04 処分の仕方




「プッピよ。よく来たな」マケラは笑顔で俺を迎えた。元気そうだった。


 夕食はマケラとノーラと俺の三人でとった。相変わらず豪勢なメニューだった。

 ノーラは、マケラが無事に戻って来た事をとても喜んでいた。


「父が無事に帰ってきたのは、プッピさんのおかげです」


 帰還した当日もノーラは俺に何度も頭を下げたが、今日もノーラは感謝の言葉を何度も口にした。


 ノーラは、マケラが家を留守にした数週間の間、マケラにかわって村の取り仕切りを立派にこなしていた。今後は、マケラも仕事の一部を引き続きノーラに任せていくようだ。




 夕食が終わると、いつものようにノーラは俺とマケラに挨拶して食堂を去った。

 俺とマケラは、居間のソファにうつり、ワインを飲みながら話をした。


「プッピよ。疲れはとれたか?」マケラは俺に聞いた。


「はい。大丈夫です。マケラ様はどうですか?」


「長いことザウロスに囚われていたので、体が今一つ言う事を聞かなかったのだが、今日も一日休んで、だいぶ疲れがとれてきた所だよ。もう大丈夫だ」


 マケラは二週間以上、ザウロスに囚われていたのだ。しかもただ幽閉されるのではなく、心を囚われていたのだ。


「ザウロスに心を支配されている間は、言葉では表現できないほどの苦痛を感じていたよ。自分の心の中に誰かが入り込んできて、支配される気分がわかるか? それはもう、最悪だった」


 マケラは目を閉じている。


「私という存在が、私の体から押しのけられているのだ。ザウロスが私の体を自由に操っているのを、私は心の片隅でただじっと見ている以外になかった。私は何もできなかった。プッピが私を助けてくれなかったら、私は早晩死んでいただろう。」


「しかし、マケラ様が教えてくれたのですよ。本が鍵だと。そして、その本を取り出してくれた。だから私はその本を奪って短剣を突き立てることができたのです。」


「それがな、私は全く覚えていないのだよ。恐らく、私の中の無意識が、ザウロスに心を支配されている私を無理やりに動かしたのだろうな。

 気が付けば、茫然と立ち尽くす私の目の前を、苦悶の表情を浮かべたザウロスが必死に這っていた。そして家を出て行った。

 その時初めて、プッピがザウロスを追いかけてゆっくり家を出て行くのに気づいたのだ。私は悟った。解放されたのだと、プッピが私をザウロスから開放してくれたのだとな」


 マケラはワインを一口飲み、話を続けた。


「助けに来てくれなかったら、私は死んでいた。いや、もしかしたら、死ぬことすら許されなかったかもしれんな。とにかく、ありがとう。何度礼を言ったかわからないが、何度でも言うよ。ありがとう」


「マケラ様が戻ってこられて、本当に嬉しいです。」俺は言った。そして、本題に入った。




「ところでマケラ様、今日は、相談したいことがあって来たんです」


「うむ。わかっている。護符だろう」マケラは察していたようだ。


「そうです。ラモンがザウロスの胸にミスリルの矢を突き刺すことに成功して、ザウロスは死にました。ところが、ザウロスが死んだ後、死骸は砂となって消え去り、後に残っていたのは一枚の護符でした。私は、放置していくのは不適切だと思い、護符を持ち帰りました」


「これから、その護符をどうするか? だな」マケラは腕組みをしてそう言った。


「そのとおりです。燃やしてしまって良いものなら、すぐにでも燃やします。でも、そんな事をしたら逆に悪い結果になってしまうのではないかと、躊躇しています」


「護符はザウロスが消え去った後に残されたものだ。適切な処分の仕方を考えなければならないと思う。そうでなければ、ザウロスの復活を助ける形になってしまう可能性があるからな。

 少なくとも、あそこに放置してこなくて良かったと思うぞ。ダイケイブの奥深くにザウロスの護符を放置して帰るなど、絶対にとってはならない選択肢だったと思う。……しかし、いずれにせよ、これからどうしたものか……」




 マケラはしばらく考え、そして言った。


「大魔法使いドゥルーダに護符を託そう。どのみち、ザウロスの息の根を止めるというドゥルーダとの約束を完全に果たせなかったことを伝えに行く必要があるしな」


 ドゥルーダの教えはこうだった。ザウロスの息の根を止めるには、まずはミスリルの剣を胸に突き立て、その場で杖を燃やせ、と。

 しかし俺達は、ザウロスを殺すことはできたが、杖を燃やすことまで出来なかった。

 それをする前に、あっという間にザウロスの死骸は杖もろとも砂になって消えてしまったのだ。

 ドゥルーダに、教えのとおりに貫徹することができなかった旨を伝え、これからどうすれば良いかを聞く必要があるだろう。




「私は近日中に再びダマスの街へ行こうと思う。プッピも付き合ってくれるか」


「わかりました。行きましょう」俺は言った。


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