02 引っ越し
タリアに押されて、結局言葉に甘えることになった。
店は暇だったので、タリアが家の離れまで案内してくれた。
タリアの家は、店からそう離れていない近場にある、庭付きの綺麗な邸宅だ。先日父マルコスが亡くなってからは、四人姉妹で暮らしている。
離れは、庭の端に建っていた。外から見る分に、よく手入れされている建物だ。
タリアが離れの鍵を開け、中に通してくれた。そして、俺に鍵を手渡した。
「今日のうちに、宿屋から荷物を引き上げて住み始めたらいいわ。夕食も一緒に食べよう。……私はまた仕事に戻るから、もし何かあったらユリアかニキタに聞いてね」
タリアは仕事に戻って行った。
離れの内部も、きれいに手入れされていた。
家に入るとすぐに十畳ほどのリビングキッチンがあり、そこにはテーブルと椅子二脚が置かれていた。食器棚の中には、何組かの食器が入っていた。キッチンにも、鍋や薬缶など、最低限必要な物はすでにあるようだった。
リビングキッチンからドアを隔てて、寝室があった。ベッドの上にはシーツと毛布が準備されている。マトレスも厚い。
おまけに風呂とトイレもついている。完璧だった。
俺は手荷物を置いて、母屋のほうへ行き、ユリアとニキタに挨拶をした。
「今日から世話になります。よろしく」
「さっき、姉が来て事情は聞いたわ。何かあったらいつでも言ってね」
次女のユリアが言った。
「夕食の準備ができたら呼びに行くわ」
三女のニキタが言った。
俺は礼を言い、母屋を後にした。
そして次に水馬亭に行き、宿から荷物を引き上げた。今までは宿屋暮らしだったので、荷物と言ってもたいした量はない。今日からタリアの家の離れで暮らすにあたって、日用品など必要な物がいくつかあった。午後は雑貨屋に行き日用品を揃えることとしよう。
俺は昼食を繁華街の食堂で済ませた後、雑貨店に向かった。
村の中心部の雑貨店は、タリアの店からだと歩いて十五分ほどの場所にある、大きな店だ。ミゲルという男が経営している。
村の日用品のほとんどは、ダマスからの定期便で送られてくる物品を、この店とタリアの店がまとめて購入し、その一部を村の東西の雑貨屋に送っている。
タリアの店と、このミゲルの店が、村の物流の中心となっているのだ。
「こんにちは」俺はミゲルに挨拶をした。
「やあごきげんよう。プッピ、今日は何をお探しかな? ダイケイブに行って帰ってきた話は俺も聞いているよ。お疲れ様だったな。無事に帰ってきて何よりだ」
「ありがとう。実は、今日から宿屋暮らしを卒業することになってね」
俺はタリアの家の離れに住むことになった旨を話した。そして、着替え類や寝具類など、今日から必要な物をいくつか、ミゲルから購入して店を後にした。
離れは、もともときれいに手入れしてあったこともあり、夕方にはすっかり片付き、快適に住める環境が整った。
夜は母屋に呼ばれ、俺は四人姉妹と夕食を共にした。タータとニキタにせがまれ、俺はダイケイブでの冒険の土産話を披露した。特にタータが興味津々で俺の話を聞いていた。
「私も冒険に出てみたい」タータが言った。
「あなた、そういうの興味あるみたいね」ユリアがタータに言った。
「タータは好奇心が強いのよ」ニキタが俺に言った。
四人姉妹は、どちらかというとタリアとタータは顔立ちが似ていて、ユリアとニキタはあまり似ていなかった。ニキタとタータは話し好きで明るく、そんな二人をタリアと次女のユリアが微笑みながら見守る、という雰囲気だった。
ユリアとニキタは今のところ仕事はしておらず、家事を担っている。先日までは病に倒れた父マルコスの看病や介護が必要だったのだが、父亡き後は二人とも働きに出たい様子だった。
「プッピ、明日からは店に出てきてくれる?」タリアが俺に聞いた。
「もちろん、そのつもりだよ」俺は言った。
夕食が終わり、俺は食事の礼を言って、母屋を後にした。
離れに戻り、しばらく落ち着いてから、スマホを取り出して、SMSのメッセージを確認した。ハリヤマとユキから、それぞれ他愛のない内容のメッセージが入っていたので、俺はあたりさわりのない返信を送ってからベッドに入り、眠りについた。
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