03 その後のダイケイブ




 翌日は朝からタリアの店に出勤した。




 ダイケイブの奥深くで魔物達を従えていたザウロスがいなくなったことで、店に運ばれる急患は減り、以前のような落ち着きを取り戻してきつつあるようだった。


 いずれにせよ、ダイケイブの探索をする冒険者達は後を絶たない。

 ザウロス無きあとも、しばらくの間は、ダンジョンの奥深くに眠ると噂されている財宝を目当てに、沢山の冒険者達がダイケイブに挑戦するに違いない。

 それに、ザウロスが放った沢山の魔物は、いまだ多くの数がダイケイブに棲んでいることから、タリアの店に急患が運ばれてくることが無くなるのはもう少し先の話になりそうだ。




 この日も、午前中は客も少なく暇だったが、午後には急患が運ばれてきた。馬車を繰るのは、ラモンとオルトガだった。


「やあプッピ、あんたも今日から仕事復帰かい」ラモンが言った。


「そうさ。お互い稼がなくちゃあな」


「ザウロスが死んでも、ダイケイブには沢山の魔物が残っているようだな。今日もダイケイブから負傷者が出ているよ。二人運んできたぜ」オルトガが言った。


「プッピ、あの地図を冒険者達に売りつけたらどうだ? 一稼ぎできるぜ」ラモンが言った。


「いや、勝手なことをしたらマケラ様に怒られるからやめておくよ」




 ダイケイブに行く冒険者達に、俺が描き写した地図を与えれば、ゴールまでたどり着くパーティが出るかもしれない。

 しかし、それが何になるというのだ。

 俺たちはダイケイブの地下四階、最深部まで行ったが、財宝など探さずに帰ってきた。

 あの地下神殿の奥に、財宝が眠っていたのかもしれないし、もしかしたら別のルートを辿って地下三階の深い所まで行けば、財宝があるのかもしれない。


 しかし、冒険者達、すなわちNPC(ノンプレイヤーキャラクター)にダンジョンの地図を売りつけることは、ゲームバランスを崩すことになりかねない。

 単にゲームバランスが崩れるだけなら、別に俺は知ったことではないが、ゲームシステムそのものの均衡を崩すことになれば、どうなるか予想がつかない。


 だいたい、俺はこの世界での金儲けなど全く考えていない。

 そんな事に興味がないのだ。

 強いて言えば、俺が興味があるのは、こうしてアイランドで過ごしている間に経過する時間に合わせて、一時間に三千円ずつ増えていく俺への報酬のことだ。

 ここに六ヶ月とどまれば、千二百万円が手に入るのだ。

 ゲーム内での金稼ぎなどに興味が出るわけがない。


 それに、マケラも地図のことを口外するつもりはないようだった。

 ザウロスが去った今、誰かがゴールまでたどり着き、それをきっかけに冒険者達が一気に村から退くようなことになると、それはそれで村の財政に影響が出るという所まで、マケラは考えているのだと思われる。




「なあプッピ。ザウロスのことだけどな。やはり俺は気になるのだ。ザウロスはまたいつか、生き返って戻ってくるのではないか。そして、俺達に報復するのではないか」ラモンが言った。


「俺もそれを考えている。しかし、少なくともしばらくの間は大丈夫だろう。ザウロスも簡単に戻ってこれるとは思えないよ」俺は言った。

 特に根拠があるわけではないが、少しの間は猶予があるだろう、と俺は思っている。




 この日ラモンとオルトガが運んできた急患は、この一組だけだった。人間の戦士二人だったが、二人とも軽傷で、傷口を縫合してやり、感染予防のための毒消し草を処方し、帰した。




 俺がダイケイブに行き、店を空けている間は、ルイダとピートが泊まり番を引き受けてくれていたが、今日は入院患者はいない。仕事が終われば皆揃って帰宅することができそうだった。


 ラモンの話によると、マケラは本日も屋敷で休養しているそうだが、元気にしているらしい。できれば早速にも、ザウロスが残した不気味な護符についてマケラに相談したいところだ。


 夕方、俺は馬車を捕まえ御者に伝令を頼んだ。近日中に屋敷を訪問したい旨をマケラに伝え、返事をもらって戻ってくるよう依頼した。


 ほどなくして御者が戻った。今日の夜屋敷に来られたし、との返答だった。




 仕事は順調に終わり、皆揃って店を出ることができたのは、まだ日が暮れてもいない時間だった。こっそりスマホを見て確認すると夜の六時だった。


 俺は馬車を使い、マケラの屋敷へ向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る