサと揺れている。今にも倒れてしまいそうな勢いだ。
俺は寄りかかっていた木の幹にしがみついた。
なんなんだこれは?!
大きな揺れが続く中、突然眩いばかりの閃光がきらめいた気がした。次の瞬間、辺りはまるで照明が落とされたように真っ暗になった。何も見えない。
暗闇、というより、無? ……どうなってるんだ一体!?
俺は暗闇、ではなく、“無”に身体を蝕まれていった。自分の身体とそれ以外の境界線がぼやけてくる。大きな揺れはまだ続いている。
気が付くと揺れが収まっていた……というより、揺れているのかいないのか、よくわからなくなっていた。
そして次の瞬間には俺は、“無”の中で渦に巻き込まれていた。まるで、洗濯機の中に放り込まれたような感覚だ。……苦しい。その渦から脱出することもできず、もがき続ける。
しかし、俺の努力は何の結果も生み出さなかった。
俺は気を失っていた。
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