Chapter09.再戦~重なる想い~

 オレたちが見守る中、レンたちとリツたちの戦いが始まった。

 深雪たちはレンとリウから話を聞いたのか、彼らを敵だと認識したらしい。


「よし、いっちょやってやるか! ……食らえっ!」


 ソレイユがそう叫んで銃を放つと、その弾丸は少女が連れていた巨大な猫の見た目をした魔物に命中した。


「……っよくも私の友だちを……! みんな……お願い……っ!!」


 彼女が手を振り上げると、他の魔物たちがみんなに襲いかかる。


「――“天空そらに弾けしは緋き焔,其を創りしは緋き疾風かぜ,紡ぎし灯火よ,はしれ!

 ……『バースト・フレイム』!!”」


「――“我が名の下に光を灯せ! 『グレウル』”!!」


 レンが素早く呪文を詠唱して炎を放ち、イビアも光を纏った札のようなものを投げた。


「彼は呪符使いのようだね」


 隣にいた朝がそう説明をしてくれる。

 小一時間ほど前に、札を投げて魔物から助けてくれたのはイビアだったのか、と今更納得するオレを余所に、二人の攻撃は見事ヒットし、魔物たちは倒れる。


「今だ、姫っ!!」


 更にイビアが叫ぶと、上空から刀を構えた黒翼が現れ、残りの魔物を薙ぎ払った。

 だが、それでも倒れていないしぶとい魔物もいて、そいつはターゲットを切り替えたのか、オレたちの方へと走ってきた。


「う、わあ!?」


 オレはとっさに剣を構えてリウとルーを守ろうとする。魔物は猪のような姿をしていた。


「――“『風障壁ウィール』”」


 だがその魔物は、朝の結界魔法によって阻まれる。


「よそ見してんじゃないよ!!」


「貴方の相手はこっちですヨ!」


 桜爛さんと深雪が、その猪型の魔物の背後から切りかかる。桜爛さんの両手には二対の剣、そして深雪の手には短剣が握れていた。

 二人の攻撃によって、魔物は倒れ空中に消えていった。


「た、助かったよ、朝。深雪と桜爛さんも」


 ほっと息を吐いて感謝を述べれば、朝は少しだけ微笑んで、深雪と桜爛さんはどういたしまして、と笑って他の魔物の元へと走っていった。



 一方、残りのカイゼルとリツはというと、二人で戦っていた。


「何だよ、今日はひよっこ勇者じゃねーのかよ!」


「……悪いな、ひよっこじゃなくて」


 リツの剣を軽やかにかわしながら、カイゼルは面倒くさそうに答える。


「てーか、お前! やる気あんのかよッ!?」


 自身の双剣をあまりにも軽々しくかわすからか、リツは随分と怒っているようだ。

 しかしそんな彼にカイゼルはただため息をついただけだった。


「……ねぇな。面倒くせぇ」


「くっそ……っ!! 腹立つ!!」


 リツが剣を思い切り降り下ろすが、カイゼルはまたあっさりとそれを避けると、彼の背後に回った。


「一発食らわせてやるよ」


 そう言うやいなや、カイゼルはリツの背中に思いっ切り蹴りを入れた。


「い……ってぇぇっ!?」


 うん、痛いだろうな、とよろけながらも瞬時にバランスを取り直したリツを見ながら、オレはそんなくだらない感想を抱く。

 すると彼はカイゼルから一度距離を置き、剣を構え直した。


「あーっ!! ちくしょうっ!! 本気モード!!

 ――“生命いのち溢れるこの地の神よ,怒れ!! 『グランド・グラビティ』”!!」


 早口で呪文を詠唱し、リツは剣を再び降り下ろす。

 すると。


 ――ドォォォォン!!


 とても大きな音がして地面が抉れ、砂塵がオレたちの視界を埋め尽くす。彼はどうやら魔法剣士というものだったらしい。


「カイゼルおにいちゃんっ!!」


 あまりの威力に呆然とするオレとは正反対に、ルーが悲鳴をあげる。

 やがて土埃が晴れると、砂に汚れながらも何とかギリギリ避けたらしいカイゼルの姿が見えた。

 よかった、と安堵するルーに頷いて、オレは再び彼らを見る。


「……ちっ……やるじゃねーか、ガキ」


「うっせーよ不良」


 まるで子供同士の喧嘩のようだ、と苦笑いを浮かべたのも束の間、オレはあることに気付いてしまった。


 先ほどリツは『本気モード』と言っていた。ならば、オレと戦ったときは『本気ではなかった』ということ……なのだろうか……?

 オレは本気だったのに……。オレなんかの『本気』と彼の『本気』とは、こんなにも違うものなのだろうか? これが現実だというのか? オレは、所詮ただの……――


「よる」


 不意に、そっと朝が手を握りしめてくれた。……暖かい。

 彼の深紅の瞳が優しげに細められている。


「大丈夫だよ、夜」


 そうだ……大丈夫。朝、お前がいれば、オレは……――


(どんなことだって、乗り越えられる。きっと……)


「……リツ!!」


 オレの呼び声に、カイゼルと戦っていたリツが怪訝そうにオレの方を見やる。


「……何だよ、ひよっこ勇者」


「今度は……オレ『たち』が相手だ」


 相手を信じる気持ち。相手を想う気持ち。それらが『力』となって、オレたちを『ひとつ』にする……――


「!? “同化”……!? 方法をマスターしたというの!?」


 光に包まれながら、リウの声を聞いた。


 ――ずっと、ずっと独りだったんだ。ずっと、ずっと泣いていたんだ。

 お前が現れて、手を差し伸べてくれて。オレは、ただ、それだけで……――


 目を開けると、オレはオレであり、オレではなくなっていた。

 ……“同化”。今のオレはオレであり、朝であり、全く別の存在だ。


「な……何、だよ……お前……っ!?」


「これは……なんなの……?」


 目の前のリツや獣使いビーストテイマーの女の子が驚いている。もちろん、リウやレン以外の仲間たちも。


『……行くぞ、リツ!!』


 オレでありオレでないモノは、リツとの間合いを一気に詰め、剣で斬りかかる。


「――ッ!?」


 リツはとっさに避けたが、先程まで彼がいた場所はオレたちの攻撃で深く抉れていた。


 +++


「な……何、ですか……アレ……」


 魔物たちを振り切って、深雪はリウに駆け寄りそう尋ねた。


「あれは、“同化”。夜と朝の特殊能力みたいなものよ」


「特殊……能力……?」


 彼らを見やりながら反芻すれば、少女はどこか悲しみを湛えた微笑を浮かべながら、なおも説明を続けた。


「……“双騎士ナイト”の中でも、あの二人は特別だからね。

 対であるふたりが“同化”する事で、彼らは初めて“騎士ひとり”になれる」


「ふたりで……ひとり……」


 彼らは、何者なのだろうか。深雪はじっとその存在を見つめた。


 +++


「……くっそぉ!!

 ――“全ての魂眠りし大地よ,我が剣に力を宿せ!! 『ソード・グラ……』”」


「リツ……撤退する」


 激昂したリツが、こちらへ攻撃をしようと詠唱を始める。だが、それは獣使いビーストテイマーの少女によって遮られた。


「な、何でだよセルノア!?」


「このままだと……負ける。一旦、引き上げるの」


「――ちッ!!」


 セルノア、と言う名前らしい少女の提案にしぶしぶ納得した様子のリツはオレたちから飛び退いて、彼女が呼んだ巨鳥に一緒に飛び乗り逃げて行った。


「ちッ。逃げ足の早い奴らだな……」


 近くにいたカイゼルの言葉を聞きながら、オレの意識は遠のいた……――



(ふたりなら、どんな敵が来ても大丈夫。……『オレ』は、そう、信じていた)



 Chapter09.Fin.

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