22 旅の準備




 ドゥルーダの屋敷を出て、馬車を使い宿に戻ると、時刻は夜の十一時を回っていた。タータはすでに帰ってきており、隣の部屋で眠っているようだった。俺はベッドに入り、スマホを取り出してSMSを確認した。ハリヤマからもユキからもメッセージは届いていなかった。俺は眠りについた。




 翌日、俺とタータは帰路につくためダマスの港からトンビ村行の定期便に乗り込んだ。天気は良く、風も心地よい日だった。タータは昨晩、薬草師協会の会長の家で夕食に招かれ、会長の一人娘と意気投合したそうだ。ダマスの街に友達ができた、と喜んでいる。


「とても楽しい旅だった」船のデッキで風に吹かれながら、タータが言った。


「それは良かった。タータはトンビ村を出るのは今回が初めてだったんだね」


「そうよ。これからも、また私は外の世界に出て旅がしたいわ。ずっとトンビ村の中に籠っているなんて、嫌なの。……冒険がしたい。探検がしたい。そうそう、ダイケイブにも入ってみたいわ」


「ダイケイブはおすすめしないな。ゴブリンやオークがいる。危険な場所だよ」


「でも、危険があるってことは、刺激があるって事よ。ダイケイブの奥深くには財宝が隠されているんでしょう。それを探しに行くって、素敵よ。ダイケイブだけじゃないわ。ノバラシ河を渡って、ケム湖の先にも行ってみたいし、東の国にも行ってみたいわ」


「東の国か……。実はね、昨日大魔法使いドゥルーダと会って話をしたんだ。俺はこの後トンビ村に帰ってから、旅の支度を整えて、東の国まで使いに行ってくることになった」


 タータが目を輝かせて言った。


「本当? 私も連れて行ってくれるでしょう?」


「いや、連れて行かない。連れて行く理由がないし、タリアが許さないだろう」


「えー! そんな。連れてってよ。私魔法使いよ。きっと役に立つわよ」


「だめ」




 その後もタータにしつこくせがまれたが、俺は首を縦に振らなかった。するとそれからは、タータは船旅の間中、仏頂面で不機嫌になってしまった。しかし、タータを連れて行くわけにはいかない。長い旅になるし、遊びではないのだ。それに本当にタリアに怒られる。




 船は四日かけてトンビ村に到着した。俺はタータを家まで送り届け、その足でマケラ邸へと向かった。




 そしてマケラに、ダマスの街に行きドゥルーダと会合してきた事を報告した。


 ザウロスの不気味な護符を処分するためには、遥か東の地バクタにいる大祈祷師ルベロに呪禁の護符を作ってもらう必要があることを話した。そして、俺がバクタへ行き呪禁の護符を入手してくる事を、大魔法使いドゥルーダから依頼されたことを伝えた。




「旅の支度が出来次第、私はバクタに出発しようと思っています。できれば、ラモンさえ良ければ、彼にも同行してもらえればと思っています。呪禁の護符を作成する儀式には、私か、ラモンか、マケラ様の参加が必要なのです。

 マケラ様は動けないでしょうから、私とラモンで行ってきたいのです。それに、私は馬を繰ることができません。ラモンに馬車を繰ってもらえれば、助かるのですが……」


「本来ならば、私も行くべき所だ。しかし私は村に残る必要がある。協力できなくてすまない。……ラモンには、私から頼んでみる事にするよ。大変な仕事をさせてしまうことになるが、どうか頼む」


「わかりました。必ずやり遂げます」




 マケラは、馬車と、旅の間の食糧の手配をしてくれることになった。


 バクタは、東の国バクハードの首都である。ちなみにトンビ村があるこの国は西の国エスキリアだ。トンビ村を出て、南下すると、アイランド南部の地を東西に連絡するアリアンナ街道に出る。街道をひたすら東にいくと、エスキリアとバクハードの間で両国の交易の中間地点となっているヤーポの街に出る。ヤーポの街を通り抜けて、さらに東へと進むと、目的の地バクタの街へとたどり着く。

 スマホの地図アプリで確認したところ、距離としては数百キロの行程になる。馬車のスピードがどれくらいなのか、俺には見当がつかないが、行って帰ってくるだけで数週間はかかるだろう。




 マケラの屋敷を出て、俺はタリアの店に寄り、タリアに事情を説明した。


「旅の準備が出来次第、出かけることになるよ。またしばらく仕事に出れないけど、迷惑ばかりかけて申し訳ない」


「あなたも忙しい人ね。でも、大魔法使いの頼みなら仕方ないわ。気をつけて行ってきてね」


「そうそう、タータも一緒に行きたいと言ってきたのだが、駄目だと断っといたよ」


「タータは本当に好奇心旺盛な子ね。もちろん、ダメよ。断ってくれてありがとう。私からも言って聞かせるわ」




 旅の準備は、数日後に整った。ラモンは旅の同行を快諾してくれた。


 マケラが手配してくれた幌付きの馬車に、数週間分の水と食糧を積み込み、大魔法使いドゥルーダからの大祈祷師ルベロ宛の手紙を載せた。ラモンの弓と剣、そして、俺の短剣。マケラからは、餞別として金貨十枚を預かった。また、タリアからも餞別をもらった。何かあった時のためにと、回復薬や毒消し草他、袋一杯に店の在庫を入れてもらった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る