05 進行状況




◆『タカハシさん、お疲れ様です。ハリヤマです』


◇『お疲れ。どうしたの?』


◆『今日はプログラミングの進行状況についてご報告です。タカハシさんを元の世界に戻すためのプログラムなのですが、現在チームで総力をあげて進めています。

 しかし、正直に言いますが、難航しています』


◇『六ヶ月で元の世界に戻るのは難しいということかい』


◆『そうです。大変申し訳ありません。当初は最短で六ヶ月、と申しましたが、もっとかかりそうです(汗)』


◇『やっぱりね。そうだと思った。どれくらいかかりそうなの?』


◆『正直に言います。私共も、まだ見当がつけられない状況です』


◇『随分話が違ってくるな』


◆『申し訳ありません。プログラムの構築にネックとなっているのは、タカハシさんの安全面なのです。

 タカハシさんがアイランドにいる状態のまま、タカハシさんを戻すプログラムを作るのは、当初考えていた以上に困難を極めています。

 仮に元の世界に戻すプログラムを実行して、もしそこで失敗したらタカハシさんの意識が消えてしまうことになります。

 それだけは絶対に回避しなければならず、そうした安全面をクリアするためのプログラム構築が、難航している次第です』


◇『失敗すると、俺の意識が消える? 消えるって、どうなっちゃうの?』


◆『文字通り消えてしまう可能性があります。電気を消すみたいにフッと、タカハシさんの意識が消えてしまい、私共には手繰り寄せられない所に行ってしまうと、その時は、もう手の打ちようがありません』


◇『失敗すると死ぬってことか?』


◆『いえ、死ぬのとは違います。逆に言うと、永遠に死ななくなる、とも言えます。

 タカハシさんの意識がアイランドのプログラムのどこかで、永遠に彷徨ってしまうような状況が考えられる、ということです』


◇『なんだか死ぬより恐ろしいことじゃないかそれは』


◆『そうなのです。それだけは避けなければならない。そのためには、まだもうしばらくプログラムを精査する時間が必要なのです。申し訳ありません』


◇『困るよハリヤマちゃん。頑張ってよ』


◆『はい、頑張りますので、もうしばらくお待ちください。

 そして、それに関連して、一つ相談があるのですが……』


◇『なんですか?』


◆『タカハシさんの意識を再構築するプログラムを進めていくために、システムを一度再起動したいのです』


◇『ほう。それは、何か問題があるの』


◆『再起動も、先ほど説明したリスクと同じようなものがあります。可能性は低いと思いますが……。

 システムを再起動するということは、タカハシさんも再起動されるということなんです』


◇『前もそんな事言ってたな。ちょっと待って。俺自身を再起動するっていうのが、意味がわからないのだ。意味がわからないことにOKを出すわけにはいかないよ』


◆『今現在、タカハシさんの意識は、アイランドプログラムの中に存在しています。そのアイランドプログラムをいったんOFFにして、再びONにするということです。

 ですから、もちろんタカハシさんの意識も、いったんOFFになり、再びONになるのです。

 ……正直に言いますが、リスクはあります。しかし、プログラムを完成させるためには、再起動は必要なプロセスの一つなのです』


◇『だから、いったい俺はどうなるんだよ。再起動がかかってる間、俺は一回死んでまた生き返るわけ? それとも、また違うことになるのか? 再起動がかかってる間の俺はどんな状態になるんだ? とにかく、リスクがあるような事は避けてほしい』


◆『再起動中にタカハシさんの意識がどうなるかは、正直言ってわかりません。誰も経験したことがないからです。

 もしかしたら、あっという間に終わってる、というような事になるかもしれませんし、逆に再起動中に何らかの苦痛を味わうことになるかもしれません。そこはなんともいえないのです。

 ……やっぱり、再起動は嫌ですよね。わかりました』


◇『嫌です。当たり前です。怖いもん』


◆『再起動をかけずにプログラム構築を進める方法を考えるよう、チームに言っておきますね』


◇『お願いします』




*   *   *   *




◆『タカハシさんこんばんは!』


◇『ユキさんこんばんは!』


◆『元気にしてますか? 私は元気です。タカハシさんの体も、変わりなしです!』


◇『俺の体の管理が仕事なんて、本当に申し訳ないなぁ』


◆『大丈夫ですよ! 結構楽しんで仕事してます(笑)』


◇『しかし不思議な感覚だよ。俺はここにいるのに、本当の俺の体は植物人間になってユキさんの目の前にいるんだよね。いまだにこの感覚には慣れないよ』


◆『私も不思議な気持ちです。タカハシさんと直接話したことって、一回しかないんですよね。

 それ以来、私はタカハシさんの寝顔を毎日見ています。いつかまた、タカハシさんと直接お話がしたいです』


◇『そうだね。ハリヤマに言っといてよ。今日ハリヤマから、もうしばらく元の世界には戻れそうにないと報告を受けたよ。なんだかなー』


◆『でも、実際の所どうですか? タカハシさん、早くこっちの世界に戻ってきたいですか? 』


◇『それなんだよね。ユキさんには正直に言うけど、俺別に、すぐに戻れなくても良いと思ってる。それなりにこっちで暮らすことができているしな』


◆『やっぱりそう思われてるんですか(汗汗)なんだか複雑な気持ちです。

 私はいつまで寝ているタカハシさんの体の管理をするのかなぁ。

 私はタカハシさんに早く戻ってきてほしいと思っていますが、タカハシさんは、そっちの世界で楽しそうですもん』


◇『楽しいかどうかはよくわからないけど……でも、元の世界に戻っても、俺はただのニートだしな。

 こっちではそれなりに遣り甲斐のある仕事を見つけてしまったからな。』


◆『猫ちゃんはどうするんですか? 猫のにぼしちゃんは? タカハシさんのこと待ってますよー!』


◇『そうだね。ユキさんとはこうしてSMSで会話できるけど、猫とは交信できないしな』


◆『そうですよ。早く帰ってこれることを祈ってます!』


◇『ありがとう。祈っててください。しかしどうなることやら……』


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